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私のわがままな自己主張2(プロット)  作者: とみQ
第5章 私らしさは尊いけれど
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試合の後で

私は工藤くんの試合の後、声を掛けるのも少し気まずくて、そのまま帰ってきてしまった。

チームメイトもいる中で声を掛けるのも気が引けてしまったというのも正直あるけれど、試合終了を告げる笛が鳴った時の工藤くんの顔を見てしまったら、何て声を掛ければいいのかわからなかったのだ。


結局は小さな大会で、甲子園に出場したわけでもないだからそんなに落ち込まなくてもいいとは思うのだけれど。

って甲子園は野球だけど。

まあ私に絶対勝つみたいな勢いで豪語して、この結果ではカッコ悪いとかは思っていそうだが。


時刻は4時前。

相変わらずつくつくぼうしがうるさい。

そろそろ終わって、帰る頃だろうか。

・・・一応メールくらいしといてあげようか。


『今日はお疲れ様!結果は残念だったけど、また次頑張ればいいじゃん!明後日学校でね!』


こんなもんだろうか。

あんまりごちゃごちゃ言うのも小に合わないし、あっさりとした文章でいいだろう。

LINEだと微妙な気がするし、電話ってのもね。

色々考えた結果、普段あまり使わないメールにすることにした。

ちょっと手紙でも出す気分だな。


送信っと・・・。


そのままテーブルに携帯を置いて、軽く伸びをする。

部活を辞めて1ヶ月近く経つので、運動不足感が否めない。

太ったりしたら嫌なので、たまにはジョギングくらいはしようかなどと考える。


ブー、ブー、ブー。


すると、メール送信から十数秒で、テーブルの上の携帯が振動を始めた。

工藤くんからの電話だ。


私は携帯を手にとって、おほんっ、と1つ咳をしてから応答のボタンに手をかける。


「もしもーし。」


私は至って普通に電話を取った。


『・・・おう。』


工藤くんの声のトーンは案の定少し低めだ。


「あれっ?もしかして今日試合に勝つって豪語しといて、2回戦で負けちゃったチームのキャプテンですかあ?」


私はよせばいいのにお茶らけた皮肉みたいな台詞が口をついて出てしまう。


『なっ!?・・・悪かったなーっ!こっちだってそれなりに必死で頑張ったんだぞっ!?』


最近はこういうやり取りがすっかり普通になってしまった。

最初はこんなんじゃなかったはずなのに。

人の関係性なんてわからないものだ。


「うん。知ってる。頑張ってたよね。・・・けっこう・・・かっこよかったよ?」


試合には負けてしまったけれど、キャプテンらしく、活躍していたし、かっこいいと思ったのも事実だ。

自分でハードルを上げるから墓穴を掘るんだと思わなくもないけれど、まあこれくらいは言ってやろうと思った。

たまには素直になることも必要だ。


『おっ!?・・・おう。・・・そ、そうかよ・・・。』


急に誉められて照れているのかもしれない。

そんなやり取りをしていると、電話越しに、後ろで小久保駅~、小久保駅~、というアナウンスの音が聞こえた。


「今駅に着いたの?」


私は少し空いた間を埋めるように、何の気は無しに訊ねた。


『あ・・・、いや。・・・まあ、ちょっと前にな』


「は?ちょっと前って?ずっと駅にいるの?何で?」


『何でって・・・、か、考え事だよ!』


考え事?試合に負けたしキャプテンとして多少の責任は感じているのだろうか。

だとすれば中々偉い。工藤くんにしては。


「ふーん。じゃあ邪魔しちゃ悪いから、切るね。」


『ちょっ!待てよ!お前最近俺との電話、すぐ切ろうとすんなよなっ!』


「いや、だって、工藤くん電話だといっつも歯切れ悪いんだもん。用があるなら早くしてよね。こっちだって暇じゃないんだから。」


嘘。暇だけど。

いっつも工藤くんは電話が無駄に長い。

そして決まってはっきりとものを言わないものだから、やきもきしてしまうのだ。

割と男らしいタイプかと思っていたけれど、けっこう女々しいのかもしれない。


『わっ、わーかったよ!椎名!お前ちょっと出てこいよ!』


「・・・は?」


『いや、約束破っちまったからよ!お詫びに飯でもどうかと思ってよ!』


大会優勝ってやつ?お詫びって、別に気にしなくてもいいのだけれど。


「何それ?ひょっとして、私を誘ってるのかな?」


私は敢えて意地悪な言い方をする。


『そ、そうだよ。・・・わりぃかよっ!』


答えづらそうにしてはいるが、誘っているらしい。


「・・・お詫びってことは。」


『俺の奢りだよ!』


何だか電話越しの工藤くんの声は、半ばヤケクソ気味だった。

私はそれが少し可笑しくて、


「じゃあ行く!」


と自分でもびっくりするくらい元気よく返事をしてしまったのだった。

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