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私のわがままな自己主張2(プロット)  作者: とみQ
第6章 恋をしたという気持ち
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夜の散歩はデートじゃない2

雨は激しく降り続いている。

隣には工藤くん。

ここに辿り着いた時は、2人とも服がぐしょぐしょで、私はTシャツ一枚だったから、下着が透けて見えるんじゃないかと思って、慌てて鞄を前に抱いてしゃがみ込んでいた。

私たちの間は今30センチくらいの距離が空いてる。

案外近い。

2人してぼーっと、土管の壁を見つめていた。


土管の中へと逃げ込んで来てから15分ほどが経っていた。


ザーッという雨音が、土管の周りで鳴り響いているけれど、その音によって、中の空間が外界と遮断されたような気持ちになって、まるで異世界に2人だけ迷い込んだんじゃないかなんて、ファンタジックなことを考えたりもして。


外は暗くて、土管の中はさらに暗い。

お互いの顔も認識できないくらいに。

雨の音で息づかいすら感じられなくて、2人の距離がもし縮まっても、すぐには気づけないんだろう。


そんなこと、あるはずないけどね。


私たちは、同じ高校の同級生で、友達で、それ以上でもそれ以下でもない。


もちろんこれからも、この関係性は変わらない。


それでいいじゃない。


今は余計なことは考えずに、とにかく楽しく普通に暮らしたい。


なんだか年寄りみたい?


まだ10代なのにね。


だけど、色々と考えるのは疲れちゃったから。


最近はうまく行かないことばかりだったから。


恋愛とか、そういうことは疲れるから。


普通でいいんだよ。


普通で。


「椎名。あのさ。」


突然土管の中に、声が響く。


ドキッとして横を見たけれど、暗くてよくわからなかった。

ただ先ほどと同じ距離に、工藤くんはいるみたい。

そんなの当たり前なんだけど。


「何?」


私は至って普通に返事をする。


「お前、何か落ちこんでんのか?」


「え?どうしてそう思うの?」


「いや・・・何かやっぱりいつもと違うなーと思って。」


「そう?至って普通だけど。」


雨音はすごいけれど、私たちのお互いの声ははっきりと聞き取れる。

土管の中で、自分の声が反響して、まるで夢の世界で話しているみたいだ。


しばらく沈黙が続いて、再び工藤くんは口を開く。


「椎名ってほんとスゲーよな。」


「はっ?何よいきなり。そんなこと言ったって何も出ないわよ。」


「いらねーし。・・・。とにかく椎名はスゲーんだよ。俺なんかが思いもしないこと考えてて、周りもよく見ててよ。気ぃ遣えて、みんながうまくいくように動いたりすんじゃねーか。俺にはぜってー真似できねーもんな。」


何でいきなりそんなことを言いだすんだろう。

そうは思ったものの、私は急にそんなことを言われ、むず痒くなってしまった。


「工藤くんはもうちょっと色々考えた方がいいんじゃないかしら?」


私は条件反射のように皮肉めいて返してしまう。


「ちっ!あーそーだなっ!」


一旦からかってしまったけれど、私も結局、工藤くんには色々と助けてもらっているんだよね。


「ふふっ・・・。でも正直私も本当は、工藤くんてすごいと思ってるんだよ?」


なんてそんなことを言ってしまったりしたけれど、私ってば何言っちゃってるんだろう。


「は?雪降るんじゃねーか?」


内心少し恥ずかしい気持ちになっていたんだけど、向こうもからかってきた。


「うっさいわね!」


ほんと私たちって。


「・・・。」


工藤くんはダンマリ。・・・何を考えてるんだろう。

それとも別に何も考えてないのかな。

あー!私ってば、結局考えてばっかり!

私はふうーっと少しだけ長く深呼吸をした。


「・・・工藤くんてさ、何にでもすごく真っ直ぐだよね。バカ正直とも言うかもしれないけどさ。工藤くんのおかげでこの前牛藤で、お母さんの本当の気持ちに気づくことができたんだもん。・・・その・・・感謝してる。」


「あ、ああ。あれはちょっと我慢できなくて暴走しちまっただけだからよ。その・・・どっちかっつーと、でしゃばって悪かったな。」


流石に2人とも、照れ臭くも真面目なトーンになってきた。


「うん。でも、私にとってはすごく助けになったし、すごく嬉しかったからさ。ありがとね。」


「ま、前も聞いたよ。そんな何回も感謝されっと照れんだろーがよ。」


「うん。でも、テキトーに、じゃなくて、真面目に言いたかったから。本当に、いつもありがとう。私を助けてくれて。」


新ためてきちんとお礼を告げる。やっと言えた。


「バ、バカやろう!そ、そんなこと言うなら俺だって、今日応援に来てくれてありがとな。」


なんだか子供の喧嘩の仲直りのシーンみたいだけど、こういうのが今の私たちらしさなんだろうか。

私としてはすごく心地いい。


「まあせっかく誘ってもらったからね。私なんかで良ければまた行ってあげるよ。」


「なんかって何だよ。俺はお前に応援に来てほしかったから呼んだんだよ。」


自分を卑下する発言が出てしまったことに引っ掛かったのか、工藤くんはポロッとそんなことを言う。


「え?」


「あっ!えーと、なんつーか、前も言っただろ!?椎名ってけっこういい女だよなって!俺にとっては勝利の女神みたいなもんだからよ!」


そう言えば前に一度いい女発言されたなと思いつつ、先ほどからキザなセリフを連発されている私。

すごくむず痒い。むず痒いのだけれども。


「いや、そんなこと言って、見事試合に負けてるじゃない!私、それじゃあ女神どころか疫病神だよね!?やっぱり行かない方がよかったかもね!?」


ほんと勢いばっかり。そして私も人のことは言えず勢いで皮肉ばっかり言ってしまう。まあそこが工藤くんと私の付き合い方なんだろうけど。


「なっ!?いやっ!そーいうことじゃなくてっ!俺が言いたいのはだなっ!?」


暗がりの中で、わたわたと動き回っているのが見える。

そんなに焦らなくても。


「プッ!ふふっ!あははははははっ!バカ!ほんとバカ!もう!冗談だからっ!」


私はどうにも格好がつかない工藤くんがおかしく思えてきて笑ってしまった。


「ぐっ!悪かったなー!むうう・・・。」


悔しそうな顔をする。もとい、よく見えないからしてるんだと思う。

だけど、工藤くんの私を大切に想ってくれていることは、伝わりすぎるほど伝わってしまうわけで。


「・・・。あの・・・工藤くん。」


「ん?」


「・・・ありがとう。」


私はもう一度感謝の言葉を述べる。

暗がりの中で、お互いの顔が見えないのはかえって良かったのかもしれない。

無駄に心臓がバクバク言ってる。

ああ・・・駄目だ・・・。やっぱり私・・・。


「・・・ああ。こちらこそ。」


ここに来て、工藤くんの声はやけに穏やかで、落ち着いているように感じられた。


・・・不思議だなあ。


ほんの最近まで自分が嫌で、自分を卑下する気持ちばかりが先んじてしまっていたのに。


ほんの少しの誰かの言葉で、ほんの少しの誰かの思いやりで、こんなにも心の中は変わってしまうものなんだ。


あんなに色々なことが面倒くさくて、嫌になってしまっていたのに。


気がつくと、雨は止んで、虫の声が辺りに響いていた。


星は出ていなかったけれど、月明かりがうっすらと夜の闇に射し込む。


服は濡れたままで、なんだか顔が火照っている気がしたので、風邪がぶり返すんじゃないかって心配になった。



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