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私のわがままな自己主張2(プロット)  作者: とみQ
第5章 私らしさは尊いけれど
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工藤淳也の独白4

8月31日。


「ふいー。いよいよ明日だな。」


大会前日という事で、今日の練習はほどほどに終わった。

疲労を溜めずに明日に望めとのことで、みんなに飯でもと誘われたが、ちょっと用事があるからと断ったら、女か!だの、この裏切り者がっ!だのごちゃごちゃうるさく言われた。

いや、女であることに変わりはねーが、そーいうんじゃねーし。

何でもすぐそういうことに持っていきたがるのは高校生の悲しい嵯峨ってやつか。


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


俺は幸い時間があったので家でシャワーだけ浴びて、私服に着替えて駅前に向かった。

まだまだ暑いし短パンTシャツのが楽だ。

髪は洗っちまったから固められねーが、まあ今日のはデートとかじゃねーし、まあいいだろ。


5分前に行ったら芽以さんがもう俺を待っていた。


「あっ!淳也くん!こっちこっち!・・・てか髪下ろしてんじゃん!超かわいい!」


普段はツンと立てている俺の髪が下りているのを見た芽以さんは早速そんな事を言ってきた。

てか会うなりいきなりそんな事を言われると流石に照れる。

その辺はやっぱり年上を感じさせる。


「いや、汗かいたからシャワーだけ浴びてきてよ。」


俺は指で鼻をこすりながらそれだけ答えた。


芽以さんはというと、相変わらず15センチはあろうかというヒールに短いスカート、胸が強調されたキャミソールで、髪はポニーテールにしていた。

キャミソールの前側にプリントされた文字が伸びた感じが芽以さんの胸の大きさを物語っており、直視は出来ないけど目がそちらへ向いてしまう。

男の悲しい嵯峨だ。


「そーなんだ。じゃ、どこ行く?」


「あー、そだな、腹減ったからレストラン街のバイキングの店にしようぜ。」


「オッケー。」


俺たちは牛藤が並ぶレストラン街のいわゆるライバルとも言うべき和洋中、様々な料理が時間制限90分取り放題というバイキング形式のお店で夕食にすることにした。

店の名前は『倍王』そのままだ。

まあライバルだ何だと気にしていてはでっかい人間にはなれねーからな。別に親父たちも利用してるみてーだし。


俺たちは時間も早かったのですぐに席に通され、早速欲しいものを取りにいって、席について食べ始めた。


「相変わらずいい食べっぷりだよね!」


がつがつ肉やパスタを食べる俺を見て、芽以さんはそんな事を言った。


「ああ。毎日食っても食っても腹減るんだわ。」


「しししっ!若いね!」


「いや、芽以さんも若いから!」


「この時期の3個離れてんのは結構重いっしょ?」


「え?そうか?芽以さんに限ってはそういうの感じねーからな。」


「・・・それって褒めてる?」


「ぶっ!げほっ、げほっ!・・・ほ、褒めてるっての!」


「あー。その反応はあーしのことアホっぽいから年の差感じない的なこと思ったんしょ!ひっどーい!」


「いや!俺もアホっぽいってよく言われるからっ!気にすんなって!」


「・・・それ全然フォローになってないかんね!アホっぽいってとこ否定するとこっしょ!」


「え!?あ、わりぃ!」


等としばらくそんな他愛もない会話をしながら食事を楽しむのだった。


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


「ふー。食った食った・・・。」


「あーしも。・・・もうデザート意外無理。」


「デザートは行けんのかよ・・・。」


「だってそれは別腹っしょ?」


「まあな。」


ひとしきり腹が満たされて落ち着いた俺はそろそろ本題を切り出そうかと考える。


「「あのさっ。」」


稀有なことに2人の声がこんなタイミングで見事に被ってしまう。


「え?・・・何?」


先に俺は芽以さんの言葉を促す。


「え・・・と。ううん。あーしは後でいいから。淳也くんからどーぞ?」


だけど芽以さんは口をつぐんで俺に話を振ってきた。


「あ、そうか?じゃあ、ちょっと聞きたいんだけど、最近椎名と何かあったのか?」


びくんと芽以さんの肩が震える。やっぱり何かしらあったのは間違い無さそうだ。


「あー。ごめんね。あーしがこの前LINEしたから?」


「え?ああ。・・・まあ、それがきっかけかな。」


椎名が芽以さんの二万円を取ったってこと。やっぱり俺に宛ててだったんだな。


「うん。・・・でもね、勘違いだったから。今は別にもう何もないよ?あーしたち、何だかんだで仲良しだし。」


「あ、そうなの?そっか。」


俺はとにかく問題がいつの間にか解決していたことに安堵した。

だけどそこで、母さんの言葉を思い出す。

もしかしたら椎名が落ち込んでしまうかもしれないって言ってたからな。


「あの、それで、最近椎名は元気でやってんのか?」


「ん?まー元気っしょ。ただ昨日今日と風邪引いて牛藤休んでるけどね。」


何だか急に不機嫌になる芽以さん。何だ?何怒ってんだ?椎名と仲いいなら心配じゃねーのか?


「そうなのかよ!?知らなかった!」


「別に子供じゃないんだし大丈夫っしょ!風邪くらい、もう治ってんじゃん?」


もうちょっと椎名のことを聞きたいが、芽以さんが急に素っ気ないことを言い出した。


「え?何か芽以さん急に冷たくねっ!?」


「う・・・。知らない!もう行こう!?」


「え?あ、ちょっと待ってくれよ!」


芽以さんは立ち上がりお会計に向かおうとする。

俺はそんな芽以さんを慌てて追いかけた。

まあ、2人が仲良くやってるってんなら安心だが、芽以さんやっぱり椎名に冷たくねっ!?

