15話 見せてやります鈍器の本気。
みなさまの応援のおかげで日間ジャンル別10位入りしました!
本当にありがとうございますm(_ _)m
「ふん、いい気味です」
瓦礫に足を挟まれ、逃げられずにいるローゼリアを見ながら、私はつぶやきました。
これまでのバチが当たったんです。
散々私を馬鹿にして、今日だって合格させまいと邪魔までしてきて。
「た、助けて……。お願い……」
彼女は私には気づいておらず、必死に同級生達に手を伸ばします。
同情なんかしませんよ。私がどんなにどんくさくてもわかります。
ここで助けたところで、彼女は私に感謝なんかしません。
次の日にはコロッと忘れ、また馬鹿にしてくるに違いないのです。
ロックドラゴンの口内が赤く光ります。炎の息を吐く直前です。離れていても、空気ごしに熱を感じるほど。竜の瞳は、ローゼリアに向けられています。
「ひっ、【ファイア・アロー】!」
ローゼリアは魔法を唱えますが、竜にそんな低レベルな攻撃が効くはずありません。むしろ逆効果。竜は怒った様子で、口から漏れ出す炎が激しさを増します。
「や、やだぁ。セシル……。ママァ……」
ローゼリアはとうとう泣き出しました。同級生達はみんな逃げ終わり、もう残っていません。もう助からないと覚悟したのでしょう。
ついに竜の口から、大量の炎が噴き出しました。激流です。直撃すればひとたまりもありません。
「あーあ。私って、なんてどんくさいんでしょう……」
はあ、とため息をつき、私はハンマーで地面を叩きました。
ゴウン、と凄まじい音がして、目の前に垂直の壁が出現します。
分厚い分厚い、土の壁です。
鈍器スキル【土壁造】。炎は壁に阻まれて、一切ダメージを負わせることは叶いませんでした。
私にも――その後ろにいたローゼリアにも。
「ハンナ……、どうして」
庇われたことに、ローゼリアもさすがに気づいたようです。理由を聞かれても、上手く言葉にできません。
私だって、守りたくて守ったわけじゃないんです。
「アタシを、助けてくれるの……?」
「はあ? あたぼーですよ」
イライラしながらも、私は棟梁の口癖を借りてそう告げました。
「あなたは学園にいたとき、私をとことん馬鹿にしましたよね。だから……、その分とことん知ってもらわなきゃ釣り合わないんです」
「な、なにを……?」
「鈍器を持ったときの私のすごさを、ですよ」
口にして、妙に自分自身で腑におちた感がありました。
そうです。私はローゼリアや同級生達を見返して、馬鹿にし返したかったわけじゃないんです。
ただ、友達になりたかった。
認めあえる対等な存在になり、彼らに鈍器を使う私をカッコいいと思ってほしかった。
私と友達になりたい、今からでもなろうと、みんなから言ってほしかったんです。
でも、そんなの無理でした。
みんな鈍器を馬鹿にするし、強くなったことに気づいてくれない。もしくは気づかぬふりをする。
……なんで、泣けてくるんでしょう。
今はロックドラゴンを倒すことに集中すべきなのに。
炎が収まると、ボロボロと土の壁が崩れます。竜は完全に、私を敵として認識したようです。
ぐるり、と巨体を団子のように丸めると、回転を加えて私に体当たりしてきます。
ガガン、とけたたましい音が鳴り響きます。
「ハンナ!」
ローゼリアが叫びますが、私はなんともありません。
「ドラゴンさん。……この程度の攻撃で、私を潰せるとでも思ったんですか?」
むしろダメージを負ったのはあちらのほうです。私の持つハンマーが、竜のゴツゴツとした岩の鱗にめりこみ、グチャグチャに粉砕していました。
「鈍器スキル【鎧砕き】です」
説明するまでもないと思いますが、これは重装鎧や、防御力の高い外皮を破壊するためのスキルです。
竜が悲鳴を上げ、丸めていた身体を戻します。
無防備もいいところ。ここが勝負を決めるタイミングです。
「鈍器スキル【空気の杭】!」
私がハンマーを振るうと、空中に半透明の杭が出現します。【千本釘】で生み出される釘よりも数は少ないですが、一本一本は遙かに大きい杭。それらは勢いよく竜へ向かって飛び、巨体に突き刺さります。
ギャアアアアア!
ロックドラゴンは痛みに身もだえます。その隙に、私はめりこんだ杭を足場にして竜に駆けのぼると、最後に思い切り飛び上がりました。
落下に合わせて、私はハンマーを振るいます。
「鈍器スキル――【頭骨粉砕】!」
ズ鈍ッッ!!!!!!
ハンマーがパアア、と光を放ち、竜の頭部にぐしゃりとめりこみます!
【頭骨粉砕】。
その名の通り、頭蓋骨を粉砕し、敵を絶命させるスキルです。
あ、念のため言っておきますが、スキル名がダサいのは私のセンスの問題じゃありません。
その名称がスキルツリーに書いてあるので、仕方ないのです。
私だって本当は【ウインドアリア】みたいな、もっと横文字的なカッコいいスキルが使いたいんですよ。わかってます?
こんな悲しいこと、二度と説明させないでくださいね……。
圧倒的な防御力を誇るロックドラゴンも、頭を潰されてはたまらなかったようです。
ズシン、と巨体を横たえ、ついには大きな灰色の魔石へと変化しました。
地面へと降り立った私に、ローゼリアが信じられないものを見るような眼差しを送ってきます。
「アンタ、本当にハンナ……? あの、ドンケツの……?」
「そうです。トロくてどんくさい、あのドンケツハンナですよ」
そう返すと、ローゼリアは怯えたようにビクリ、と震えました。
これまで私にしてきた仕打ちを思い出したのかもしれません。私は自嘲ぎみに笑いました。やっぱり、友達になるなんて、夢のまた夢ですよね。
同級生達の声が近づいてきます。
おそらく、洞窟を出てからようやくローゼリアがいないことに気づいたんでしょう。
ふーん、友達のために戻ってくるなんて、いいところもあるじゃないですか。
その友達のなかに私が含まれていないのが、とても残念です。




