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103話 空からの剣は防げません。

「ハンナ殿が飛空挺を縫い止めたぞ! 今度は我らの番だ!」


 騎士さんたちは雄叫びを上げ、私が造った巨大な円錐のそばに集まります。


 なんのために? 決まってます。飛空挺に乗り込むためですよ!


「騎士の皆さん、準備はいいですか!?」

「おお!」

「じゃあ行きますよ! 鈍器スキル【大樹の枝】!」


 私は円錐の根元を力いっぱい叩きます。するとあら不思議、円錐の側面からボコボコと枝が伸び、騎士さん達の足場になったではありませんか。しかもその足場はひとりでに上昇していきます!


 もちろん、これは騎士さんたちを飛空艇へと届ける、勝利への道! これで肩にかけていた鉤爪のロープをなんに使うのかわかりましたね。円錐の枝から、飛空挺に飛び乗るために使用するのです!


【魔力障壁】さえなければ、マリアンちゃんの転移魔法でもっと楽に飛空艇に辿り着けるんですけど……。でも、創意工夫があれば、こんな逆境だって乗り越えられるわけです!

 

 ひとり、またひとりと各々の足場に飛び乗っていく騎士さん。その間にも、先頭の騎士さんは円錐の半分近くまで上っています。


 なぜ私が先陣を務めていないかと言うとですね、鉤爪ロープを使いこなせないからです。【魔力障壁】の内側でも【大樹の枝】を自由に動かせるかはわかりませんし。

 

「とはいえ、私もそろそろ追いかけますか」


 飛空挺に飛び乗れた人が、私にもロープを垂らしてくれることになっています。


 アスピスを相手できるのはおそらく私だけでしょうし、あんまり待ちすぎるわけにもいきません。


「見て。あれ」


 ところがそのとき、ミラさんが空を指差しました。よく見ると――飛空挺の腹部に取り付けられた大きな剣が、真下を向いているではありませんか。

 

 しかも剣身には、どんどんと青白い光が蓄えられ、閃光をほとばしらせています。


「やべェな……! ハンナ、引き上げだ!」

「はい! マリアンちゃんも今すぐここから離れてください!」


 私は円錐を叩き、上昇する枝を下降に転じさせます。


「撤退、撤退ィー!」


 根元近くにいた騎士さんたちは無事に地面へと降りられますが、全員を降ろすのはとても間に合いません!


「鈍器スキル【土傘造(つちがさづくり)】!」


 次善の策を、鈍ッ! 私は円錐を変形させ、先端を傘状に変化させます。要は魔法攻撃を防ぐための盾です!


 そして――その瞬間は訪れました。

 

 ヒュパン。剣から放出された魔力が、天から細い、細い光の糸を落としました。

 

 あれ? こんなもの? そう思った途端、遅れてやってくる衝撃。

 

 ガアァァァアアアアン!

 

 円錐が内側から爆発しました! 鈍器スキルで頑丈に、堅牢に固めたはずの土が、あっという間にボロボロになり吹き飛びます!

 

「うわぁああああああ!」


 まだ枝に乗っていた騎士さんたちはひとたまりもありません。空中で足場を失い、四方へと落下していきます。さっき枝の進みを逆にしたおかげで高さはだいぶマシになってますが、それでもこのまま叩きつけられれば死亡は免れません。

 

 考えている暇はないです。私は無我夢中で地面に大ハンマーを叩きつけました。

 

「鈍器スキル【(やわ)らぎ沼】!」


 ハンマーで叩かれたところから、荒野がドス黒く変わっていきます。うおー、間に合ってください!

