お墓参り
8月14日。
今日はお母さんとお父さんのお墓参りに行く予定なので、牛藤のバイトはお休みさせてもらった。
午前中から2人で家を出て、電車に乗る。
お墓参りの場所は、私の家の最寄り駅である小久保駅から魚ヶ崎駅方面の電車に乗ってそこから30分程電車に揺られ、加古崎駅で下車し、その後、駅からさらに30分程バスに乗りようやく到着となる。
8月も中旬に差し掛かり、外は酷い猛暑となっていた。
私はプラスチック製の桶に水を汲み、お父さんのお墓まで運んだ。
最早それだけで汗だくになってしまう。
お母さんはここに来る途中で買った花を持っている。
お母さんは律儀に喪服を来ているので私より暑いはずだけれど、顔色一つ変えずに歩く。
お墓の前まで来て、ひとしきり水撒きをした後、お母さんはお花を添えて、お線香をあげて、それから手を合わせて、祈るように目を閉じた。
私もそれに倣って手を合わせるのだけど、お父さんとの記憶というものがないので、どうしていいかよくわからない。
一応近況報告という事で、好きな人ができたけどフラれたことや、最近アルバイトを初めたことなどを心の中で呟いてみた。
・・・。
お父さんはどんな人だったのかな。
お父さんがいれば、家族の関係性もだいぶ違ったんだろうか。
私はお母さんのことが嫌いというわけではなかったけれど、毎日がすれ違い続き過ぎて、正直お互いに何を考えているのかよく分からなくなってしまっている。
家族って何なんだろう。
同じ屋根の下で暮らして、寝食を共にして、今の私たちにそれ以上の何かがあるんだろうか。
というか何かって何よ?
私は一体自分の母親に何を求めているのだろう。
何だか私は常に笑顔でいることや、常に人生を楽しもうとすることに躍起になりすぎて、変に物分かりが良くなってしまったのかもしれない。
だってあんまり否定したり、難しく考えすぎたりしたって、いいことなんて何一つない。
熱くなりすぎるのも考えものだと思う。
だから私は出来ることならいつだって冷静でいたい。
そりゃ、うまくいかない時もあるけどね。
家族なんだから、一緒にいる時間が一番長い相手なんだから、絶対に失敗なんてしたくないんだもん。
だから私は母親を困らせることをしたくないし、出来ない。
それに物分かりがいいということが悪いことだとも思わないし。
だからこれでいいんだ。
今のままが、最善なんだ。
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「お母さん。そう言えばさ。」
私は帰りのバスの中で、お母さんと隣同士の席に座っていた。
「どうしたの。」
お母さんは窓の外を見ながら返事をする。
「私のバイト代は生活費にも回そうと思ってるから、掛け持ちのアルバイト、一つ減らしたらどうかなって思ってたんだけど。」
お母さんはしばらく黙ったまま、窓の外を眺めるのをやめて、前を向いた。
「あなたはまだ高校生でしょ?子供がそんな事気にしなくていいのよ。そんな事より今は勉強をしっかり頑張りなさい。最近お友達と出掛けているみたいだったから、お小遣いが足りないのかと思っていたけれど、そんな事を考えていたのね?」
お母さんは私の気持ちなんてお構い無しにそんな事を言う。
なんでよ。
「え?でも、お母さん先月一度過労で倒れてるし、あんまり無理しない方がいいと思うんだよね?それに私、高校卒業したら、働こうと思ってるから、勉強はそこまで頑張んなくても大丈夫だから。」
私は普段ならあっさりと引き下がる所だけど、今日はお母さんと一緒の時間も多かったし、お父さんのお墓参りをしたからなのか、暑かったからなのか、そんなことはよくわからなかったけれど、とにかく反論みたいなことを宣ってしまった。
お母さんはこちらをチラリと見やる。
相変わらず感情は読み取れない。
「何を言っているの。学生が勉強を疎かにしてどうするの?もし仮にあなたの成績が落ちたらアルバイトはやめてもらいます。それに将来のことは、もっとしっかり考えて決めなさい。正直お母さんは大学に行くべきだと思うわ。」
「・・・そうかな・・・。」
「そうよ。とにかく安易に物事を決めてしまうものじゃないわ。今は高校2年生の夏休みだからいいけど、また学校が始まったら、その辺はしっかりするように。いいわね?」
段々と私は、反論する気力や、精神力みたいなものが薄れていくのを感じてしまって。
「・・・うん。でもお金は?」
口数が少なくなってしまい・・・。
「お金のことは心配しなくていいから。めぐみ、変なことを言わないで?」
「・・・うん。ごめん。」
気がついたら謝ってた。
その後私はお母さんと何を話して過ごしたのか正直よく覚えていない。
何だか必要以上に笑っていたように思うけれど、何がおかしかったのかな。
それでもきっと、親子で過ごす時間は大事なんだよね?




