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14話 いきなり強すぎるモンスターです。

「さあ、次だよ、次! 猛毒サソリはアタシが倒すんだから!」

「さすがローゼ、頼もしー!」

「ローゼなら絶対、やれるって!」


 わいわいと盛り上がる同級生達。

 ローゼリアもまた、私の鈍器スキルは見なかったことにしようと決めたみたいです。


 あーあ……。それにしてもガッカリです。


 どうやら私は、なんだかんだちょっと期待してたみたいなんです。


 鈍器スキルを使えば、同級生達を見返してやれるんじゃないかって。


 私だってやればできるんだって、みんなが認めてくれるんじゃないかって。


 でも、この感じだと無理そうですね……。


 仮に私が一番いい魔石を手にいれても、まぐれ、たまたまで終わらせられそう。


 私が使ってるの、鈍器ですしね。


 やっぱり、カッコよさが誰にでもわかりやすいのは剣、なのかなあ……。


 剣、やっぱり憧れるなぁ……。セシルみたいに颯爽と敵を倒せたのなら、きっと全然違うのにな……。


 そんなことを未練たらしく考えながら、洞窟内を進みます。路は少しずつ下へ、下へと向かっています。


 しかし、この洞窟は、そんなに深くはありません。


【浅闇の洞窟】の名が示す通り、ここは初心者向けの低層ダンジョン。敵も強いのはほとんど出ないのです。


「にしても、モンスターの量、多すぎじゃね?」


 先頭を進む戦士志望の男子がぼやきました。なんだかすごい勢いで洞窟の奥からネズミが出てくるんです。


「うーん、おかしいな……。普段はもっと狭い場所に潜んでいて、こんなに一度に出てくることはないんだがなあ」


 試験官のおじさんも同情するように言います。お守り役の立場なので手を貸してはくれませんが。


 途中で魔石を持ち帰るとEランクをもらえる吸血コウモリなどを倒しながら、奥まで進んだところ――ついにお目当ての魔物に出会えました。


 猛毒サソリです。大きなハサミと、毒のトゲがついた長い尾を持つ魔物。


「アレを倒せば、Dランク……! そしたらセシルともパーティを組める!」


 ローゼリアはうっすら笑うと、呪文を唱え始めます。


 セシルは今、Cランク。ランクがふたつ以上違うと、一緒に冒険をしようと思ってもギルドから正式なパーティだと認めてもらえません。


 どうやらDランクを勝ち取り、セシルとパーティを組めるようになることが、ローゼリアのモチベーションになってるみたいです。


 彼女は呪文の詠唱に、さっきより時間をかけています。どうやら【ファイア・アロー】よりも強力な魔法を使うつもりみたいです。


 無防備な彼女を守るように、同級生達が周囲をかためます。ローゼリアにトドメをささせるため、囮に、盾になるつもりのようです。


 この場面だけ切り取れば、美しい友情だなあと思えそうな気もするんですけどね……。


 そもそも私は今、彼女達と競いあっている最中です。


 早い者勝ちは、あっちが言い出したこと。私はハンマーを強く握ると、感情を殺し、猛毒サソリへと突進しました。


 私は私で、レイニーを探すためにどうしても冒険者にならなくちゃいけないんです!


 ガツンッ!


「いったあ!」


 走っている最中になにかにけつまづいて、私は叫び声を上げました。


 ああ、もうやだ。レベルがいくら上がっても、ドジだけは治りません。


 涙目になって足下を見ると、子どもの頭くらいの大きさの、古びた壺がありました。


 蹴ってもピクリとも動かなかったので、相当重たいと思われます。表面にはやたら細かな文様が彫られていて、もしかしたら値打ち物かもしれません。


 いやいや、そんなこと考えてる場合ですか。今はとにかく、ローゼリアの詠唱が終わるより先に猛毒サソリを倒すことを考えないと。


 その時でした。


『これ、封魔の壺やんけ』

『あらま、解かれとるがな』


 私のハンマーに宿っている、これまで全然喋らなかった鈍器の神様――大小二匹の熊さん達がそうささやきあったのは。


 どうにもその会話が不吉なものに思え、私はとっさに猛毒サソリから距離をとりました。


 瞬間――ゴウッ、と巨大な炎がサソリを包みます。


 さっきローゼリアが使っていた【ファイア・アロー】とは比べ物にならない威力です。


 彼女がもっと上位の魔法を使ったのでしょうか?


 いいえ、違います。詠唱は終わっていませんでしたし、炎は洞窟の奥側から飛んできました。


 なにより、ローゼリアが驚いた顔をしているのですから、やったのが彼女じゃないのは明らかです。


 ズシン、と洞窟全体が揺れ、パラパラと細かな土が落ちてきます。


 通路の奥に――やたら大きな双眸が光りました。


「うわあああ!」


 同級生のひとりが、尻餅をついて悲鳴を上げます。


「なんでこんなとこに、ロックドラゴンがいるんだ?」


 ごつごつとした岩の肌を持つ竜、ロックドラゴン。


 Aランク冒険者ですら手を焼くという大型の魔物が、なんとこの初心者向けの洞窟に姿を現したのです。


「ははーん……」


 どうしてネズミ達が多かったのか、逃げるように洞窟の外を目指していたのか、ようやくわかりました。


 きっとこのロックドラゴンが目覚めたからです。


 おそらく封印されていたのは、この壺の中。


 魔法の力で、竜の身体はぎゅっと縮められていたのでしょう。古代魔法ならできないこともない、はず?


 うろ覚えですが、なにかの本でそんな話を読んだ記憶があります。


「お、お前達、なにがあってもロックドラゴンを刺激するなよ! 落ち着いて避難しろ!」


 試験官さんが声を張り上げますが、冷静に聞けている人はいないようです。


 混乱した同級生達はあわてふためき、悲鳴をあげながら我先にと逃げ出します。


 彼らの声が、ロックドラゴンを興奮させたのでしょうか。メキメキ、と狭い通路を崩しながら、竜がその巨体を広間へとねじこんできます。


「うわああああ!」


 竜の強引な進行による衝撃は洞窟に伝わり、ガラガラと天井が崩れだしました。


 ここで戦うのは、どう考えても危険です。私もひとまず、洞窟の外へと逃げることにしました。


「ちょっと、みんな待ってよ……!」


 そのとき、助けを求めるか細い声に気づきました。


 ローゼリアです。


 天井から落盤した岩石に、脚を挟まれてしまっています。


 おそらくは同級生達のなかで唯一、竜と戦うべきか迷ったんだと思います。


 どうせ倒せたらセシルに褒めてもらるとでも考えたんじゃないでしょうか。無謀にもほどがあります。

 

「ヤダ、置いてかないでってば! アタシ、動けないの!」


 同級生のみんなに彼女は呼び掛けますが、気づいてもらえません。竜から逃げるのに必死で、後ろを気にする余裕がないのです。


 ロックドラゴンが、ズシン、ズシンとローゼリアへと近づきます。


 このままいけば、彼女は竜の炎に焼かれるか、瓦礫の下敷きになるかのどちらかでしょう。

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[良い点] 邪神様まさかの関西弁 [一言] 更新楽しみにしています!
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