表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

15/106

15話 見せてやります鈍器の本気。

みなさまの応援のおかげで日間ジャンル別10位入りしました!

本当にありがとうございますm(_ _)m

「ふん、いい気味です」


 瓦礫に足を挟まれ、逃げられずにいるローゼリアを見ながら、私はつぶやきました。


 これまでのバチが当たったんです。


 散々私を馬鹿にして、今日だって合格させまいと邪魔までしてきて。


「た、助けて……。お願い……」


 彼女は私には気づいておらず、必死に同級生達に手を伸ばします。


 同情なんかしませんよ。私がどんなにどんくさくてもわかります。


 ここで助けたところで、彼女は私に感謝なんかしません。


 次の日にはコロッと忘れ、また馬鹿にしてくるに違いないのです。


 ロックドラゴンの口内が赤く光ります。炎の息を吐く直前です。離れていても、空気ごしに熱を感じるほど。竜の瞳は、ローゼリアに向けられています。


「ひっ、【ファイア・アロー】!」


 ローゼリアは魔法を唱えますが、竜にそんな低レベルな攻撃が効くはずありません。むしろ逆効果。竜は怒った様子で、口から漏れ出す炎が激しさを増します。


「や、やだぁ。セシル……。ママァ……」


 ローゼリアはとうとう泣き出しました。同級生達はみんな逃げ終わり、もう残っていません。もう助からないと覚悟したのでしょう。


 ついに竜の口から、大量の炎が噴き出しました。激流です。直撃すればひとたまりもありません。


「あーあ。私って、なんてどんくさいんでしょう……」


 はあ、とため息をつき、私はハンマーで地面を叩きました。


 ゴウン、と凄まじい音がして、目の前に垂直の壁が出現します。


 分厚い分厚い、土の壁です。

 

 鈍器スキル【土壁造(つちかべづくり)】。炎は壁に阻まれて、一切ダメージを負わせることは叶いませんでした。


 私にも――その後ろにいたローゼリアにも。


「ハンナ……、どうして」


 庇われたことに、ローゼリアもさすがに気づいたようです。理由を聞かれても、上手く言葉にできません。


 私だって、守りたくて守ったわけじゃないんです。


「アタシを、助けてくれるの……?」

「はあ? あたぼーですよ」


 イライラしながらも、私は棟梁の口癖を借りてそう告げました。


「あなたは学園にいたとき、私をとことん馬鹿にしましたよね。だから……、その分とことん知ってもらわなきゃ釣り合わないんです」


「な、なにを……?」


「鈍器を持ったときの私のすごさを、ですよ」


 口にして、妙に自分自身で腑におちた感がありました。

 

 そうです。私はローゼリアや同級生達を見返して、馬鹿にし返したかったわけじゃないんです。


 ただ、友達になりたかった。


 認めあえる対等な存在になり、彼らに鈍器を使う私をカッコいいと思ってほしかった。


 私と友達になりたい、今からでもなろうと、みんなから言ってほしかったんです。


 でも、そんなの無理でした。


 みんな鈍器を馬鹿にするし、強くなったことに気づいてくれない。もしくは気づかぬふりをする。


 ……なんで、泣けてくるんでしょう。


 今はロックドラゴンを倒すことに集中すべきなのに。


 炎が収まると、ボロボロと土の壁が崩れます。竜は完全に、私を敵として認識したようです。


 ぐるり、と巨体を団子のように丸めると、回転を加えて私に体当たりしてきます。


 ガガン、とけたたましい音が鳴り響きます。


「ハンナ!」


 ローゼリアが叫びますが、私はなんともありません。


「ドラゴンさん。……この程度の攻撃で、私を潰せるとでも思ったんですか?」


 むしろダメージを負ったのはあちらのほうです。私の持つハンマーが、竜のゴツゴツとした岩の鱗にめりこみ、グチャグチャに粉砕していました。

 

「鈍器スキル【鎧砕き】です」


 説明するまでもないと思いますが、これは重装鎧や、防御力の高い外皮を破壊するためのスキルです。


 竜が悲鳴を上げ、丸めていた身体を戻します。


 無防備もいいところ。ここが勝負を決めるタイミングです。


「鈍器スキル【空気の杭】!」


 私がハンマーを振るうと、空中に半透明の杭が出現します。【千本釘】で生み出される釘よりも数は少ないですが、一本一本は遙かに大きい杭。それらは勢いよく竜へ向かって飛び、巨体に突き刺さります。

 

 ギャアアアアア!


 ロックドラゴンは痛みに身もだえます。その隙に、私はめりこんだ杭を足場にして竜に駆けのぼると、最後に思い切り飛び上がりました。


 落下に合わせて、私はハンマーを振るいます。


「鈍器スキル――【頭骨粉砕】!」


 ズ(ドン)ッッ!!!!!!


 ハンマーがパアア、と光を放ち、竜の頭部にぐしゃりとめりこみます!


 【頭骨粉砕】。


 その名の通り、頭蓋骨を粉砕し、敵を絶命させるスキルです。


 あ、念のため言っておきますが、スキル名がダサいのは私のセンスの問題じゃありません。


 その名称がスキルツリーに書いてあるので、仕方ないのです。

 

 私だって本当は【ウインドアリア】みたいな、もっと横文字的なカッコいいスキルが使いたいんですよ。わかってます? 


 こんな悲しいこと、二度と説明させないでくださいね……。

 

 圧倒的な防御力を誇るロックドラゴンも、頭を潰されてはたまらなかったようです。


 ズシン、と巨体を横たえ、ついには大きな灰色の魔石へと変化しました。


 地面へと降り立った私に、ローゼリアが信じられないものを見るような眼差しを送ってきます。


「アンタ、本当にハンナ……? あの、ドンケツの……?」


「そうです。トロくてどんくさい、あのドンケツハンナですよ」


 そう返すと、ローゼリアは怯えたようにビクリ、と震えました。


 これまで私にしてきた仕打ちを思い出したのかもしれません。私は自嘲ぎみに笑いました。やっぱり、友達になるなんて、夢のまた夢ですよね。

 

 同級生達の声が近づいてきます。


 おそらく、洞窟を出てからようやくローゼリアがいないことに気づいたんでしょう。


 ふーん、友達のために戻ってくるなんて、いいところもあるじゃないですか。

 

 その友達のなかに私が含まれていないのが、とても残念です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