 

 そうこうしているあいだにも騎士さんたちが地面に激突していきます。けれど、その音は凄惨なものにはなりませんでした。


 どぼどぼどぼどぼ! 黒く変色した土にめりこみ、もとい、飲み込まれていきます。

 

「ぶえっ! な、なんだこれは!」


 騎士隊の先頭あたりにいた団長さんが、ドロドロになった地面から顔を突き出します。


 ふう。なんとか間に合ったみたいです。


「地面の硬さを変えました。地下水を引っ張ってきて、ここら辺一帯を沼みたいにしたので、落下の衝撃はそれなりに吸収できたはずです」

「た、助かった! ハンナ殿、恩に着ますぞ!」


 団長さんは感謝してくれますが、それでも怪我人は相当出たに違いありません。現にそこら中から、騎士さんたちの呻き声が聞こえます。

 

「怪我してない人は、他の人の助けに回ってください! そんなに深くはしてませんけど、沼で溺れたりしたら大変ですから!」


 声をかけているうちに、避難していたマリアンちゃん、ミラさん、ガレちゃんが戻ってきました。

 

「ミラも手伝う」

「ガレちゃんは、沼に埋まっちゃって見えなくなってる人を探すっス!」


 そう言って、ふたり(ひとりと一匹)は汚れるのもお構いなしに、バシャバシャと沼のなかへと入っていきます。鈍器スキルで沼を元の硬さに戻すのは簡単ですが、今はしないほうがいいでしょう。騎士さんたちごと固めてしまって、身動きとれなくなりますからね。


「悪りィ。オレの見立てが甘かった。アレの発動にはもっと時間がかかるはずだったんだが……」


 申し訳なさそうに、マリアンちゃんが言います。


「今のが【堕天の剣】ですか……」


 飛空艇イクスモイラに搭載されているメイン兵器【堕天の剣】。もちろん、その存在は文献にも書かれていました。けれど、発動には十分以上の魔力充填が必要――そう記されていたのです。

 

 だからこその強行突入作戦。【堕天の剣】を放つ準備が終わる前に、飛空挺に乗り込み、制圧する――マリアンちゃんが考えていた本命の策は、思いがけないところから崩れ去ったのです。


『無駄な抵抗はやめるでござります』


 アスピスの声が、大きく拡張されてあたりに響きわたりました。同時に、空に彼女の顔まで映し出されるではありませんか。

 

「あれがアスピス。フン、話に聞いてた通り、しけた面してやがんな」

『どうもマリアン王女。お目にかかれて光栄でござります。そしてくたばれ、でござります』


 うわ、こっちの声も聞こえているみたいです。もうなんでもありですね、神様が造った魔導兵器って!


『イクスモイラについて、それなりに調べてきたようでござりますが……、我々は【剣の巫女】を迎えるまで、何年も何年もかけて、この飛空挺に改造を重ねたでござります。その結果、移動速度を代償にして、攻撃までに要する時間を皆無にしたのでござります。今ではこの【堕天の剣】、連射することすらも可能』


「なんだと……?」


 マリアンちゃんの表情が一気に青ざめます。【堕天の剣】が、王都へ雨のように降り注ぐところを想像したのでしょう。

 

 移動速度が遅かいのはセシルが【剣の巫女】としてふさわしくなかったから、というのは私の思い違いだったようです。飛空挺は不完全だったわけではなく、違う形での完成形だったのです。


 もはや【槍ぶすま】のような、地形変形による攻撃も効果はないでしょうね。さっきのは不意打ちだから通じただけ。次同じことをしても、飛空艇に到達する前に【堕天の剣】を食らうことになるでしょう。

 

『ようやく理解したようでござりますね、そなたたちの無力さを。そして理解したのなら、とっとと自分の首も含めて、王族の命を丸っと差し出すでござります。イクスモイラが王都につくまでは、あと八日しかないのでござりますよ?』


「ふざけんな! それが無茶な注文だってことくらい、テメェだってわかるだろうが!」


『どんなに無茶だろうと、民のことを思えばやるべきではござりませんか? 上に立つ者として、勤めを果たすのは今にござります』


 そこまで言うと、大きく映し出されていたアスピスの顔は消え、青い空が戻ってきました。


 飛空挺の腹部に開いた穴も、航行には大した支障はなさそうです。こんなことなら、もっと深くめり込ませておくべきでした……!


