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となりのひと

作者: 五春 束頁

私の日常には、よく隣人が顔を出す。例えば、朝、大学に行くためにアパートを出るとき。例えば、講義を受ける教室の窓際。例えば、帰り道のスーパーの野菜コーナー。

不思議なことに、この世界の日常風景に隣人が混ざりこむことは当たり前のことらしい。人はそれを幽霊と呼んだり、妖精と呼んだり、キャラクターと呼んだりする。

けれど、私の記憶が確かならば、隣人と呼ばれるのは私たちのほうだ。もともと、彼らの世界のほうが本筋というか、本来の姿だという認識が私の頭の中には納まっている。

胡蝶の夢のように、表裏一体の世界がたまたま交わってしまった結果見えるのが隣人で、それは確かに自分たちが本筋だと考えてしまうのも当然のことだ。私たちが暮らしている世界、それを認識しているからこそ自分たちが本筋で、向こうのほうが勝手に交わってきたのだ、という人もいる。確かにそれはそうなのかもしれない。

けれど、歴史をひも解くと、その認識は彼ら隣人がしているべき認識なのだ。結局のところ、主体性がどこにあるか、という問題らしい。


そもそもの隣人というのは、異なる世界線に出てくる登場人物だ。姿かたちは様々で、けれど私たちとほとんど変わらない常識を持っている。そしてそういった類だからこそ、講義にしれっと混ざっていたり、電車の中で居眠りしていたりしていても誰もが気にしない。

結局、どうにもできないから放っておく、ということのようだ。


さて、話を本筋に戻そう。この世界が本筋かどうか、というところだ。

主体性がどうのこうの、といった問題だと私は書いたが、本来なら私たちのほうが創作物なのだと、古本屋で見つけたオカルト雑誌に書いてあったのを覚えている。残念ながらその本は既にペットのインコがビリビリに破いてしまい残っていないけれど、当時中学生だった私にとってかなりの衝撃的な内容だった。確かに言われてみると私たちは大抵が十代で、成人していても三十代の人はあまり見かけない(向こうでは三十路、というそうだ)。せいぜいが二十三~四で、時折仙人のような髭の老人を見掛ける程度だ。

髪の色も髪型も種々様々なのが当たり前だと思っていたけれど、よく観察してみると隣人は大抵が黒い髪で、ピンクやオレンジといった髪色はほとんど見かけない。「この隣人はしわが多いし腰も曲がってるな」といった隣人は白髪だけれど、老いることによってそうなるのだそうだ。

私たちも当然歳は取るけれど、ある一定程度になるとどこかへ行ってしまうからどんな髪色になるか、というのは隣人を観察することでしか分からない。


そう、ある程度の歳になるとどこかへ行く、ということだ。

私も、近所のエミも、大学のよっちゃんも、物心つくころには家に独りぼっちで、毎日近所の年長者が世話をしてくれていた。大学の教授なんかも、私たちと同年代で、厳しい国家試験を潜り抜けたからこうして今いるんだよ、という話を入学オリエンテーションでしつこく聞かされる。小中高、どこでもだ。

だから、私たちは一定の年齢以上は存在しない。私もこうして卒論を書いているけれど、一年後二年後にどうなっているかなんてのは想像がつかない。そもそも教授自体も講義中にトイレに行ったかと思えば別の教授が入ってきて平然と続きをし始める、なんてこともザラだ。○○教授は、と聞くと「あぁうん。彼はきたんだ」と言われて困った顔をするばかりだ。

そんなものだから、私はこの卒論を提出して、否定されたいのだ。


この世界の常識を超えて、隣人たちの世界に影響を与えるために。


大学にいられるのはあと三か月ほど。恐らく、私の余命もそんなものだろう。

この卒論が、というより手記に近いが、これが隣人に届くことを祈りながら、私はこうして文章を書き連ねている。

そろそろ年が明ける。大晦日だというのに私は大学卒 業  を    賭    け


答えは貴方が読んでいるということです。

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