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私のわがままな自己主張2(プロット)  作者: とみQ
第5章 私らしさは尊いけれど
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工藤淳也の独白

8月26日。


今日は高野の誕生日。俺は集合時間にきっちり間に合ったというのに、椎名のやつ、寝坊しやがった。

アイツが寝坊?俺がやっちまうならわかるけど、椎名が寝坊って、おかしくね?

やっぱりアイツにとって、今日の日はツラいものがあるんだろーか。

昨日の電話の時は何ということはないって感じだったのに。

実際あの後眠れない夜を過ごしたとか?


当の俺はというと、めでたく付き合い始めた2人を見ても、別段ツラいということもなく、どういうことか、以前よりも清々しい気分だった。

なんだろ、やっぱきちんと告白して振られたことで、気持ちに踏ん切りが着いたってことかな。

まあ男としていつまでもうじうじしてらんねーもんな!

昨日椎名に電話しといてよかったぜ!

あん時は正直不安な気持ちもあったけど、アイツの声を聞いたらなんか安心できちまったんだよな。

俺も今日は椎名のダチとして、ちっとは力になってやんねーとな。


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


「わあ・・・。」


「付けてもいいかな?」


「もちろんなのだ。」


おいおい君島!そこまでやるかよ!?

そこはお前、プレゼント渡すだけでいーじゃねーか!

しかもそんな優しい声で!優しい目で!


バイトして稼いだお金で買っただとっ!?


それって椎名がされたら嬉しいとか言ってたやつだよな!?


くそっ!そんなん見せられて、ちゃんとお前の彼女の誕生日に失恋後だというのに来てくれる椎名の気持ちもちっとは考えてやれよ!


椎名が今どんな顔してるか・・・考えたくもねえ。


俺は気がつくと俯いてしまっていた。


「どーん。」


突然今ちょうど考えていた相手である椎名から、無表情で肩をおもいっきり押されてよろめいてしまう。


「いて!何すんだよ!」


何だよその顔。我慢しやがって!バカが。

そうやって紛らわしてるつもりかよ!

俺は椎名の気持ちを考えるとどうにも胸が熱くなって、どんな顔をしていいのかわからなかった。ただ、いつもと同じようにできていないことだけは確かだ。


くそっ!俺にはどうしようもできねーじゃねーかっ!


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


帰り道。


俺は椎名と2人きりだった。


椎名が明日バイトがあるからとか変な理由で早々と帰ろうとするから、さすがに1人で帰らす訳に行かねーだろーがよ。


「美奈楽しそうだったねー。」


「・・・そうだな。」


白々しいこと言ってんなよ。いつも余裕ぶってはぐらかしやがって。

本当はツラいくせに。


「プレゼント喜んでくれて良かったね。」


ツラさを喋ることでまぎらわしてんだろ?もういいってのに。

いいよ。お前の友人として、それくらい付き合ってやるよ。


「ああ。何かでも君島のプレゼントで霞んじまったな。」


あ、何言ってんだ俺。

そんな事言ったらコイツの傷をえぐるようなもんじゃねーか。


「それはしょうがないよ。あんなの貰ったら誰だって喜ぶもん。しかも自分のためにわざわざバイトまでしてくれてだよ?」


やっぱりそうかよ。それって、君島から自分がそうしてもらえたら、なんて思ってるってことだよな?

無力な自分を思い知らされて、悔しいってより、もういっそ清々しいわ。


「ああ。おまえも言ってたもんな。」


「ん?」


ん?なんか俺、意固地になってねーか?


「あー、でも椎名はネックレスがいいとか言ってたっけ?」


「あ、あー。あれはまた別の理由がありまして。」


「理由?」


ネックレスがいいってことに他になんか理由があんのか?昔の思い出的な!?


「とにかく!いつまでもうじうじしないでよね!私が気を遣っちゃうじゃない!」


やべっ!うだうだ考えすぎだ!俺はいつも通りしてるべきじゃねーのか?


「なっ!?・・・。そうだな。すまん。椎名も辛いだろうに。マジで。」


ってまた何かいつも通り出来てねーな。クソッ!


「別にいいわよ。私は工藤くんほど落ち込んでないし。」


実際そこまで落ち込んでる訳じゃねーが、色々俺も気を遣いすぎてんのか、椎名から見たらそう見えちまってるらしい。

ていうか、実際椎名はそこまで落ち込んでる訳じゃねーのか!?