俺は違和感を覚えずにはいられなかった。


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


お会計こそツカツカと行ってしまったが、そこから帰る訳でもなく、食後の散歩をしたいというから、小久保駅周辺を2人で歩く。

食事の時に比べて口数はめっきり少なくなってしまった。


「芽以さん。」


「ん?」


「まだ怒ってんの?」


俺は気まずい空気を察して思いきって聞いてみた。


「え?・・・ううん。・・・怒って・・・ないし。」


途切れ途切れな言葉。

本当に怒ってはなさそうだったがどこかいつもと違う気がする。

まあそんなに一緒にいる訳じゃないから確信はないけどさ。


目の前に小さな公園が見えて、芽以さんはそこへ入っていった。


俺もそれに倣ってついていく。


芽以さんはそのままブランコに直行してそこに腰掛けた。


今日は月が出ているので真っ暗ではないが、表情が確認しづらいくらいには暗かった。


芽以さんはブランコを漕ぎ始めて、しばらくきーこーきーこーと鉄が擦れるような音だけが辺りを支配した。


月明かりに照らされた長い影が静かに揺れる。


「淳也くん。」


機械的な音だけが響く静寂の中で、突然芽以さんの声が聞こえる。


「あーし、淳也くんが好き。」


・・・。


唐突過ぎて、何を言ったのかわからなかった。


というか、そもそも今芽以さんは何か喋ったのか?


もし聞き間違いじゃなければ、俺のことを好きって言わなかったか?


きーこーきーこーとブランコの音は響き続けている。


芽以さんは先ほどからブランコを漕ぎ続けているからだ。


やっぱり聞き間違いじゃ?


やがてざざっ、という音がして、完全な静寂が訪れる。


芽以さんの黒い影が、こっちに近づいてくる。


その後ろに、月が見えた。


俺は一度、ゴクリと喉を鳴らした。


俺は今、どんな顔をしてるんだろう。


多分口を開けて、間抜け面に違いない。


芽以さんとの距離が縮まって、30センチくらいになった頃、ようやく芽以さんの顔が見えた。


泣いてるでもない、でも悲しそうな、緊張してるのか、でもどこか嬉しそうな、俺の全く見たことのない芽以さんの表情は、一体何を考えているのかわかるはずもなかった。


だって俺まだ高校生なんだぜ?


芽以さんの手が肩に添えられて、突然芽以さんの唇が俺の唇に触れた。


「んっ・・・お・・・。」


俺は突然のことで変な声を上げてしまう。

更に芽以さんの豊満なバストが俺の胸に当たって、芽以さんの色んな部分がめちゃくちゃ柔らかくて、あまりの気持ち良さに一瞬気を失いそうになった。

だけど、次の瞬間芽以さんの舌が口の中に侵入してきて、さすがにびっくりして俺は正気に戻る。


「ぐ・・・、ぶはっ!芽以さん!ちょっと!何すんのっ!?」


「だめ?淳也くん。あーしじゃだめ?あーし、淳也くんのことが好き。付き合ってくんない?」


斜め下から俺を上目遣いで見つめてくる。

そして、先ほどまで触れ合っていた唇から放たれた好きが、聞き間違いではなかったのだとこんなに遅れてから気づく。

芽以さんの顔がすぐ近くにあって、柔らかい胸が、俺の体に当たってぷにょぷにょして、視線が釘付けになって、心臓がバクバクして、もう訳がわからなかった。


芽以さんの表情からはマジ度が伝わってくる。

というか、キスまでしといて嘘でしたーはないと思うけどさ。


俺は言葉を失い、その場から動けずにいた。


「ダメ・・・?。」


若干悲しげな表情になったのは気のせいだろうか。

俯いて目が逸らされた瞬間に俺は今しかないと思い、罪悪感を感じながらもはっきりとこう言った。


「ごめん!芽以さん!俺、芽以さんの気持ちに全然気づかんかった!俺、バカだからさ!」


俺は深く腰を折って謝った。

そしてこのままの体勢でこう続ける。


「俺、好きな人いっからさ!芽以さんとは付き合えない!」


芽以さんの足はその場に留まったままだ。今の体勢からはどこを向いているのかさえわからない。

俺は、芽以さんの言葉を待った。


「わかってたし。・・・淳也がバカだってことは。」


「え!?そっち!?」


反射的に顔を上げてしまう。

でもすぐに後悔した。

だって芽以さんめっちゃ泣いてんだもん。


「・・・ごめん・・・カッコ悪いとこ見せちゃって・・・。」


流れては拭って、拭っては流れて、顔がぐちゃぐちゃだ。


「・・・別にかっこ悪くなんかねーよ。」


俺がバカなせいで、でも俺にはどうすることも出来ない。

しちゃいけない。

俺みたいなバカでもそれぐらいはわかる。

この罪悪感ぐらいは自分で抱え込まねーと。


「もう・・・帰ろっか。」


芽以さんは流れる涙を拭いながらそう呟いた。


「・・・ああ。」


そうするしかない。

俺は後ろを振り返った。

そのまま少し歩いたけど、芽以さんがついてくる気配はない。


「・・・ごめん。・・・淳也先帰って。・・・あーしは、大丈夫だから。」


背後から再び芽以さんの声がする。

おそらくさっきと同じ場所にしゃがみこんでるっぽい。


「・・・ごめん。」


俺にはどうすることも出来なくて、公園に泣き続ける芽以さんを1人残して逃げるようにこの場を後にしてしまった。


・・・ごめん。芽以さん。

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