60話 結果発表のお時間です。
さて、結果発表の時間がやってきました。
日没前。冒険者ギルドへ到着すると、役者はすでに揃い踏み。
「よっ、ハンナちん。待ってたよ」
声をかけてくるスラッドさん。同じテーブルには、セシルとローゼリアも一緒に座っています。
「すいません。色々と準備していたら、時間がかかってしまいました」
「準備って、なんの? ギリギリまでカードを集めてたんじゃないの?」
ローゼリアが不思議そうに訊ねてきます。
「それはあとのお楽しみです」
「ふーん?」
はぐらかしたものの、彼女の視線は私が抱えてきた大きな包みに注がれています。まあ、気になりますよね。いつも身につけてるハンマーだけでも相当の重量なのに、さらに荷物が増えているんですから。
「ずいぶんギリギリまで粘ったみたいだね。どうあがこうが、勝負の結果は決まりきってるのにさ」
相変わらずセシルは無頓着というか、言葉の裏を読もうともしません。本当に、頭のなかお花畑ですね……。
「おい、ついに勝敗が決するみたいだぞ」
「マジか。こりゃ見逃せないな」
荷物をドカッと床に置き、空いていた椅子に座ると、私達のテーブルを周囲にいた冒険者が一気に取り囲みます。勝敗にお金を賭けている人が多いからか、みんな目をギラギラさせています。
その中には同級生達も混じっています。彼らの目は、ギラギラではなく、キラキラしてますね。セシルの勝利を信じて疑っていない様子です。
「じゃ、集めた枚数を比べるとしようか。ハンナちん、セシルちん、どっちからカードを出すのかな?」
「もちろん、ボクからさ。一秒でも早くハンナをぎゃふんと言わせたいからね!」
セシルはバン、とテーブルに自分が集めたカードの束を叩きつけます。
「どうだい、これでボクの勝利だ!」
「もー、セシルってば、これじゃ何枚あるかわかんないじゃん……」
偉そうに胸を張る彼女の代わりに、横にいたローゼリアが綺麗に並べ直します。
「ええと……、22枚ですか。偽者の数が減ってたのに、よくこんなに集められましたね……」
昨夜、ギルドに集まったときは15枚だったのに、7枚も増えています。
「ふふん、昨夜もあれから遅くまで偽者を狩っていたのさ。これでキミが二度と鈍器を持てなくなるんだと思うと高揚してしまってね!」
はあ……。嫌なモチベーションの上げ方ですけど、彼女は彼女なりに頑張ってたみたいですね。
もし同じようなやり方でカードを集めていたなら、差を縮められず、私の負けは決定的だったでしょう。
「さあ、キミもさっさと集めたカードを出してみたらどうだい? 今さら枚数は増えたりなんかしないけどね!」
圧倒的大差をつけたと確信しているセシル。
でも……、残念でしたね。私は満を持してカードを取り出し、その一枚一枚を丁寧にテーブルへ並べていきます。
最初のうちは余裕ぶっこいていたセシルでしたが、途中から真顔になり、次第に青ざめていきました。
「私が集めた枚数は――32枚です」
「バッ、バカな!」
ついにはガタンと椅子を倒し、立ち上がります。
「昨夜の時点じゃ11枚しかなかったのに! 一日でこんなに集められるはずがないだろう。さてはキミ、ズルしたな!」
失礼な。なんの根拠があって言ってるんですかね。
「ズルなんかしてません。私はただ、魔人ダウト本体を倒しただけです」
「なっ! キミが、魔人を?」
まわりにいた冒険者達が一気にざわめきました。驚きはギルド中に広がり「嘘だろ?」「ありえない」等の言葉が飛び交います。
「……マジかよ、ハンナちん」
目を見開いたのはスラッドさんも同じでした。
「証拠もありますよ、ほらここに」
私はポケットから33枚目のカードを取り出しました。金色の文様が描かれた、一見で特別だとわかる代物です。
「魔人ダウトの、成れの果てです」
ミラさん曰く「カードからすごい量の魔力が出てる」そうです。魔力感知力ゼロな私には全くわかりませんが、他の冒険者達は発せられている魔人の残滓を肌で感じ取ったみたいです。
さっきまでは疑うような声ばかりだったのに、カードを出した途端「こりゃマジだわ」「すげえ……」といった感嘆と称賛が増えていきます。
スラッドさんが口笛を吹き、上機嫌に宣告します。
「こりゃ、文句なしにハンナちんの勝利だな! 残念だったねえ、セシルちん」
「そ、そんな……」
愕然とするセシル。さっきまで偉そうにしてた分、余計に恥ずかしいです。
こうなる可能性、ちょっとでも考えてなかったんですかね……。
「セ、セシルが負けるなんて……」
「しかも、あのハンナなんかに……」
「こんなの、学園全体の恥だろ……!」
そばにいた同級生達もショックを隠しきれていません。セシルは学園のスター、代表みたいなものですからね。それが次席のローゼリアと組んで、なおも負けたのです。それも退学になったドンケツハンナに。
彼らにとっては、屈辱以外の何物でもないでしょう。
「……どうしてそんな気持ちになるか、教えてあげましょうか」
語りかけると、かつてあらゆる場面で私を虐げてきた同級生達は、ビクリと肩を震わせました。
「あなた達が『自分自身』にプライドを持っていないからです。セシルに誇りを預けてみたり、私を馬鹿にして自尊心を保ってみたり……。今この場で一番恥ずかしい存在なのは、敗者のセシルじゃなくて、あなた達なんじゃないですか?」
「な、なんだと!」
戦士の子が掴みかかろうとしてきますが、横からにゅっと突き出てきた槍に進路を塞がれます。
「言うねえ、ハンナちん。でもまあ、その通りだわなあ」
「な……。スラッドさんまで、ハンナが正しいとでも!?」
「だってそうでしょ? セシルちんが負けるのが嫌だってんなら、手を貸せばよかったんだよ。なのに君らはセシルちんの実力を過信して、セシルちんの名声を盲信して――自分達ではなーんにもしなかった。そういうのは、冒険者じゃなくて傍観者って言うんだよ?」
「あ……ぐ」
そうなのです。今回の勝負では、他人の手を借りてはいけないというルールはありませんでした。もし彼らが全員でセシルを手伝っていたのなら、おそらく私に勝ち目などなかったでしょう。魔人ダウトを倒しても、追いつけないほどの差をつけられていたはずです。
もしかしたらスラッドさんは、そこまで見越して勝負をさせたのかもしれません。
セシルが私の実力を認め、卑怯と罵られようが手段を選ばず勝ちにいけるか。
あるいは、頼まなくても助けてもらえるような人間関係を周囲に築けているか。
おそらくどちらかを満たせていれば、本気でセシルを難度Aクエストに連れて行く気だったんでしょうね。普段は仲悪そうにしてますけど、かわいい弟子なんですから。
「前に俺っちが『ティアレット支部のレベルが落ちてる』って言った意味、噛みしめてくれたかな? セシルちんの同級生諸君?」
「く、くうっ」
私相手ならいざ知らず、特Aのスラッドさんに言われては捨て台詞を吐くことすらできません。
同級生達は唇とともに悔しさを噛みしめ、足早にギルドを出て行きました。
どんきです。明けましておめでとうございます。
書き初めならぬざまあ初め。
セシルのざまあパートは明日も続きます。
どうぞ本年も引き続きよろしくお願いしますm(_ _)m




