2人でご飯はデートじゃない
・・・ああ。
なんか勢いでオーケーしちゃったけれど、これってちょっとデートっぽくないかな。
私は駅へと続く道をスタスタと歩いていく。
自転車にしなかったのは先ほど運動不足を意識してしまったので、少しでも体を使おうと思ったからだ。
病み上がりとはいえ、体は思った以上に軽かった。
もう5分もすれば工藤くんと落ち合えるだろう。
まあ、なんだ、工藤くんがどうしても私にご飯を奢りたいみたいだから、友達として、約束を破った罰として、ご馳走になりに行くだけなんだから!
どちらかというと、私が試合に負けた工藤くんを元気づけるために付き合ってやってるようなもんなの!
そうよ!勝手に約束してきて、勝手に自爆して、もうほんと迷惑!
などとさっきから自分に言い訳をしながらとぼとぼと目的地へ足を運んでいく。
さらにこういう時に限って芽以さんに目撃されたりしたりして。
そうなったらどうしよう。
いくら言い訳しても嫉妬されそうだ。
そして考えれば考えるほど良からぬことを思い描いてしまって。
前も君島くんと一緒に手を繋いでいる所を親友の美奈に見られていて、美奈を落ち込ませるっていう失態を冒したばかりなのに。
私ったら全然成長してないじゃない。
私は今頃になって、自分の行動の思慮の無さを悔やみ始めていた。
・・・やっぱりやめといた方がいいのではないだろうか。
私はモールの建物の1つに差し掛かった頃に、引き返すべきか真剣に考え始めていた。
ただでさえ遅かった進行速度も更に遅くなる。
今ならやっぱり体調悪いのがぶり返してきたことにすれば大丈夫だと思うし。
「お、いた。椎名!」
私が思案に耽っていると、目の前に工藤くんが立っていた。
いるとは思わなくて、ぼーっとしていたのも相まって少しだけぶつかってしまう。
下向き加減だった私の鼻先と唇が、工藤くんの胸板に触れる。
「きゃっ!」
「ぶわっ!」
私は思わず反射的に工藤くんを思いっきり突き飛ばしてしまった。
その拍子に工藤くんは建物の壁に頭をゴンと打ち付けた。
・・・痛そう。
「ごっ・・・ごめん!」
「・・・くっ・・・いっ・・・てえ・・・!」
思いっきり打ったからなあ。そりゃ痛いだろうなあ。
私は薄情にも他人事のような感想を抱いた。
工藤くんは頭を抱えてうずくまっている。
「あー、・・・大丈夫?」
私は工藤くんの手をどけて、頭を触ってみると、少し凹凸があって、こりゃたんこぶ出来ちゃってるね、とまたまた他人事のような感想を抱く。
「いでっ!もう触んなよっ!」
当たり前だけどすごく痛かったらしく、工藤くんは立ち上がると同時に私の手を掴んでグイッと引っ張った。
「わっ。」
思いの外強い力に引っ張られ、私は体ごと前につんのめって再び工藤くんとぶつかりそうになってしまう。
今度は私は、もう片方の手が前に出て、彼の肩を掴む形になった。
「ちょっと!何するっ・・・!」
抗議しようと顔を上げると、目と鼻の先に工藤くんの顔があって、びっくりしてまた突き飛ばしそうになる。
今度は抑えたけれど。
私たちは目をバチッと合わせたあと、少しの間固まって、パッと離れて身だしなみを整えるのだった。
「・・・ていうか、何で駅にいないのよ!」
私は別に乱れてもいないTシャツの裾を正しながら、結局抗議の言葉を放った。
「いや、この道歩いてりゃ鉢合わせんだろーと思ってよ。」
工藤くんは左手に持った鞄を右手に持ち替えながらそんなことを言う。
「あら。珍しく頭を使った行動じゃない。」
「うっせ。とにかく会えたことだし早速行こうぜ。」
工藤くんはそう言いながら、今通って来たであろう道を引き返していく。
「・・・はいはい。」
私はさっきまでうだうだ考えていたことが無駄になったことを感じつつ、彼に並んでついていくのだった。




