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17話 レイニーに会いに行きたいです。

 翌朝。起きた私は胃に不快感を覚えていました。


 やってしまいました……。明らかに食べすぎです。

 

 やっぱり冒険者になったお祝い、と串焼き肉を十本買い込んだのはやり過ぎだったでしょうか。


 それとも、自分へのご褒美と、そのあとに焼き魚の入った炊き込みご飯、ティアレット名物【ティアライス】を十杯もおかわりしたのがダメだったんでしょうか。


 それとも、その後に「さすがに太るかも」と思って購入した、全てをなかったことにする【帳消しドリンクα】なる怪しげな飲み物をガブ飲みしたせいでしょうか。


 それとも、もしかして……、全部?


「うううう、すこぶる調子が悪いです」


 しかし、宿でじっとしてなんかいられません。

 

 今日は冒険者ギルドに大事な用があるのですから。


「あらハンナちゃん。昨日は試験お疲れ様。これからよろしくね」


 ギルドを訪れると、掲示板のクエスト依頼を張り替えているお姉さんに声をかけられました。

 

 昨日、登録試験の受付をしてくれた、気だるい雰囲気の美人さんです。


「よろしくお願いします。ええと……」

「ああ、あたしはマーチ。みんな名前で呼んでくれるから、ハンナちゃんもそうしてくれていいわよ?」


 長い髪をかき上げながら、お姉さん――マーチさんは微笑みます。

 ううむ、色っぽいです。思わずシャツからのぞく胸元をじっくり見てしまいます。


 いい人ですよね、マーチさん。ギルドマスターもそうでしたが、鈍器を使う私にあまり偏見を持ってないみたいです。

 

 こういう人達がいるなら、この街の冒険者ギルドも捨てたものじゃないのかもしれません。

 

 まだ午前なので、ギルドには冒険者が十人もいませんでした。すでに冒険に出かけているか、あるいは宿で冒険の疲れをとっているか……。

 

 みんなが集まって、一番盛り上がるのはお酒を飲めるようになる夜だと聞いています。


「そうそう。【冒険者の証】を渡しておかないとね」

 

 マーチさんは受付に戻って引き出しを開け、私に一枚のカードを差し出しました。


「わあ……!」

 

 そこにはハンナ・ファルセットの名と、冒険者ランク『D』の文字。どちらも偽造を防ぐための、ぼんやりと光る魔工インクで記されています。


「改めて合格おめでとう。ロックドラゴンを倒したって話は眉唾だけど、個人的には期待してるからね。あなたが活躍してくれると、あたしの残業も減るかもだし」


「ありがとうございます! 私、どどんと頑張ります!」


 これが憧れだった【冒険者の証】ですか……! 

 

 これでまた一歩、レイニーに近づけたような気がします。

 

「今日はこれを取りに来たのよね? これで正式な冒険者だから、依頼も受けられるけれど……、どうする?」

「そうですね、せっかくだから――と、その前に」


「ん? なにかやることがあるの?」


「はい。私、レイニーについて知りたいんです。今、レイニーって【魔の大地】でどうしてますか? 元気でいるんでしょうか? ギルドには、きっと情報が入ってますよね?」


 マーチさんは訝しむように首をひねります。


「レイニーって、【至剣の姫】の? どうして?」

「私、実は彼女に育ててもらったんです。だから、冒険者になったらレイニーに会いに行こうと思って」


「へえ……? ってことは、レイニーがしばらく冒険を休んで育ててた赤ん坊って、あなたのこと?」

「う……」


 そう言われると、心苦しいものがあります。私がギルドから戦力を奪っていたようなものですしね……。


「ああ、ごめんごめん。別に責めてるわけじゃないからー。ただ、興味深かっただけ。なるほどね、レイニーに育てられてたんなら、ロックドラゴンとか倒せちゃっても不思議じゃないか」


「そ、そんな大したものじゃありません……」


「またまたあ~。ま、そういうことならいいわ。教えてあげる」


 マーチさんは手元に置いた分厚い手帳をパラリと開きます。

 

「検索【至剣の姫】」

 

 そう唱えると、白紙だった手帳のページに、ぼんやりと文字が浮かび上がってきます。

 

「わ、なにが起きたんですか? もしかして、スキルですか?」

「ふふ。手帳スキル【シェアードブック】よ」


 マーチさんは自慢気に語ります。


「このスキルを使えることが、冒険者ギルドの受付嬢になるための必須条件なの。能力は、同じスキルを持つ人と手帳の情報を交換すること。とっても便利よー」

「へええ……。これがあるから冒険者ギルドって色んな情報をいち早く手に入れられているんですね」


 必須条件というわりに、これ相当手帳レベル高くないと覚えられないスキルじゃないですか? 感覚的に、多分20くらいはないといけないと思うんですが。

 

 マーチさん、おっとりして見えて、なかなか仕事ができる人みたいです。


「ふむふむ。レイニーは今、【魔の大地】で邪神四天王のひとり【白昼夢】のアミューズに挑んでいるそうよ。アミューズの拠点、アゼルバラン城は超巨大なことで知られているから、長丁場になりそうね」


「【白昼夢】のアミューズ! 数々の冒険譚に登場する、伝説の魔人じゃないですか! そんなのと戦っているだなんて、さすがレイニー、しびれます!」


 あ、いけません。冒険譚大好き人間の性質(さが)が出てしまいました。


 私はごほん、と咳払いをして冷静を装います。


「つまり、元気なんですね?」


「もちろん。なんといっても【至剣の姫】だもの。復帰してすぐに大活躍。ブランクなんて感じさせないわね」


 それを聞いて、ますます嬉しくなりました。

 

 レイニーは今も、新たな伝説を作ろうとしている最中のようです。私も早く追いつきたい。その隣に立って戦いたい。そういう気持ちになってしまいます。


「ハンナちゃん。【魔の大地】に今すぐ行きたい、なんて思ってないわよね?」


 その考えを見抜いて、マーチさんが私の鼻を指差します。


「そ、その通りですけど、なにか問題が?」

「そりゃ問題あるわよー。【魔の大地】に入るためには、最低でも冒険者ランクをBに上げなきゃいけないんだからね?」

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