木之下 光#04
「少女は正確な事は教えてくれなかった」
「でも、何か教えてくれたのか?」
「そうだ」
「どんな人なの?」
「そうだな…」
木之本が河野を見る。
何かを考えているようだ。
そして、ゆっくりと口を開く。
「河野みたいな奴だな。少女の言葉を整理するなら。」
「俺?」
「こんなどこでもいそうな男が、光の大切な人?」
冗談交じりに言う芳野。
やや聞き捨てならない言葉が聞こえたが、一度飲み込むことにした。
それよりも表情や言葉には見せないが、精神が揺れている。
夢の言葉は、河野に向けられた言葉。
「今年の桜開花予想は三月半ばだ」
「なんでそんなこと知ってるの?」
「俺予報だな」
「当てにならないな」
「心配はいらない、正確なデータを元にしている」
正確なデータ。
一体なんなのだろうか?
でも、木之本の予報が正しいというなら。
「桜が咲いて、河野に異変が起きたら、少女は凄いな」
「なんでだ?」
「将来は占い師、もしくは、預言者だ」
「いわれた身にもなってくれ、なぁ亜子。」
「た、たしかにね」
芳野の声に元気がないように聞こえる。
気のせいだろうか?
何か深刻な事を考えているような、そんな感じだ。
「そう当たることではないだろうがな」
木之本はそんな言葉で話を締める。
そして、感想を促すように二人を見る。
「まぁ今までの中では面白かったよ。作り話っぽかったけど」
「そうだね。木之本にしては珍しくね。作り話っぽかったけど」
「珍しくって言うのが余分だし、作り話でもないからな」
そんなことを言ってるが、満足そうな顔をしている。
感情を表に出しやすい奴だ。
見ただけで感じ取る事ができる。
「さて、授業だ」
時計を見ると、授業の始まる時間を指していた。
各自に適当に座る。
そして、いつもと変わらぬ態度で授業を受ける。
河野だけは、他の事を考えているようだった。
放課後になり、急ぐこともなく帰路に着く。
その時も、朝のことを考えていた。
木之本が言った、朝の言葉。
確実にそれは河野を指している。
「桜が咲いたらどうなるんだ?」
ただ、それだけが疑問。
それだけが、謎に包まれたまま。




