工藤淳也の独白3
8月27日。
時刻は夕方7時頃。
俺はある人に電話を掛けることにした。
コール音は5回くらい鳴った末、相手に繋がった。
『もしもし?工藤くん?どうしたの?』
「高野、今大丈夫か?」
俺は悩んだ末、高野の力を借りれないかという考えに至った。
もし椎名が面倒事に巻き込まれたりしてたら、高野なら話しやすいし、割と無関係だ。
相談に乗ってもらえる可能性もある。
『うん。大丈夫だけど。あ、昨日はありがとうね!嬉しかったよ。』
相変わらず律儀だな。まあ俺から電話してるから律儀とは違うか?
「そっか。そりゃ良かったぜ!」
『あ、で、何かあった?』
高野から話を促してきた。これはうまく伝えられそうだ。
「ああ。あの、別にそこまで大したことじゃねーんだけど。」
とは思ったものの。
俺はそこで言葉に詰まった。
てか何て言おう。
椎名がピンチだから励ましてくれ?
椎名の様子を探ってほしい?
何かどれも微妙な気がした。
椎名の大きなお世話よ!って言う姿が目に浮かぶようだ。
というかそこまでちゃんと考えとけよ!俺!
いくらなんでも行き当たりばったり過ぎんだろーがよ!
『・・・。工藤くん?』
高野が訝しげな声で呼んでくる。
くっ・・・。
俺はその時、脳内でカチリと何かのスイッチが入ったのを感じた。
ここまで行き当たりばったりで来たのなら、このまま行けるとこまで行っちまえ!
えーい!成るようになれだ!
「高野!」
『は、はいっ!』
俺は覚悟を決めてとにかく話し始めた。
「椎名にはあれから電話したか?」
『え?めぐみちゃん?してないけど。』
「そうか。やっぱりな!」
もう適当に勢いだけで喋り続ける。
『やっぱりって?』
「あいつ!何か高野と2人で話したがってたぞ!?」
『え?そうなの?』
「あー、そうそう!何かあいつ変に気ぃ遣って連絡しねーと思うから、ちょっと電話でもしてやってくれよ!多分割と寂しがってっから!」
行き当たりばったりにしては割とうまく喋れたんじゃね?
『・・・そっか。うん。わかったよ!連絡してみるね!』
おっ!?俺、天才か!?
「あ、うん。頼むな!」
これで何とか電話してもらうことは可能になったけど、椎名にとって助けになるかどうかは微妙になっちまったな。
俺のバカ!
それでもきっと、何もしないよりは俺にとっても、椎名にとってもいいはずだよな!
『うん。あ、工藤くん。』
「あ?どうした?高野。」
『めぐみちゃんをこれからもよろしくね!』
「・・・お、おう!任せとけ!」
何かよくわからんが任されておいた。
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8月28日。
夏休みも最後の週になり、今年からバスケ部のキャプテンになった俺は、毎日朝から晩までバスケに打ち込んでいた。
みんなも新しいチームで気合いが入っているのがプレーを通して伝わってくる。
そして今週の土曜日には新チームによる毎年恒例、明岩新人戦が開催されるのだ。
それに向けて、最後の一週間、チームとしてのプレーに磨きをかけていくのだ。
俺はこんな大事な時期に、やはり部活に100%打ち込めずにいた。
原因は明らかだ。
椎名と芽以さんの件が気がかりだから。
母さんには口止めされたが、結局解決したんだろうか。
高野は昨日うまくやってくれただろうか。
あの後メールの一つもして聞いてみれば良かったが、何かしつこいような気がして結局聞けなかった。
俺のヘタレ。
結局何も聞かされていない俺は、何がどうなっているのかが全然わからない。
元々物事を深く考えるほうじゃないしな。
そんな俺がうだうだと考えても無駄なのはわかっているが、それでもその事がチラついて練習に集中出来ずにいた。
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夜になって、ひとっ風呂浴びてきた俺に、妹の茜が声を掛けてきた。
茜は中学3年生にもなって、フリフリのパンダのパジャマを着てやがる。まあ似合ってはいるが。
「淳兄。」
「ん?どうした、茜。」
「めぐみお姉様、最近何かあったの?」
いつの間に椎名をそんな呼び方をするようになっていたかということは置いといて、茜から椎名の話が出るとは思っても見なかった。
しかもこんなタイミングで。
「何でそー思うんだ?」
俺は内心のドキドキを抑えつつ、とりあえず質問してみた。
「ん?まー知らないならいーんだけど。さっきお姉様から変な電話があったから。」
なぬっ!?友人の俺を差し置いて妹に電話だとっ!?
