30話 究極のランクアッププランです!
夕方になるとようやくお客さんの流れが落ち着き、私とミラさんはふうーっと椅子に身体を預けました。いやあ、なかなか心地よい疲労感です。
「ありがとう。お店をお父さんがいたときみたいに、にぎやかにしてくれて」
「別にいいんですよ。私も帰る場所が欲しかったですし」
これまでは宿屋暮らしでしたが、私も今日からここに住むことになりました。
二階にはちゃんとふたり用の居住スペースがあります。冒険者ギルドからも近いですし、便利なことこの上なしです。
それにミラさんの料理、めちゃくちゃおいしいんですよ。多分、鍋とかの道具レベルもすごく高いんじゃないですかね。料理のおいしさが1.5倍になるスキルとか身につけてそうです。
「ミラ、がんばった」
「? ええ、頑張りましたよね。人と話すの苦手って言ってたのに、すごかったと思います」
褒めてほしいのかな、と思ってそう返してみたのですが、ミラさんは満足していないようです。
「あー、癒やされたい」
ミラさんはおもむろにそう言うと、ぽんぽんと自分の太股を叩きます。
「ここに座って?」
「え、どういうことですか?」
「いいから座って」
なんだか有無を言わせない雰囲気です。仕方なくミラさんの太股の上に座ると、後ろからぎゅうっと抱きつかれました。
「にゅうう。プーちゃん……」
うわ、本当に癒しを求めてますよこの人。黙っているとすごく綺麗ですけど、こういうところ子どもっぽいですよね。
「あの、ミラさん。私、ぬいぐるみじゃないんですけど」
別に嫌なわけじゃなかったですが、とりあえず不平を口にしてみます。ところが、ミラさんは不機嫌そうに返してきます。
「これくらい、がんばったごほうびとしては安い」
「ええー……。まあ、いいですけど」
「ハンナ、好き」
余計に強く抱きしめられました。しょうがないなあとミラさんの頭を撫でてあげていると、なんだか愛おしい気持ちになってきます。
ううむ、もしかして、これが「友達ができた」ということなんじゃないでしょうか!
学園ではついぞ作ることのできなかった関係性……、感動です!
「――あー! なんかイチャイチャしてる! ヤダヤダ、ズルくない!? アタシもハンナをむぎゅーっとしたいんですケド!?」
けれども、そんな和やかな空気に水を差したのは、自称『私の親友』であるダークエルフでした。相変わらずへそ丸出し、痴女みたいな格好をしています。
「なにしに来たんですか、ローゼリア」
「うわ、冷たい! ギルドに貼り紙があったからさ、どんなかな、と思って来てみたんだケド……」
「あなたに売るものなんてないんですよ、しっしっ」
「ひ、ひどい……」
すん、と鼻をすするローゼリア。落ち込んでいるような顔つきですが、他の同級生と比べてやはり彼女は図太いです。
私のこと、一番いじめてたくせになんの遠慮もなく店に入ってくるんですからね!
そして、やだやだ。この女が来たということは、もうひとりもどうせいるんでしょう?
「ふうん。特例ランクアップのために頑張っているのかと思えば、気楽にお店ごっこなんか始めているとはね」
はい、やっぱりです。セシル・ソルトラーク。一番来てほしくなかった人が早くもやってきました。しかも、なかなか的外れなこと言ってくれちゃってます。
「私の狙いに気づけないとは、セシルって意外と大したことないんですね」
「狙い、だって?」
「そうです。てっとり早くランクを上げるためには、街やギルドに貢献しなきゃいけないんでしょう? だったら、単に自分が冒険するだけじゃなく、他の冒険者のサポートをできたら? 例えば良質な武器や薬を提供する、とか」
私はミラさんを助けるためだけに冒険者の店を始めたわけじゃないんです。やるからには、ティアレットで一番の店にしてやります。
「最強の品質、最安の価格、最大の品揃え。冒険者なら誰でも知っている、誰もが行きたくなる最高の店に、ここはなります。そうすれば誰だって認めざるを得ないでしょう? この店がティアレットに貢献しているって」
「ハンナ、頭いい」
「ふっふっふ」
ミラさんの絶妙な相の手に、私はドヤ顔になります。
我ながら完璧な計画。究極のランクアッププランです!
「……なるほどね。キミの考えはわかったよ。確かに、それができれば短期でのランクアップも不可能じゃないかもしれないな」
しかしセシルは、妙に冷静なままで不気味な笑みを浮かべます。
あれ……、絶対に悔しがると思ってたのに、なんですかね、この気持ち悪い感じ……。
「この店が街に貢献、ね。でも、それは無理じゃないかなあ」
「な、なんでですか」
「決まりきったことさ。しばらく店を続けてみればわかるよ、必ずね」
そう言い残すとセシルは背を向け、店を出て行きます。
「ま、待ってよセシル! なんかアイテム、買ってかないのー?」
「買うわけないだろ、バカ」
「ヤダヤダ、ヒッドーい! さすがにバカはないんじゃない?」
ローゼリアもまた、慌てて彼女のあとを追って出ていきます。全く、なんてムカつく冷やかしなんでしょうか!
どうせ来たのなら開店祝いのひとつやふたつ、置いていけないんですかね。
「ハンナ……」
ほら、ミラさんの眉が心配げに垂れ下がってます。
「大丈夫ですよ。あんなの、単に私達を不安にさせたいだけなんですから」
「そ、そうだよね」
けれど、私は思い知ることになるのです。彼女、そして彼女の父、バゼル・ソルトラークがこの街でどれだけの権力を持っているのかを。
どんきです。これで2章が終了です。
明日から3章【鈍器再生】がはじまります!
3章ではついに◯◯との直接対決が待っている!かも!
ハンナのレベルに関する秘密も明かされます!
そしてそろそろ書きためを作らないとまずい…。
評価・ブクマなども引き続きよろしくお願いします!はげみになります!




