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16話 プライスレスな気分です。

 なんやかんやありましたが、私達はひとりも欠けることなく街に帰還しました。


 ローゼリアの怪我も、すでに同級生の回復魔法によって完治しています。


 全員、なにかしらの魔石を手にしており、命の危険にさらされたばかりのわりには、表情が明るいです。

 

 冒険者ギルドに入ると、セシルが喜びの表情を浮かべ、ローゼリアの元に駆けつけました。


「聞いたよ。なんでも突然出現したロックドラゴンを討伐したそうじゃないか。さすがはローゼだね」


 ギルド内にはすでにロックドラゴンが出たという情報が広まっているみたいです。しかも一部間違っている情報が……。


「あ、あのね、セシル……」

「あれ? キミが持ってる魔石は、猛毒サソリの?」


 それはローゼリアが瓦礫のなかから拾ってきたものでした。


 しかもサソリは竜が放った【炎の息】で焼け死んだので、実は彼女が倒したわけじゃありません。


 セシルはようやく私との賭けを思い出したらしく、ハッとこちらに目を向けます。


 もちろん私の手には、他の魔物のものより一回り大きな、灰色の魔石がありました。


 セシルは整った綺麗な眉を、いびつにひそめます。


「ローゼ……。キミともあろう人が、同情から彼女に一番いい魔石を譲ったのか?」


 うわあ……、めちゃくちゃ勘違いしてます。ローゼリアって、そんなに性格いい子じゃないですよ?


「いつも言っているだろう。冒険者は実力主義。力のない者は仮に冒険者になれたとしても長生きしないって」


 見当外れな想像はみるみる育ち、見当外れな説教へと進化しました。


 うーん、セシルってなにげに天然なんでしょうか……。私がロックドラゴンを倒したとは、露ほども思っていない様子です。


「あ、あのね……」


 なにか言いたそうにしつつも、もごもごと言葉を濁すローゼリア。その間に、同級生達がセシルの勘違いを悪化させてしまいます。


「いや。違うんだよ、セシル。ハンナはローゼが脚を怪我してたから、その隙に魔石を横取りしたってわけ。信じられないよな」


「結局、セシルの言ってた通り、おこぼれで合格したのよ。恥知らずにもほどがあるわよね」


 さも見ていたかのような同級生達の発言です。脇目も振らずに逃げ出したの、どちらさんでしたっけね。


 大体ですよ、どっちかというと、おこぼれにあずかったのはローゼリアのほうじゃないですか。


 でもその誤解を解ける唯一のダークエルフはおろおろするばかりで、全然真実を語ろうとはしません。


 気持ちはわかりますよ。自分がドンケツだと貶めていた相手に命を救われた、だなんてカッコ悪いですもんね。


 私自身が真実を告げることも、できないわけではありません。でも、信じてもらえるはずがない以上、やるだけ無駄です。


 それに「こんなにすごいことをやったんだ」って自ら主張するなんて、カッコ悪いじゃないですか。棟梁が見ていたら「漢のすることじゃねェ」って絶対言いますよ。私、漢じゃないですけど。


「……いいさ。確かにキミは一番の魔石を持ち帰ったんだ。冒険者になるのは認めてあげる」


 セシルは敵意をむき出しにして、黙ったままの私をにらみつけてきます。


「でも、忘れないでほしいね。ボクや、ボクの父がいるティアレットで、そんな卑怯な手が通じ続けると思ったら大間違いだってね!」


 そう吐き捨てると、セシルは怒り心頭でギルドを出ていきます。


「やれやれ、ですね……」


 賭けに勝ったのに踏んだり蹴ったりって、これどうなんでしょう。


 ハイグレードな魔石を持ち帰ったものの、私がもらえた冒険者ランクはD。猛毒サソリの魔石と同じ扱いです。


 さすがにルーキーでロックドラゴンを倒すなんて例外すぎたみたいです。それに受付のお姉さんも本当に私が倒したのか半信半疑のようでしたし。


 まあ、多くは望みません。


 なにはともあれ、ですよ。私はついに――念願の冒険者になったのです!


 同級生のみんなも、ランクの差はあれど全員合格。ギルド内ではベテラン達も交え、お祝いのパーティが始まろうとしています。


 私の居場所? そんなものはもちろんないので、みんなに気づかれないよう、足早にその場をあとにします。


 さて、今日はどこの宿に泊まりましょうかね。


 そんなことを考えながら繁華街を歩いていると、後ろから足音が聞こえました。


「ハンナ!」


 振り返れば、やってきたのはローゼリアです。わざわざパーティを抜け出してくるなんて、今日のことを口止めでもするつもりなんでしょうか。


 別にそんなことしなくても、言いふらしたりしないのに。


 残念なことに、私の言葉を信じてくれる相手なんかどこにもいないですしね。


 ローゼリアは息を整えると、いきなり私に向かってなにかを放り投げました。


「えっ、な、なに?」


 投げられたものを受け取ろうとしましたが、わたわたと取りこぼしてしまいます。


 私のどんくささをなめてはいけません。いくら鈍器スキルが上がって、基礎能力が上がっていても、本質的なところはなにも変わっていないのです。


 地面に転がったものを拾い上げていたら、ローゼリアがバッと勢いよく頭を下げました。


「……今までゴメン! それと……、ありがと」


 一方的にそれだけ言うと、たたたたっとギルドのほうへ戻っていきました。


 ローゼリアが投げたのは、ヒモのついた、ちっちゃなクリスタルの飾り。どうやら彼女が杖にジャラジャラつけてたストラップのひとつみたいです。


 要するにこれを私にくれる、と。


「うーん……」


 あんまり自分の趣味じゃありません。もしかして、これでこれまでのことを全部謝ったつもりなんでしょうか。


 だとしたら、自分のやってきたことを軽く考えすぎでは?


「……まあ、そんなに悪い気分じゃないですけどね」


 今日の宿ご飯は、ちょっとリッチなメニューを選んでみてもいいかもしれません。

どんきです。1章を読んでくださり、ありがとうございました!

明日の更新からは、2章がスタート。新キャラも登場し、新しい鈍器スキルもド鈍と出てきます!

引き続き楽しんで読んでもらえると嬉しいです!!

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― 新着の感想 ―
[気になる点] ドラゴンの魔石の代金はどうなったの?ギルドが登録料として猫ばばしたの?
[良い点] 文章がとても読みやすいです。 あとハンナがかわいい。 [気になる点] 大工のおっさんたちにちょくちょく出てきてほしい [一言] 面白かったです、次の章もたのしみです!
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