「で!?なんて言ってたんだ!?」
俺は茜の肩をがしっと掴んで問いただす。
「え!?いや、なんか明日夕方電話するかも知れないけど、取ってその電話の会話内容を録音してほしいとか何とか。というか、近い!間違いが起こっちゃうから!」
「何だそれ?意味わかんねえ。」
「だよねー。兄妹だもんねー。」
「いや!そっちじゃなくてな!?」
相変わらずの妹を差し置いて、俺は部屋へと戻った。
あー。一体どうなってやがんだよ。
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8月29日。
夜になって、風呂上がり、再び茜が俺を呼び止めた。
「あ、淳兄!」
「ん?どうした?何か進展あったのか!?」
今日は声を掛けられるや否や、茜の肩をがっちりホールド。
「きゃっ!強引なんだからっ!ま、そこがいーんだけどねっ!」
「そんなことはいーから!で!?椎名から電話はあったのか!?」
茜のいつものブラコンネタは今日は無視して、茜の返答を促した。
「うん。あったよ。」
なぜか茜はにやけ面で俺のことを見ている。何なんだよ!
「で!?どうだったんだ!?」
「んー。あたしの口からは言えないな~。とにかく、そのうち淳兄にも連絡あると思うから、それまでのお楽しみってことで!ムフッ!」
いや、ムフッて。意味わかんねーし!
「はっ!?何がお楽しみだよ!?てか俺は蚊帳の外かよっ!?まじで気に食わねーなっ!」
俺は反射的に叫んでいたが、そんな事は慣れっこの茜が動じるはずもなく。
「まあいいからいいから!淳兄!男はどっしり構えるもんよ!?」
そう言ってすたすたと自分の部屋へと入っていってしまった。
「あーっ!訳わかんねえ!」
俺は自分の部屋に戻って壁に向かっておもいっきり枕を投げつけた。
枕はべしっという音がして、ベッドに落ちて、蹴ろうとしたら、机の角に足をぶつけて痛みに悶えることに。
「ぐっ・・・。ぐおおおっ・・・!」
何やってんだ。俺は・・・。
痛みに悶えながら、ふと、ベッドの上に投げ出していた、携帯電話がチカチカしていることに気づいた。
まさかっ!?
俺は痛みも忘れてベッドの携帯を掴みとり、慌てて画面を確認する。
芽以さんからの着信だった。
ま、まじか!
俺はすぐに芽以さんに電話を掛けなおす。
一体何の用だろう。
『あ、淳也くん。あの・・・芽以です。』
コール音も鳴らずにいきなり芽以さんのの声が聞こえたので驚いた。
「わっ!あ・・・芽以さん。どうしたんだ?急に。」
『ご、ごめんね。いきなり電話して。びっくりしたっしょ?』
「いや、まあ・・・別に。」
芽以さんとは基本LINEでのやり取りをするぐらいだったので、電話は珍しい。やっぱり何かあったんだろうか。
『・・・あんさあ・・・いきなりなんだけど、今度ご飯でもどうかなって。』
「ん、あ?・・・え?」
何か真面目な話をされるのかと思いきや、ご飯を一緒に食べようとか、それだけ?
『あっ!別に嫌ならいーからっ!そんな事いきなり言われても困るっしょ!?』
「いや、まあ別に構わねーけど。」
電話で話すより、会って直接話したいってことなのか?そんなにヤバい話なのか?
俺は覚悟を決めて芽以さんの誘いを受けることにした。
このままモヤモヤしたまま大会迎えるとか気持ちわりーしな。
『ホントッ!?マジ!?いいのっ!?』
急にテンションが上がる芽以さん。そこテンション上がるとこか?
「いや、別に飯行くぐらい構わねーよ。」
『う、うん!そーだよね!ご飯くらいね!あーしと淳也くんの仲だもんね!うん!うん!じゃあ明後日の金曜日とかどう!?』
金曜日と言えば、大会の前日だ。夕方からなら問題ない。
「わかった。じゃあ小久保駅で6時待ち合わせでいーか?」
『うん!うん!いーよ!全然いーしっ!じゃあ明後日ねっ!ありがとねっ!』
それで電話を切った。
別に核心に迫れた訳じゃねーけど、金曜日には詳しい話は聞けそーだし、ようやく少し落ち着くことができた。
あ、でも母さんに何か言われっかな。一応口止めされてんだしな。めんどくせーな。
まあいーや。その辺は流れ次第だ。母親の言うことなんて関係ねーぜっ!
俺はまだ解決自体は先延ばしの問題だが、きっかけを掴めたことで、少し安堵できた。
俺ってつくづく単純だよな!
今日はぐっすり眠るぜ!
安心したら急に眠くなってきて、俺はそのまま眠りに落ちた。




