18話 どこまでも自分本位な女です。
冒険者ランクがBにならないと【魔の大地】に行けない?
「そ、それ本当ですか?」
「そりゃそうよ。低ランクの冒険者なんて、【魔の大地】で戦力になるはずがないもの」
【魔の大地】に冒険者が挑む理由。
それは、大陸の最北端で眠っているとされる邪神ドルトスを滅ぼすこと。
そうすれば、大地を跋扈する魔物達は邪神の加護を失って魔石に変わり、北の地にも人が住めるようになる、と言われています。
【魔の大地】攻略は冒険者ギルドの悲願です。なぜなら、それを達成した暁には、大陸南方の各国家から莫大な財を与えられることになっているからです。
それがなくても【魔の大地】は、冒険者を引きつけてやみません。
未開の地には、お宝もたくさん眠っています。また、南では決してお目にかかれない絶景や、味わえない絶品珍味も待っているのだとか。
うう、胃もたれしている今は、食べることを想像しても嬉しくなりませんね……。
「とりあえず、当面の目標は冒険者ランク『B』に上がることですか……」
今、私はDランク。
構いません。どうせ鈍器の素晴らしさを知らしめて、偏見を木っ端微塵に砕いてやろうと思っていたんです。ランクをふたつ上げるくらい、丁度いい目標です。
「当面って……」
私の発言を聞き咎めて、マーチさんがやれやれと首を振ります。
「ランクを二つあげようと思ったら、どんなに早くても三年はかかるのよ?」
「へー、三年ですか。…………さ、三年!? 頑張れば、一年くらいで上がれるものじゃないんですか? 超難度のクエストをいくつもクリアしたりして!」
「冒険者はランクに応じたクエストしか受けられないの。Dランクなら、それよりも低い難度のD~Fまで。超難度なんて、ルーキーが受けられるワケないじゃない。ランクアップには数をこなさなきゃ」
「な、なんですかその年功序列的なルール……!」
じゃあ、あと三年もレイニーに会えないんですか? すでに何年も会っていないのに? そんなの、ひどすぎます。
よほど落ち込んで見えたのでしょう。マーチさんは私を慰めるように言います。
「まあ、三年も待たなくて済む方法もあるから、そっちを狙うって手もあるんじゃない?」
「な、なんですかそれは! 教えてください!」
「ギルドに特例を認めさせればいいのよ。この冒険者はランクアップにふさわしい貢献をしたってね。例えば、魔物の襲撃から街を救うとか。貴族や豪商を暗殺者から守ったとか」
「え……。それクエストとは全然関係なく、偶発的にってことですよね?」
「もちろん。そんなクエスト、本来なら難度AとかBがついてしかるべきだからね」
……ダメじゃないですか。そんな人の不幸を願わないと叶わないような方法じゃ。自作自演なんて論外ですし。
「そんなに難しく考えなくていいのよ。要は『この街に貢献した』ってみんなが思えばいいんだから。同じクエストを達成するのでも、成功と大成功じゃ評価も違ってくるしね。一日一善の精神で頑張りましょ?」
マーチさん、私が言うのもなんですけど、かなり脳天気で前向きですね……。
まあ、なにはともあれ、頑張るしかないですか。
初めて受けるクエストを選ぶために掲示板を見上げた、そのときでした。
「ハ・ン・ナ~♪」
「ひゃあ!」
いきなり後ろから抱きつかれ、私は思わず悲鳴を上げました。
振り返ると、鼻がくっつきそうなくらい近くに、ニヤニヤと頬を緩ませたダークエルフの顔があります。
「うわ、なんですかローゼリア」
とっさに突き飛ばすと、ローゼは私に向かって口をとがらせます。
「やーん。ハンナってばつれなーい。アタシ達同級生なんだし、みんなと同じようにローゼって呼んでくれていいんだケドー?」
「ロ、ローゼェ?」
私がオエエ、と顔をしかめているのにも気づかず、ローゼリアは「そーそー、そんな感じ」と言いながら、嬉しそうに身体をくねらせます。
なんなのでしょう。この、突然のなれなれしさは。本気で気持ち悪いんですけど……。新手のトラップかなにかですか?
「ねーねー。アタシのあげた友情の証、つけてくれてないのー?」
ローゼリアは私のハンマーや鞄をチラチラと確認します。
「友情の証って……、昨日くれたストラップですか?」
「そ。そのハンマーにつけたらカワイイと思うんだよねー。あ、ドンくさすぎてつけられないなら、アタシがつけてあげよっか?」
「遠慮しときます」
やっぱり、あのクリスタルがついたやつ……。
つけてるワケないでしょうに。捨てるのもなんだから、一応鞄の中には入っていますが……。
「えー。恥ずかしがらなくてもいいのにィー。アタシなんてほら、こんなにたくさんつけてるよぉ?」
ローゼリアは自分のけばけばしい杖を誇らしげに掲げます。
「そんなにじゃらじゃらしてて、魔法使うときに邪魔にならないんですか?」
「そこはほら、アタシって天才だから? このストラップで強化してるワケよ」
「へえ、魔力をですか?」
「ううん? 女子力を!」
ゲンナリしました。私はこんな頭の悪い人に長いこと怯え、イジメられていたんでしょうか。過去の虐げられていた自分に「あの子、マジモンのバカだよ?」と教えてあげたくなりました。
「そもそも、なんで絡んでくるんですか。まさか、私と本気で仲よくなるつもりなんですか? だったら、まずは昨日の真実をみんなに話してくださいよ」
そうすればちょっとは見直してあげるのに。しかし、ローゼリアは露骨に嫌そうな顔をします。
「ええええ。ハンナが本当はロックドラゴンを倒せるくらいイケてるってわかったら、みんなヤッバーいってなって、ヤダヤダ友達になりたーいって言い出すに決まってるじゃーん!」
「一体それのどこがいけないんですか」
彼女が何を言いたいのか、さっぱりわかりません。
いいことばかりじゃないですか。本当の意味で仲よくできるかはともかくとして、少なくとも私がローゼリアの魔石を奪ったという誤解はとけます。
「だってさあ……、ハンナの親友は、アタシだけでよくなーい? アタシ以外の子からハンナがチヤホヤされてるの見るトカ、ヤダヤダ、ジェラっちゃう☆」
おわかりいただけたでしょうか。
性格の悪い女が、いきなり改心するはずもありません。
命の恩人である私への好感度が爆上がっただけで、ローゼリア・シュルツは、どうあがいてもこういう自分本位な考え方をする女なのです!
どんきです。自分勝手でめんどくさい女の子って、かわいくないですか……?
ブクマ、評価もはげみになりますのでどうぞよろしくお願いします!