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34話 川の魔物がデカすぎます。

 ルドレー橋がかかっているのはティアレットの西。馬車で二日ほど進んだ先です。


 ちなみに王都ラベックまでの道程はおおよそ五日間。ちょうど中間あたりに架かっている橋だと思ってもらえれば合っています。


 さて、店の留守はミラさんに任せ、私はルドレー橋へと向かいます。


 リッチに馬車旅です。


 馬を一頭借りるほうが安いし到着も早い? 馬鹿を言ってはいけません。私のどんくささを舐めないでください。馬なんて、乗れるわけないじゃないですか!


 しかし、その微妙な遅れが今回は仇となりました。


 二日目の夜、そろそろルドレー橋に到着、というところで聞こえてきたのは悲鳴と雄叫び。


「な、なにごとですか」


 危険を感じて引き返そうとする馬車から降り、私は騒ぎのほうへと駆け出しました。


 右手にはなだらかに流れるスレーン川が見え、周囲には大工さん達が建てたと思われる仮設置の家が建っています。


「化け物だ! 化け物が出たぁー!」

「水の中! デカいぞ!」


 複数の男性が大きな声を上げています。ようやく橋が見えてきました。


 石を一つ一つ綺麗に組んで造られたもので、とても頑丈そうに見えます。これならちょっとやそっとでは壊れそうにありません。


 しかし、私の見立ては甘々でした。


 ざぱあっと川の中から出てきたのは吸盤のついた、異常に長く大きな触手。


 それは天に届きそうなほど高く伸びたあと、ビタァン! 思いっきり橋の中央に落ちてきました。


 その攻撃で橋は見事に真っ二つ。真ん中がごっそりと崩れ落ちたではありませんか!


「ぎゃあああ!」

「またかよおお!」


 大工さん達の慟哭があたりを包みます。


 お、お気の毒に。何度も壊されているって話でしたが、これ何回目なんでしょうね……。ちょっと自分だったら耐えられないかもしれないです。


 と、同情している場合ではありません。せっかく魔物が現れているのです。今ここで退治できるに越したことはありません。


 私はハンマーを背中から抜くと、川のなかに潜んでいると思われる化け物のほうへと向かいます。


「出てきなさい! 鈍器使い、ハンナ・ファルセットが相手です!」


 とりあえず私は川べりで叫びました。言葉が通じる相手とは思えませんでしたが、そうする他なかったのです。敵が水中にいる限り、こちらからの攻撃手段は限られてしまうわけですし。


 え? 泳いで敵に近づけ? 


 馬鹿言わないでください。私を誰だと思ってるんです。乗馬と同じで、ドンケツハンナが泳げるわけがないでしょうが!


 魔物の正体はおそらくクラーケン。


 八本の足と二本の触腕を持つとされる、巨大なイカの怪物です。


 さっき水中から出てきたのは足? それとも触腕?

 どっちなのかわからないんでもう一緒くたに十本の触手ってことにします。


 とにかく泳げる泳げないに関係なく、水の中で戦ったら勝ち目ないやつですよ。


 橋を壊した触手は、するすると水中へと沈んでいきます。もしかして逃げる気でしょうか。


 そうはさせじと、私は砕けた橋の破片を拾って頭上へ投げると、ブン、とハンマーを叩きつけます。


「鈍器スキル【飛びつぶて】!」


 バスッ! ハンマーが当たった破片は勢いよく川へと突き刺さります。


 【空気の杭】は水中では威力が激減してしまうので、これはその代替となる遠距離攻撃です。


 けれども、どうも命中しなかったようです。石のつぶてはただ水面を激しく飛び散らせただけ。


 怒って敵が飛び出してくるようなことはなく、まるで魔物なんてその場にいなかったかのように、川は静まり返りました。


「俺達の苦労の結晶が……」


 大工さん達がガクリとうなだれます。橋は壊されるわ、魔物には逃げられるわ、ですもん。これじゃまた橋を作っても壊されるかもしれませんし、そりゃ士気も下がりますよ。


「何事だ、一体!」


 そこへ現れたのは頭の禿げあがった五十手前の男でした。


 金糸の刺繍が施された、いかにも貴族、という感じの偉そうな一張羅を着ています。


「む、これはどういうことだ! また橋が壊れているではないか!」


 男は顔を赤らめて、大工さん達を睨みつけます。


「壊れている、というか、壊されたんすわ。デカい魔物に――」


「ふざけるな! そんな言い訳は聞きたくない! 何度も何度も橋を壊されおって。魔物が出ようと出まいと、本当に頑丈な橋なら崩れるわけがないだろう! 次に壊されてみろ、貴様らは全員クビだ! 給料もビタ一文払わんからな!」


 貴族っぽい男はそうまくしたてると、現場の確認もろくにすることなく、さっさとその場から離れてしまいます。


「めちゃくちゃ言いやがるぜ、あのクソ貴族……」

「あんな馬鹿でかい魔物が出るんじゃしょうがねえよなあ」

「ていうかワイズのヤツ、魔物が出てるあいだはいつもいねえじゃねえか」

「いなくなったら途端に出てきやがって、ビビリがよお……!」


 男の姿が見えなくなると、大工さん達は口々に文句を言い始めました。


 気持ち、わかります。面識ない私でもすごくムカつきましたし。大聖堂を建てていたときの監督官もあんな感じでしたっけ……。


 鈍器を使う大工さんの辛いところです。鈍器を使う人はどれだけ叩いても、蔑んでも構わないってわけです。


「ところで、嬢ちゃんはなにもんだ?」

「おお、そうだそうだ。鈍器使いとか言ってたが……」


 文句を吐き出したことで多少頭が冷えたのでしょうか。大工さん達の注目はよそ者の私に集まりました。


「あ、私はティアレットの冒険者ギルドからやってきました。魔物から橋を守ろうと思ってやってきたんですけど……」

「そりゃーちっとばかり遅かったなあ」

「で、デスヨネー……」


 守る予定だった橋は無惨なものです。直すのには、またしばらくかかりそうですね。


「それにしても、すごかったですね。触手しか見えなかったですけど、あれクラーケンですか? あんな巨大な魔物が出るんじゃ、何度も橋が壊されるのも納得です」


「ん? ああ、触手のヤツが出たのは今日が初めてだぞ。こないだは水の精霊ウンディーネが現れて水の砲弾で橋を穴だらけにしたんだからな」


「え?」


「その前なんか、水の上を走る馬の魔物、ケルピーが体当たりで橋脚をぶっ壊してよお」


「……はい?」


「そのさらに前は、人魚が超音波で橋を丸ごと崩していったしな!」


「は、はあああ? いやいやいや!」


 なんですかそれ!?


 【魔の大地】じゃあるまいし、こんな王国のど真ん中に、そんな強い魔物が次から次へと現れて、みんなして橋を壊していく? そんな話がありますか?


「あの、みなさん、それ自分の目で見たんですか?」


「「「もちろん!」」」


 一斉に答えが返ってきます。


 ううん、嘘をついているようには思えませんが、そんなことありえるんでしょうか……。


 ん、ちょっと待ってください。そう言えばクラーケンって、本来は海の魔物のはず。川に現れたなんて、一度も聞いたことがありません。


 冒険譚フリークである私の直感がささやきます。


 これはなにやら裏がある、と……。

どんきです。ようやく週末ですね。

明日も7時くらいに更新します!

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