見なかった夢
「今日か…」
いつもと変わらない時間に目を覚ます。
夢は見なかった。
昨日と今日。
「ん? メールか?」
不意に携帯電話に目をやる。
携帯電話には何かの履歴が残っている。
携帯電話ロックを解き確認をする。
「亜子から…。」
携帯電話の画面にはメールのお知らせ。
送り主は芳野。
「あいつはまだ、俺の事を覚えているんだな」
存在がなくなる。
それはつまり、記憶から消される。
知っている人が知らない人になる。
「え~と」
携帯電話の画面には『今日の夕方、学校の屋上に来て』の文字。
「夕方か」
河野は夕方まで、存在が維持できるか分からない。
もしかしたら、もうすぐ消えるかもしれない。
返信をする。
夕方まで、河野隆之として存在できるか。
それでも約束をする。
「それじゃ、何処で時間を潰すかな?」
朝食を済ます。
テレビをつけて朝の特番を見る。
特に面白くはなかった。
そうして過ごしているうちに、昼を過ぎた。
どうやら、存在もまだ維持できている。
時々、体が透けているような感じがするけど、問題はないだろう。
存在が消えるということは、死とは違うのだろう。
「何でこんなに落ち着いているのだろうか?」
現実ではありえないことだ。
それなのに、落ち着いている。
前から分かっていたような。
そんな感じ。
「不思議な感じだ」
そんなことを考えながら、家を後にする。
待ち合わせまではまだ時間がある。
しばらく外で時間を潰す。
街、公園、川。
今まで行ったことのある場所を回る。
それは創られた過去の記憶だとしても、懐かしいものがある。
不思議なものだ。




