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70話 モチつきならぬ、ドラつきです。

 どう戦うか悩んでいるあいだにも、竜兵(ドラグーン)は遠慮せず攻撃を仕掛けてきます。


 ギャリリリリリ……! またしても、大剣で壁面を削り取りながらの一撃。刃と合わさり、無数の石礫が飛んできます。


 やっぱり狙って環境利用してますよ、この魔物。わざと剣を洞窟内にぶつけて、岩石で手数を増やしているんです。


「鈍器スキル【土壁造】!」


 隆起する岩石の壁。礫は防げたものの、遅れてやってきた大剣を食い止めるには厚さが足りません。


 ただ、壁は死角を作るには充分すぎました。私は地面にぴたりと伏せることで、壁を破壊して襲ってきた剣をやりすごします。


 ふー、あぶない。それにしても、大工の私に環境を使った戦いを挑むなんて、いい度胸してますよ。


 もう、こっちも対抗するしかありませんね。なんとしても「相手が悪かった」と思い知らせてやりたくなりました。すると、おのずと竜兵(ドラグーン)の倒し方も決まってきます。


 私はズ(ドン)、と地面に大ハンマーを叩きつけ、とある鈍器スキルを発動させます。


 罠を作る類のスキルですが、かなり規模が大きいことをやろうとしているので、普段より時間がかかりそうです。それに、竜兵が警戒しないような工夫も必要でしょう。


「王女様、音が大きい魔法ってなにか使えます? 耳がつーんとするくらいの」

「あァ? 爆裂系の魔法とかか?」

「いいですね、それ、撃ちまくってもらえると嬉しいです!」


「なんかわかんねェけど、魔石のおかげで魔力だけはありあまってる。いくらでも放てるぜ!」


 王女様の手のひらから、小さな光る球体がポポポポ、と大量に飛び出します。


「くらいやがれ! 【チェリー・ブラスト】!」


 それらはフワフワと空中を漂って竜兵の鎧まで辿り着くと、ドカンと弾けます。一発一発の爆発は小さなものですが、連続して当たるため、広間には凄まじい轟音が響き渡りました。


 大したダメージは与えられてないようですが、鱗の上で光球が弾ける感覚がよほど不快だったのか、竜兵はギロリと王女様を睨みます。


「おい、竜兵がこっちにガンつけてきてるんだが……」

「ええ、狙い通りです」

「テメェ、どういうことだ!? まさかオレが戦っている隙に逃げようってんじゃねェだろうな!?」


 相変わらず信頼ゼロな私……。もちろん、そんなわけはありません。


「鈍器スキル【特大(きね)】!」


 注意が逸れたのをいいことに、私はハンマーで改めて地面を叩きます。すると地面は円柱状に抉りとれて、ハンマーヘッドにぴったりとくっつきました。


 ただでさえ大きいハンマーが、何倍も大きな、岩石製の特大杵になりました。サイズは、竜兵の巨体に負けず劣らずといったところ。強度も充分、武器として使えそうです。


 まあ、普通に攻撃したら大きすぎるせいでスイングも鈍くなって当てるのが難しいんですけどね。そこはちゃんと作戦を考えてあります。


「オイ、どうすんだこいつ!」


 爆裂魔法を撃ち続けている王女様に、じりじりと近づいていく竜兵。


 しかし、大剣が届く距離まで迫ったところで、ピシリ、と竜兵を載せた地面がひび割れました。


「今です! 竜兵の足下にさっきの爆裂魔法を撃ってください!」


「くそ、いいように使いやがって! あとで覚えてろよ!」


 王女様の放った【チェリー・ブラスト】が弾けると、バコォ、と地面に大穴が開き、竜兵を飲み込みました!


「な、なんだこの穴」

「鈍器スキル【巨大(うす)】――要は落とし穴です!」


 爆裂魔法の音をカモフラージュに使って、私は水面下で建築系の鈍器スキルを発動させていたのです。固い地面の一箇所だけを薄くして、いわば薄氷に変えていたわけです。


 これで下の階層に叩きつけられれば簡単なのですが、相手は歴戦の魔物。そう楽には倒せません。


 竜兵の背中から翼がズルリと生え出し、大きく開きます。竜兵は人間と、騎乗用の飛竜を掛け合わせた代物ですからね。当然、空も飛べるわけです。


 元の、私達がいる階層へ戻ってこようとする竜兵――ですが、私はそれを見越して、ハンマーを巨大化していた訳なんですよ。


「いきますよー、よいしょー!」


 鈍スン! 穴から顔を出した竜兵めがけ、私は岩石の杵を振り下ろします。


 もろに直撃し、下の階層へ叩き返される竜兵。しかし、やはりハンパじゃない強靭さです。こりずに再び浮上してきました。


「よいしょおー!」


 鈍スン! 同じように、もう一撃。


 (きね)が大きいので、狙うまでもありません。私はひたすら、タイミングを見計らって打ち下ろすのみです。


 ただ、三度同じチャレンジをしてくるほど、竜兵もバカではありません。突破が難しいとみるや、今度は口を大きく開き、熱線【フレア・レイ】を放ってきました。


 しかし、それこそ狙い通り。私は思いっきり杵を振り下ろします。


「【物理返し】!」


 相手の攻撃を弾き返すこの技は、ハンマーの物理攻撃力が高ければ高いほど安定します。


 岩石をくっつけて巨大化したことで、現在のハンマーの重さは、鈍器レベル一億を超える私にしか振り回せない、超超重量級。


 もはや物理攻撃力そのもの。物理の権化です。


 重力に任せて振り下ろすだけで、杵は【フレア・レイ】をあっさりとはね返します!


