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74話 王子を操るのはあの人です。

「今、王宮は次期王位争いでモメにモメているんだ」


 王女様、マリアンちゃんは王国中枢の現状を語ってくれました。


『初代を超える魔力を持つマリアン王女こそ、次代の王にふさわしい』


 双子の姉、マリアンを推す王女派。


『いやいや、知性と品性、そして剣の才能に優れたエリオン王子だ』


 双子の弟、エリオンを推す王子派。


 貴族の言い分はまっぷたつに割れ、バーカバーカと互いを罵りあっているのです。


 長子のマリアンちゃんのほうが継承権は優位なわけですが、本人に王を継ぐ意思はありません。


 だからわざと品性を疑われるような口調や態度で、後見人を気取る貴族達を諦めさせようとしてきたんです。


 しかし、そう目論見通りにはいきませんでした。なにせ派閥争いは、マリアンちゃんが物心つく前から続いています。


 王女派の貴族達は今さら鞍替えするわけにもいかず、むしろ頑なに、強引な手で王位争いに決着をつけようとしているらしいのです。


「オレが結界を更新して帰れば、三十年に一度の祝賀会【月を見る会】が王宮で開かれることになっている。王子派が肩身を狭くしているこの日に、王女派の連中は父に嘆願するつもりなのさ。『今こそマリアン王女に王位を譲る時だ』ってな」


 いい迷惑とばかりに吐き捨てるマリアンちゃん。まー、王女派とか称してますけど、話を聞く限りでは全然マリアンちゃんのことなんて考えてなさそうですしね、貴族の方々。


 要は勝ち馬に乗って、甘い汁を吸いたいという魂胆なのです。


「だが、そんな企みなんざ、王子派にゃ筒抜け。奴らがただ指くわえて見てるわきゃねェんだ。嘆願がなされる前に、オレを排除しようとするに決まってる」


 排除――つまり、暗殺ってことですか?


「いくらなんでも、そこまでしますかね……? だってそれ、エリオン王子にバレたら激怒されません? 王位を争うライバルである前に、双子の姉弟なんですから」


 マリアンちゃんが物事を悪い方へ悪い方へ考えるクセを持っているのは、迷宮内で身に染みてわかってます。


 だから今回も考えすぎでは、と疑ったのですが、マリアンちゃんは「本当にそうならよかったんだがな」と自嘲気味に口を歪めます。


「ティアレットに住んでいるなら、ハンナも【剣闘王】バゼルを知っているだろう?」


 なんと、思いがけない名が登場しました。もちろん、知っているなんてもんじゃありません。


「あの人には私、めちゃくちゃ嫌がらせされてますよ。学園も追い出されましたし、このあいだは店の悪い評判を流されましたし。はっきり言って、私にとって理事長は天敵ですよ」


「そうなのか? なら、ヤツのやり口はよくわかるだろう? 今、王子派を率いているのはあの男だ」

「ああー……」


 理事長の冒険者としての名声は王国中に響き渡っています。おまけに学園の運営や、ティアレットでの商売の手腕を買われ、今では政務指導役という役職を与えられているそうです。


 そして同時に、エリオン王子の剣の師でもあります。


 理事長の強さに王子は心酔し、言うがままになっているのだとか。


 王子派が勝利すれば、エリオン王子を傀儡とした理事長の天下が始まる――うへえ、想像しただけで寒気がします。


 エッグタルトなんて間違いなく、秒で潰されますよ。秒で。


「オレはエリオンに王位を譲る気だった。が、今のあやつり人形になったエリオンに国を任す訳にはいかねェ。バゼルの糸をなんとか断ち切りたいんだよ」


 なるほど、王子の性根を叩き直してほしい、と言われた意味がなんとなくわかってきましたよ。あの理事長の思想に毒されているのなら、ろくな性格に育ってないでしょうからね……。


「私が使うのはあくまで鈍器です。糸を断ち切るのには向いていないかもしれませんが……」


「――糸を動かしている指を叩き折ることならできるかもしれない。だろ、ハンナ」


「ええ。それなら望むところですよ」


 あの高慢ちきな理事長に負け顔させられるかもしれない。それだけでも充分、協力する動機になりえます。


「でも、具体的にはどうやるんです? 力ずくで叩きのめすのは、さすがにマズいですよね?」


 いくら王女様のお許しが出ていても、ただで済むとは思えません。それなりに手順を踏む必要があるでしょう。


「祝賀会の最中、バゼルはオレを殺そうとなにか手を打ってくるはずだ。それを阻止し、可能なら黒幕がバゼルだって証拠を掴んでほしい。暗殺者を生け捕りにして情報を吐かせるとかな」


「なるほど……」


 鈍器スキルは【土壁造】を中心に、防御のスキルも充実しています。暗殺者が弓を使ってきたならそれで守れますし、魔法使いなら【物理返し】で放たれた魔法をはね返せばいいです。


