10話 レベルが高いのも困りものです。
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「机の神様が……、なんですって? 言っている意味がよくわからないんだけど」
やってしまいました。得意気に語ってしまいましたが、よく考えたらこんな話、わかるわけないですよね。
物には神様が宿っている。それは常識ですが、その姿を見たり、聞いたりできる人はいません。たまに見えると主張する人も出てきますが、ほぼ間違いなくペテン師です。
でも、鈍器レベルが一千万を超えたあたりから、私には見えるようになってしまったのです。いろんな道具に宿る神様が。
昔、神様は道具には宿っておらず、人間を見下ろせる天界に住んでいたそうです。
ところが鈍器を司る神、邪神ドルトスは人間を滅ぼし、地上を我が物にしようと企てました。その野望を実現するために反対する他の神を次々と鈍器で殺していったのです。
結果、ドルトスは自分以外の神を全て殺してしまいました。それはもう、鈍器でぐっちゃぐちゃに。神の血肉は地上に降り注ぎ、神は細切れとなって自らが司っていた道具にとりついたのだとか。
勝利したドルトスもまた無傷では済みませんでした。
傷ついた彼の血肉もまた、地上に降って鈍器に宿ったのだと言われています。そしてドルトスの本体は【魔の大地】の最北端で、今も眠っているのだとも。
道具にとりついている神様の姿は、半透明の小人といえば一番伝わるでしょうか。
外見や年齢は様々で、このカウンターテーブルに宿る神様は髭の長い、村の長老みたいに見えます。
私が来たときはダラダラと寝転がっていましたが、ハンマーで叩いたらシャキッと正座してくれました。なかなか可愛いおじいちゃんです。
「ええと。つまりあなたは、魔法使いなの?」
魔法使い。なんともカッコいいですが、鈍器で叩き起こしたり、叩き直したりする乱暴なやり方しかできない私に、そんな高尚な名乗りは許されません。
「いいえ、強いて言うなら私は――鈍器使いです」
「なるほど。鈍器ね、鈍器。…………鈍器?」
お姉さんがおずおずと、私の持っているハンマーを指差します。
「鈍器って……、そういう?」
「はい。これを武器として使います」
「マ、マスター」
お姉さんは近くを通りかかったおじさんを呼びとめます。
もしかして、ギルドマスターでしょうか。長身で精悍な、いかにも元戦士といった風貌の人です。
「ね、ねえ。ハンマーって、武器扱いでいいの? 大工用品じゃなくて?」
「うん? 東のほうじゃ武器として使う地域もあるらしいが……。ここらじゃあんまり見ないな」
マスターは私が背負っているドデカいハンマーをじろりと見やります。
「それ、アンタに振り回せるのか? どう見ても、体格と合ってないように見えるんだが」
「大丈夫です。鈍器のスキルだけは高いので!」
私の取り柄といったらそれくらいなのです。しかし、受付のお姉さんとマスターはまだ信じられないといった様子。
「とりあえずスキルを見せてくれる?」
それは私も望むところです。以前ならレベルゼロを知られるのが嫌でためらっていたところですが、今はまったく気になりません。
「ツリー・オープン!」
かけ声に応じて表示されるツリー。それを見て、お姉さんは目を丸くしました。
「ま、マスター。なんか表示が変なんだけど」
「ん、なんだこれは……」
ふたりの反応に、私は苦笑せざるを得ませんでした。
そりゃあそうですよね。ふたりの前にあるのは、信じられないくらい無数に枝分かれしたスキルツリー。
さらに、馬鹿馬鹿しいほど膨れあがったレベル表示です。
『鈍器レベル 105,224,578』
つまり、およそ一億。
そりゃ変だと思いますよね。でも変なのはスキルツリーじゃないんです。多分、鈍器の神様のほうです。
ちなみに、鈍器の神様は熊の姿。
手足の短い、愛らしい姿で、私の二振りのハンマーにも、一匹ずつ宿ってます。サイズが違うので、見比べると親子熊みたいです。
これ、邪神ドルトスの血肉から生まれた神様なんですかね?
邪神にルーツがあるにしてはやたら可愛いですし、どっちも目の焦点が微妙に合ってなくて、すごく馬鹿っぽいです。邪悪な気配は全然しません。
やっぱり神話なんて、棟梁の言うとおりあんまりアテにならないものなのかも。
マスターは私にツリーを何度か出し直させましたが、結果は同じ。
「ふむ。こんなことは初めてだ。仕方ないからこのおかしな表示は無視して、登録試験を受けてもらうとしよう」
うーん……、やっぱり信じてもらえませんでした。
本来なら武器レベルが20を超えていれば、試験は免除になるんですが……。
まあ、仕方ないですよね。そもそも鈍器が武器と認められるかも怪しかったわけですし。
「ちょうどよかった。これから一斉試験があるのよ。それに参加してもらえる?」
「一斉試験?」
「ええ。ソルトラーク冒険者学園の生徒さんが、そろそろ来るはずだから」
「え」
……こんな最悪の間ってあるでしょうか。そういえばもう季節は春。私を馬鹿にしてきた同級生達が卒業を迎える時期です。
うわー、会いたくない!
そそくさとその場を立ち去ろうとしましたが、時すでに遅し。
「ったく、ヤダヤダ。超ダルーい。あとレベルが1上がってれば、こんな試験やんなくてよかったのにさぁ」
扉の開く音とともに、キンキンと耳障りな声が聞こえてきます。
魔術師志望のローゼリア・シュルツ。
いつも先陣を切って私を馬鹿にしてきた女ダークエルフでした。
今日も読んでいただき、本当にありがとうございますm(_ _)m
むさい男達に囲まれてたハンナですが、ここから女の子がたくさん出てきます!(ギャップがすごい)
性格がよい女の子も、性格が悪い女の子も、みんなかわいく思えるどんきです。
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感想などももらえると、たいへん気合が入ります。はあー、どんき!