 ギギャアアアアアアアア……! 悔し気に叫び声をあげる竜兵。


 上下のポジションに持ち込んだことで、巨大魔石への影響も心配なし。まさにやりたい放題です。


 これは無理と、たまらず逃げに転じる竜兵ですが、そうは問屋がおろしません。飛び去ろうとした竜兵の前に立ちふさがる、岩石の壁。その壁はずるりと伸びて周囲を覆い、逆ドーム状になります。出られる方向は、もう上しか残っていません。


「これが鈍器スキル【巨大(うす)】の完成形です。竜兵さん、あなたはもはや鈍器で殴られる運命から、逃れることはできないんですよ!」


 怒りに鱗を赤らめ、無謀にも立ち向かってくる竜兵。やけくそ上等です。


「さあ、ドラゴンを杵でついてついて、つきまくりますよ! あ、王女様。もしよかったら合間に爆裂魔法撃ち込んでもらっていいです? 諦めて下に留まられたりしたら面倒なので!」

「あ、ああ!」


 よいしょー! ()スン! ボボンッ! 

 よいしょー! ()スン! ボボボン! 

 よいしょー! ()スン! ボボボボッ!


 地元で年始に食べられている『モチ』を作る要領で、私は叩いて叩いて叩きまくります。


 敵のタフさはなかなかなものでしたが、同じ行程を幾度となく繰り返すと、竜兵は少しずつ、けれど着実にボロ雑巾になっていきました。翼がへし折れ、もはや浮いているのがやっと、といった状態にまでなったところで、とどめです。


「いきますよー! 鈍器スキル【(きね)飛ばし】!」


 チュ()ォォォオオオオン!


 竜兵の脳天めがけ、私は最後の一撃を繰り出します。血だらけになった竜兵の頭を叩くと同時に、ハンマーヘッドにくっつけていた岩石部分を分離。


 岩石の重量を負わされ落下した竜兵は、臼に激突し、ぐしゃりと潰れます。その衝撃で臼は一呼吸遅れて壊れ、瓦礫となって階下へと落下していきました。


「ふぃー。なかなかしぶとかったですね。太古の魔物、さすがの強さでした」


 いい汗かかせてもらいました。額を拭い、私は王女様に向かって胸を張ります。


「見ましたか王女様。これが本物の環境利用闘法ですよ!」

「いや……、テメェのはどちらかと言うと環境破壊闘法だろ……」


 あれ……。絶対に感心してくれると思っていたのに、王女様は冷たい眼差し……。


「な、なんでドン引きしてるんですか? 王女様だって、息ぴったりの合の手を入れてくれたじゃないですか」

「途中でいくらなんでもエグすぎるんじゃねェかと思った。最終的に、竜兵に同情までしちまったよ……」

「そ、そうですか……」


 ちょっと、調子に乗りすぎちゃいましたかね……。


 確かに、大広間は瓦礫が散乱してるわ、大穴があいてるわでしっちゃかめっちゃかです。


 多分、ここって、グラン王国にとっては結界の要となる大事な場所ですよね。こんな散らかっているところを見られたら、スラッドさんあたりからがっつり怒られるかもしれません……。


 さっさとまわりを直しておくにこしたことないですね。他の人からも環境破壊と言われないためにも……。


「うおっ、どうなってんのコレ。魔石の広間、めちゃくちゃになってるじゃん」

「すごいですね……。あっ、あそこにいるのは王女様とハンナさんでは?」

「おお、無事だったんだな。よかったぜ。全く、どうして勝手に先に進んだんだ?」


 最悪です。このタイミングでスラッドさん達が到着しました。

 この惨状、どう言い訳したものでしょう。王女様は絶対に、私が広間をぶっ壊したって報告しますよね。まあ、それが本当のことなんですけど……。



 と思ってたら。


「ああ……。巨大魔石の魔力に影響されて、オレの魔法が暴走したらしくてな……。意思に反して瞬間移動しちまったりとか、デケー魔物を呼び寄せたりしちまったんだ。ここがこんな風になっちまったのもそのせいだよ」


 なんと王女様、私をかばってくれました!


 その後も、王女様はもっと下層まで移動してしまったこと、鈍器スキルで作った階段を使いここまで上ってきたこと、私と協力して竜兵を倒したことをみんなに語りました。ところどころトゲは残っていましたが、概ね私に対しても好意的な話し口です。


「い、移動魔法が使えるようになったんですか? 王女様、すごいですね! 空間系の超上位魔法ですよ!」

「いやそれより竜兵を倒したとかマジかよ。言っとくがそれ、神話クラスの魔物だぞ……」

「はー。そんな魔物がいたんなら、俺っちも戦いたかったな……。もう一度喚びだしてもらえません?」


 反応は人それぞれ。とりあえず、怒られることは回避できたみたいです……。ほっと安心すると、近くにやってきたガレちゃんが、足に身体をこすりつけてきました。彼女にも、かなり心配をかけてしまったみたいです。


 あ、そうです。王女様にガレちゃんの正体を改めてお見せしなければいけません。


「さあ、目的の場所にはたどり着いたんだ。いつまでもしゃべってるワケにもいかねェ。さっさと結界の更新を始めるぜ」


 けれど王女様は、私とガレちゃんを無視するかのように、くるりと巨大魔石のほうへ目を向けました。


 本当に、私の連れているワンコがガレちゃんなのか、確かめるのを怖がっているようです。もし、私が保身のためについたウソだったら――そう思っているのかもしれません。

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