 次に暗殺者が逃げたら、すかさず鈍器スキルで檻や落とし穴を作って捕まえる。


 ふむふむ、意外と私に向いてる仕事っぽいじゃないですか。


 あとはどうやって情報を吐かせるか、ですが……。


「ミラさん、薬で暗殺者に口を割らせることってできます?」


 訊ねると、ミラさんが小さく首を傾げます。


「自白剤? 苦しむやつと苦しまないやつ。どっちがいい?」

「それはどっちでもいいですけど……、要するにできるんですね?」

「もちろん。ミラを連れてってくれるなら」


 薬だけください、って頼んでも絶対に許してくれませんよね……。


「わかりました。一緒に行きましょうか」

「やった。ミラ、がんばる」


 いつもの無表情で、ぐっと拳を握りしめるミラさんです。


 まあ……、問題ないでしょう。今回はダンジョンで魔物と戦ったりするわけじゃないですし、ミラさんに危険が及ぶ可能性はかなり低いですから。


「暗殺者を自白させて……、ついでにハンナがミラをどう思ってるかも自白させる……!」

「なんのついでですか!?」

「安心して。苦しまないやつを使う」

「そういう問題じゃないんですけど!」


 全く。私がミラさんをどう思ってるかなんて決まりきってるじゃないですか。言わせないでくださいよ、もう。


「うううう。じゃあやっぱり、ガレちゃんがお留守番っスか」


 しゅしゅーん、とガレちゃんのケモ耳が垂れ下がります。


「ミラさんが来る来ないにかかわらず、ガレちゃんのお留守番は確定事項です」

「くぅーん……」

「くっ。捨て犬みたいな顔してもダメなものはダメです! 生きてるのがバレて、処刑されちゃってもいいんですか?」

「わかったっス。今回は大人しくしてるっス……」


 ああ、かわいそうなガレちゃん……。お土産は大量に買ってきますからね!


 って、私も大概、ガレちゃんのかわいさに毒されていますね。理事長の強さに毒されているエリオン王子を笑ってはいられませんよ。


 私の注意を引き戻すように、マリアンちゃんがごほん、と咳をします。


「バゼルがみっともなく失脚すれば、エリオンのやつもさすがに目を覚ますはずだ。それでもまわりに振り回される、頼りない男のままだったなら……。ハンナ、テメェの鈍器でアイツを根っこから叩き直してほしい。じゃなきゃ、安心して国は任せらんねェからな」


 なかなかに荷が重い仕事ではあります。しかし、やり甲斐はたっぷり。


 理事長を倒し、おまけに国の将来をよりよくする。最高じゃないですか。


「やってくれるか、ハンナ」


「あたぼーですよ、王女様。(ドン)と任せちゃってください!」


 私は自分の胸を叩きます。この仕事を成功させれば、特例ランクアップもぐぐっと近づきますしね。評議会から理事長を追い出し、王族の全面協力を取り付けられるんですから。


「ふふ。ハンナならそう言ってくれると思ったぜ」


 マリアンちゃんが手を伸ばしてきます。握手かな、と思ってこちらも差し出したら、ぐいっと引っ張られて手の甲にキスされました!


「にゃっ!」


 お姫様がやられるやつを、お姫様にされてしまいました!

 してやったりという笑みを浮かべるマリアンちゃん!


 ぐぬぬ、不意打ちとは卑怯です!


「じゃ、そろそろ戻るとするか。スラッド達も心配してる頃だろうしな」

「心配って……、ここに来ることは、ちゃんと伝えてますよね?」

「いいや? 【転移】も試してみたらできた、ってレベルだからな」


 マジですか。それは心配しているどころの騒ぎではないような気がしますが……。


「早く戻ってあげてください。向こうでみんな、胃をキリキリさせてるに違いありません」

「ん、わかった。また【転移】で迎えに来るから、それまではティアレットで待機しててくれ。じゃな」


 そう言って手を振ったかと思えば、次の瞬間、マリアンちゃんは忽然と姿を消しました。ほんと転移の魔法、便利すぎですね。


「ん? マリアンちゃんが迎えに来てくれるということは――もしかして馬車で移動しなくてもいいってことですか!? やったー!」


「ええ……。ハンナと馬車旅、したかったのに……」


 ミラさんは不満げですが、長旅嫌いの私的には大歓迎。

 往復十日間も馬車に揺られるのは、さすがに辛いと思ってたんですよ! 


 グラン王家、様々です!

どんきです。バゼルが出てくるということは……、久しぶりにあの子達も出てきます。

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― 新着の感想 ―
[一言] らすぼすローゼリア説まである
[一言] また学園長か。しかしローゼリアはヤバイからな! 本性を知った時は底なし沼の辺に立たされたような感覚を覚えたぞ!
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