異世界召喚物語
第0話「金真紅の竜少女」
side-エリス
世界が金色に染まっている。
背を向けて立つ金の髪を持つ少女が、剣を振るう。
その一薙ぎが、眼前に広がる幾多の建造物を人を変えていく。
「………」
声が出ない。いや、出ようはずもない。
少女が剣を掴むその瞬間まであった
景色は
営みは
想いは
少女が再び剣を鞘に納める時にはもう跡形も無くなっていた。
そんな光景を目の当たりにして声など出せようものか。
剣が振るわれた先に物体は存在していなかった。
人々を守り、文明の発達として象徴され、在ることを許された
人ともに大地に根付いた建造物は、その人ともに時を同じくして
1人の少女によって終わりを迎えた。
剣撃による物理的な破壊ではない。
剣先より放たれる暴力的なまでの魔力光。
その光の奔流が焼いたのだ。
建造物はその熱量に、
溶けたチーズのように容易く
人々は抗う間も無くマナヘと返還された。
死を迎えた人間はマナとなり天へと向かう。
その色は眩いほどに美しい金色にをしている。
振るわれた魔力光もまた玲瓏たる金色を放っていた。
世界が金色に染まっている。
金色の少女が
金色の魔力を以って
金色のマナを天へと送る
冗談みたいな出来事だ。
そう思うとほんの少し笑みさえこぼれる。
「ねぇ…」
少女は振り返る。
腰までかかった金髪は軽やかに舞う。
その髪艶は空に舞う輝きよりも艶やかで、その圧倒的な力をその一端ですら感じられる。
真紅を基調とした目を引く装いも、髪色と合い洗練されている。
しかしそれに変わって…
その表情に感情はない。
まるで朝起きて、日付けか曜日を確認するかのように
当たり前のことをしたように
彼女はそれを終えてこちらに問いを投げかける。
「これと同じことを、また私にさせるつもり?」
つまらない。
そう続けて吐き捨てるような物言いで。
「いや…」
ようやく声が出せた。
この数刻の間、落ち着きを取り戻せた。
「キミに退屈はさせない」
言葉を一つ一つ手繰るように話す。
自分には彼女を従える絶対的な力があるというのに…我がことながらこの臆病さは自己嫌悪だ。
「キミの力で終わらせたい戦いがある。さあ、我が城へ」