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56話 ミラさんの薬は最高です。

「スラッドさんの言うとおり、逆転するためには魔人ダウトを見つけるしかなさそうですね……」


 エッグタルトの二階。ミラさん、ガレちゃんと夕食をとりながら、私は決意を固めます。ギルドでどんな会話がなされたのかは、一緒にいるふたりにはすでに共有済みです。


「魔人ダウトはガレちゃんが探してみせるっス! ダウトがカードを持ってるなら、同じようににおいを辿ればいいんス。楽勝っスよ!」

「うーん……」

「な、なんスかご主人様。なんでそんなに不安そうなんスか?」


「いや、ガレちゃんの鼻を疑ってるわけじゃないんですよ? でも、カードのにおいを辿って見つけられるなら、今日倒した偽者のなかにダウトが混じっててもおかしくなかったんじゃないかなって」


「そ、それは……、まあ、そうっスね……」


 ふむむむ、と腕を組むガレちゃん。


「スラッドさんも、魔人ダウトはそれほど強くないと言ってました。だとすると、そのぶんカモフラージュには長けていると考えるべきです。魔力感知はもちろん、においとかの対策もしてるんじゃないですかね」

「むー。なんてやつっス! ガレちゃんがご主人様に褒められるのがそんなに嫌なんスかね?」


 ガレちゃんの発想、聞いてるとほわほわします。本当にそんな理由でダウトが隠れているんだったら、世界も平和なんですけどねー。


「ガレちゃんの鼻がもっとよければ、カモフラージュしても騙せなくなる」


 スープをすすりながら、淡々とミラさんが言います。全く悪気はないんだと思いますが、ガレちゃんを刺激しそうな発言……。


「……今日の肉炒め、なんか味おかしくないっスか?」


 ほらあ、またケンカ始まりそうです!


「そ、そうですか? スパイスが効いてておいしいですけどね」


 顔を引きつらせながら、仲裁に挑む私です。


「効いているというか、効きすぎというか、食べているうちにだんだん香りが強くなってる気がするっス」


 冷めたら味が濃く感じる的な? なんか煽り文句にしては具体的ですね……。

 でも、私は全然そんな風には感じません。

 ミラさんの作る料理はアツアツはもちろん、冷めててもおいしいですし!


「ご主人様は感じないんスか? まさかガレちゃんにだけ毒でも盛ったんじゃ――」

「もう、ガレちゃんったら。毒なんて入ってるわけないでしょ。ね、ミラさん?」

「盛った」

「ミラさん!?」


 なに言ってるんですか!?

 ふたりの関係が、まさかそこまで悪化しているなんて!


「あ、誤解。盛ったと言っても、毒じゃなくて薬。嗅覚がよくなる薬、入れておいた」

「ええー!?」


 ガレちゃんがテーブルを叩いて立ち上がります。


「な、なにしてるんスかー! 嗅覚がよくなる薬!? ガレちゃん、鼻は元々いいっスよ!?」

「それがもっとよくなる。今日一日かけて作った、自信作」


 あくまで無表情のままですが、なんとなくドヤ顔っぽくなるミラさん。


「なんで了解もなく料理に混ぜてるっスか!」

「だって言ったら飲んでくれない」

「当然っス! そんな得体の知れない薬なんて、まっぴらゴメンっス! お腹がきゅるるんになるかもしれないじゃないっスか!」

「ガレちゃんなら大丈夫」

「どんな根拠っスか! ……あ、さてはガレちゃんが半分魔物だと思って、強い薬を飲ませても平気だと思ってるんスね!」


 ガレちゃんはミラさんを弾劾するように指差し、私に振り向きます。


「これっスよ、ご主人様。この人はガレちゃんを実験体としか考えてないんス。だからガレちゃんに対していっつも無表情なんスよ!」

「まあまあ、ミラさんは誰に対しても無表情だから、ガレちゃんにだけじゃないから」

「む、むううー。確かにご主人様に対しても無表情っスけど……」


「実験体とは思ってない。ぬいぐ……家族だと思ってる」

「ほら! 今ぬいぐるみって言おうとしたっス! ガレちゃん、これでも人間なんスからね!」


 せっかく落ち着かせようとしたのに、ミラさんなんで余計なことを口走ってしまうんですか!


***


 カード集め、最終日の朝。


 ミラさんに見送られてエッグタルトを出ると、さっそくガレちゃんがくんくんと鼻を動かします。

 

 薬は丸一日くらいは効果があるらしく、昨夜から嗅覚は向上したままです。


 しばらくすると、ガレちゃんはがっくりと肩を落としました。やっぱりダウトのカモフラージュは破れなかったのかな、と思っていたら、彼女の口から出てきたのは意外な言葉でした。


「ダウトがどこにいるのか、わかってしまったっス……」

「え、本当ですか!?」

「ぐ……、ぐぬぬぬ……。でも、これじゃガレちゃんじゃなくて、ミラさんが褒められてしまうっス……!」

「大丈夫。主役はあくまでガレちゃんです! ガレちゃんがいないと、薬があってもダウトの居場所まではわからないですし!」


 ミラさんの薬には嗅覚を引き上げる効果がありますが、私が使ったとしてもダウトを見つけられるほどにはなりません。せいぜいが近くにいる偽者に気づけるかどうか。最初から鼻が優れているガレちゃんが飲んだからこそ、最大のパワーが発揮できているのです。


 しかし、ガレちゃんは納得いかない様子。仕方ありません。私はやる気を引き出すとっておきのご褒美を鼻先にぶら下げます。


「わかりました。もしガレちゃんがダウトを見つけたら、一日中ガレちゃんを褒め倒してあげます!」

「……マジっスか」


 ガレちゃんの目の色がギラリと変わりました。


「あたぼーです。女に二言はありません!」

「……ちなみに褒められ方って、指定オッケーっスか」

「褒められ方!? ……なにか希望があるんですか?」

「もちろんっス! ガレちゃんはベッドの中でぬくぬく丸まっているときに、後ろから抱きついてもらいたいっス!」

「ふ、ふーん?」


 もっとすごいことを要求されるかと思いましたが、かわいい希望ですね。


「そして、一日中頭をなでながら、耳元でずっと『えらいえらい』って言い続けてほしいっスー!」


 かわいい希望……ではありますが、それ何気に私の腕と喉、死にません?

 

 一日中ですよ、一日中。ガレちゃんの頭も禿げないか心配なんですけど……。


 でも――そんなことでやる気になってくれるなら、安いものです!


「わかりました! 後ろから抱きついて、なでなでしてあげます!」

「やったっス! ガレちゃん、死ぬまでダウトを追うのをやめないっス!」


 そう言うと、さっそくガレちゃんは走り出します。確かな足取り。もうどっちの方角に魔人がいるのか、完全にわかっているみたいです。

 

 ミラさんの薬、最高です! ガレちゃんの前では絶対に口には出せませんが!

どんきです。ミラガレが仲が悪いの、今だけなのでお許しください。

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