23話 私と真逆のすごさです。
魔物を倒して魔石に変えながら、私達は上へ、上へと山を登っていきます。
「魔力が濃くなってる」
息を切らしながら、ミラさんが言います。
「そうですね。すごく濃いです」
このアベル山は、高度が上がるほど魔力が濃くなることで知られています。
この高い魔力のおかげで、魔物は食料が少なくても生きていけますし、人里にまで降りても来ないわけです。
さて、お気づきになられたでしょうか……。私は今、ひとつ嘘をつきました。
そう、鈍器スキルが上がったとはいえ、私はドンケツ、どんくさハンナです。
そうですね? すごく濃いです?
はい、知ったかぶりです。
普通の人なら感じるんですか? その場所の魔力が濃いのか、薄いのか?
そんなもの、生まれてこのかた、感じたことがないんですが!
鈍器スキルで魔力は使ってますけど、それはあくまで神様の力を借りてですからね! 私自身は、センスなんて欠片もないわけですよ。
でもそんなこと言ったら馬鹿にされるのは目に見えてますからね。
学園にいるときも、まわりに合わせてそれらしいこと言ってましたよ、はい。私の知ったかぶりは年季が入ってるんです!
私達は少し休憩することにしました。
昼ご飯代わりに持ってきていた肉入りパンにかじりついていると、ミラさんが青いガラス瓶に入った液体を差し出してきます。
「これ飲んで」
コルクの蓋を開けてみると、ツンと酸味のある匂いがします。どうも、単に喉をうるおすための飲み物ってわけじゃなさそうですね。
「これ、なんですか?」
「周囲の魔力を取り込む薬。疲れにくくなる」
「ああ。【ゼロ・ポーション】ですね。普通のポーションと違って、水薬そのものには魔力が込められていない―-」
「それ」
【ゼロ・ポーション】は魔法のアイテムではありません。ただ、魔力を取り込みやすい植物を混ぜ合わせただけの、いわば気休めのようなもの。
私も以前飲んだことがありますが、効果のほどはいまいちでした。そのわりに、おいしくないんですよね……。
うーん。でもまあ、好意を無下にはできませんし……。
そう思い、私は一気に飲み干しました。
「あれ……?」
瓶を口から離すよりも早く、私は身体が軽くなるのを感じました。
「え、なにこれ……」
すごくないですか?
効くなんてもんじゃなかったです。まるで脚に翼が生えたみたい。これなら、今から世界最高峰の山にも挑めそうですよ!
いや、それはさすがに言い過ぎですが。
「この山は魔力が濃いから、よく効くはず」
「いや、それにしたって、普通はこんなに効かないですよ? この薬もミラさんが作ったんですよね? すごいです」
「ミラはすごくない。元はお父さんのレシピだから」
あれ、褒めたのになんだか不機嫌になってしまいました。表情がなくても、しばらく一緒にいると考えていることってわかるものですね。
それにしても、この効き目はレシピがどうこうなんてレベルじゃないと思うんですが。
「あの、もしよかったら、ミラさんのスキルツリー、見せてもらえません?」
「いいけど……」
ミラさんがツリーを開くと、やはりレベルが高いのは調剤関係の道具でした。
【乳鉢25】【乳棒23】【薬釜27】【薬瓶22】【薬研21】……。
あ、薬研というのは、取手のついた円盤のような道具で、皿の上をゴロゴロと転がして植物を細かく挽くのに使う道具です。
一般的に、道具レベルは20を超えると上等と言われています。ミラさんの年齢でここまで20超えがたくさんあるのはすごいことです。
次に、道具スキルごとの取得スキルを確認します。目についたのは【薬研】のツリー上にあるスキル【上質化】でした。
内容は『薬研で挽いた薬の効果を1.5倍にする』。
うーん、薬の効き目がよかったのはこれのおかげですかね?
……でも、1.5倍程度であそこまでの効果になります?
「ん……?」
よく見ると【上質化】のスキルを取っている道具は【薬研】だけではありません。
【乳鉢・上質化】 乳鉢の中で混ぜた薬の効果を1.5倍にする。
【乳棒・上質化】 乳棒で混ぜた薬の効果を1.5倍にする。
【薬釜・上質化】 薬釜で抽出した薬の効果を1.5倍にする。
【薬瓶・上質化】 薬瓶で保管した薬の効果を1.5倍にする。
「あんまり見られると恥ずかしい……」
顔を覆い隠すミラさん。恥ずかしがっていても全く表情は変わってないから、隠す必要なくないですか?
って、そんなことはどうでもいいんですよ!
「ミラさんのスキルツリー、すごいですよ! なんでこんなにたくさん【上質化】スキルが取れてるんです? これって掛け合わせていったら、とんでもないことになるんじゃないですか!?」
作る薬によって使う道具は異なるでしょうが、例えば2つ道具を使えば約2.3倍、3つ使えば約3.4倍、4つ使えば……約5.1倍の効果アップ!
複数の道具レベルを高くして、それぞれのスキルを組み合わせることで、効果を最大の力にする――
なんというか、ひとつの道具に特化している私の、真逆のようなパターンです。
しかし、褒めてもミラさんは首を横に振るだけです。
「ミラはお父さんには全然勝てない。だから店を守るためにもっと頑張らないと」
「あのお店……、ミラさんにとっては大事な場所なんですね」
「うん。お父さんやプーたんと過ごした場所」
「プーたんというのは?」
「子どもの頃に持ってたぬいぐるみ。ハンナそっくり」
「へー、猫とか、犬のぬいぐるみですか? それともクマ、とか?」
「ううん、豚」
「豚! なんだかショックです!」
私、さすがにそこまでブサイクじゃないと思うんですが!
食欲だけは豚なみかもしれませんけどね……って、ほっとけです!
「プーたんはかわいい。ミラ、プーたんをぎゅーっとすると落ち着く……」
そう言うと、ミラさんは後ろに回り込んで私に抱きつき、すうー、すうー、と頭頂部を嗅いできます。
「あ、あのお、ミラさん?」
昔ぬいぐるみに同じことしてたんですかね……。
あったかいし柔らかいし、なんかすごく気持ちいいんですけど、超絶美人に抱きつかれて平静でいられるほど、私は人生経験豊富じゃないんですよ……!
でも、このとき平静じゃなかったのは、私よりもミラさんだったのかもしれません。
ここまで登ってきても、肝心のトルフキノコが見つからない。黒いキノコはいくらでも生えているのですが、金粉のような輝きを放つものはありません。
その焦りが、じわじわと彼女を追い詰めていたのでした。
今回の更新でジャンル別6位でした!
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