「【堕天の剣】がある限り、下からの攻略は無理ってわけですね……」

「大丈夫っス! まだガレちゃんがいるっス!」


 私がよほど暗い顔をしていたからでしょう。何人かの騎士さんを沼から掘り起こしたガレちゃんが、泥んこワンコ姿で戻ってきました。


「ガレちゃんが空飛ぶ魔物に変身して、ご主人様を運ぶっスよ!」

「ええ!? その作戦、まだ生きていたんですか?」

「当たり前っス! ガレちゃんがいれば勝算百パーセント! 称賛も百万パーセントっス!」


 き、気乗りしません……! 私、乗り物は苦手なんですって!


 でも、ガレちゃんの気持ちを無碍にするわけにもいかないし。むむむ……。


「ガ、ガレちゃんは魔石がないと変身できないでしょ? あー、残念だなあ。ここに空を飛べる魔物の魔石があれば、ガレちゃんの力を借りて飛空挺を堕とせたんだけどなぁー」


 ダラダラと冷や汗をかきながら、なんとか作戦をナシにしようとする私。


「そう言ってくれると思ったぜ」


 ところがどっこい。マリアンちゃんは待ってましたとばかりに私の肩を叩くではありませんか!


 しかも、ポケットから真っ赤な魔石を取り出しましたよ……?


「こんなこともあろうかと、持ってきていたんだ」

「そ、それは……?」

「飛竜の魔石だ。高級品ではあるが、飛空挺を堕とせるのなら安い。ぜひ、コレを使ってくれ!」

「あ、あはは……。用意がイインデスネ……」

「常に最悪のケースを想定する。それが責任者の務めだからな」

「マリアンちゃん、さすがっス!」


 私のダダ下がるテンションには全く気づかず、盛り上がるマリアンちゃんとガレちゃん。逃げ道なし。これはもう、やるしかない流れじゃないですか!


「――飛空艇に飛竜で立ち向かう? ははは、そんな無謀な策、やめておいたほうがいいですよ」


 あっ、私の気持ちを代弁してくれる声が! ありがとうございます! その言葉を待っていました!

 

 と、思いましたが、これ誰の声です? 聞きなじみが全然ないですし、兵の声ってわけでもなさそうです。


 振り返ると、そこに立っていたのは――十二、三歳くらいの少年でした。低い背と、くりっとした瞳が印象的な幼い顔。けれど、服装は年齢にふさわしくない、魔術師が着るような濃紺のローブです。

 

 アンバランスなはずなのに、妙に似合って感じられるのは、一体どうして?


「テメェ、どこのどいつだ」


 どうやらマリアンちゃんのお知り合いでもないみたいですね。そもそも、いつの間に現れたんでしょう。


 気づかなかったのは、私が鈍感だからってわけじゃないですよね……。


「飛竜と言っても、どうせ南方のイジェフあたりから取り寄せた、レッサードラゴンの魔石でしょう? アレの機動性じゃ、イクスモイラに搭載されている対空兵器【(つが)え知らずの弓】の餌食になるだけです。無駄死にしたいのなら話は別ですが、僕も師匠も全くオススメしません。愚策も愚策。大愚策ですよ」


「そんなこと聞いてねェ。先にこっちの質問に答えろよ」


 マリアンちゃんにジロリと睨まれても全く動じず、少年はにこりと微笑んで一礼しました。


「これは失礼しました。私は賢者アバティンの弟子、グレミール。お困りの皆さんに、飛空挺を撃墜するための策を授けるため馳せ参じた次第です」


「アバティンの弟子……?」


 賢者アバティン――それはレイニーのかつての仲間。【大いなる実験者】と呼ばれる狂魔術師(マッド・ウィザード)の名でした。

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[気になる点] 性格が最悪のセシルの過去が悲劇的だったから、実は姉妹だったからって安易に友好的になっていく展開だけは正直見たくない…。 過去に何があっても、今までやってきたことや性格はは何も変わらない…
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