「そうなのか!?・・・ってんな訳ないよな。俺に気ぃ遣ってくれてんだよな。椎名ってほんといいやつだよな。」


ほんとにもう椎名はいい加減人に気ぃ遣うのやめた方がいーんじゃねーかと本気で思うわ。俺は笑顔を浮かべたけど、全然力の込もってない表情になっちまった。


「なっ!?・・・だーかーらっ!」


すると椎名はそれを見かねたのか、なんと俺の首をヘッドロックで締め上げてきやがった。


「ぐがっ!?何だよ!?」


「あんたがそんなんだとこっちまで調子狂っちゃうのよ!バカ!」


さらに力を込めて締め上げる。

てかこんなに力込められると苦しい反面色々当たって気持ち良かったりもするんだが・・・!?


「ぐ・・・ぐるじい。・・・てか、いい匂い。」


思わず本音を漏らしてしまった。・・・恥ずい。


「う、・・・うるさい!さっさとテンション上げなさいよね!」


そんなことを口走ってしまい、椎名もちょっと恥ずかしそうだ。

でもちょっとは元気になったような気がする。


「わ、わかったから・・・ぐるじい・・・。」


いよいよ苦しくなってきて、手をばたばたし始めたところで椎名は手を離した。

だけどちょっと名残惜しい。


「ゲホッ!ゲホッ!・・・椎名!殺す気か!?」


俺は咳き込んで涙目になりながらいつもとちょっと違って見えてしまっている椎名に抗議した。


「そうね!ばーか!」


椎名はそれだけ言うと、俺を置いてすたすたと駅へと入っていってしまった。


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


小久保駅に着いて、自転車置き場に向かう俺と椎名。

さっきよりは少しだけ辺りも暗くなってきた。


もうそろそろお別れだな。

何て思いながら、今日1日を何となく振り返る。

そこで俺はあることを思い出した。


「あ!そう言えば今日のケーキ代払ってねーや!いくらだ!?」


完全に忘れてた。人間よくわからんきっかけで忘れていたことを思い出したりするもんだよな。なんて思いながら、財布を取り出そうとすると、


「あー。いーわよ。私が勝手にしただけだし。バイト代も入ったしね。」


なんてことを言いやがる。人が良すぎんだろとは思いつつ、俺は昨日の夕方芽以さんから来たLINEの内容を思い出していた。


『めぐみに二万円パクられたかも』


あまりに唐突すぎて、冗談かとも思って、ちょっとムカついたりもして、結局スルーしてしまったんだが、今ふとその事を思い出してしまった。


「・・・そーなのか?・・・椎名そんなお金余裕あんのかよ。」


財布を出した手を止めて訝しげな表情をしてしまう。

バカが。何やってんだ俺は!椎名に限ってぜってーんなことあるかよ。俺は自分が恥ずかしくなった。

友人をちょっとでも疑うなんてな。


「んー。まあアルバイトも紹介してもらったし?傷心してるみたいだし?」


「何だよそれ。・・・まあいーや。わかった。サンキューな。」


俺は少しでも疑いの気持ちを持ってしまった自分を恥じた。この話題は早く終わらせてしまおう。


「いや、工藤くんのためじゃないし。」


「わーってるよ!」


なんだろ、椎名が俺のことを邪険に扱うのは最近普通になってきたけど、前より胸がモヤモヤすんだよな。別にこれで椎名がちょっとでも元気になんならいーじゃねーか。


そうこうしているうちに自転車置き場まで来て、椎名はさっさと自転車に乗り込んだ。


「あれ?工藤くんは行かないの?」


まあそう言うよな。


「ああ。ちょっと店寄ってくわ。」


俺は正直に話すことにした。さすがに目的までは話せないけどな。


「そ。まだ食べたりないの?」


「ちげーよ!まあ。まだ食えるけどな。ちょっとな。」


「・・・あっそ。」


明らかに何かあるな?って顔してるけど、追及はしてこなさそうだ。よかった。コイツはほんとに鋭いからな。

そんなことを考えていると、椎名の表情がいつもの悪巧みの顔になる。


「工藤くん。」


「ん?」


椎名は1つ呼吸を置いて言ってきた。


「失恋を癒やす一番の薬は、新しい恋かもよ?」


椎名は自転車にまたがって笑顔を向けてきた。

なっ、なっ!?何を言ってるんだコイツは!?

は?意味わかんねえ!いきなり何なんだよ!

そうは思いながらも、椎名の笑顔を見た俺は、かわいいなんて事を思っていたのだ。


「なっ!?・・・そ、そうかもな・・・。」


俺はひきつった笑みで答える。

・・・ば、バカか!俺は!椎名特有のからかいに決まってんだろ!変に意識してる場合か!落ち着け!

大体コイツはさっきまで君島のことで元気なかったじゃねーか!

結局は椎名はまだ君島のことが好きなんだよな。

あっ、でもそんな事を言えるってことは多少はここにきて元気出てきたってことなのか!?

それともまた気ぃ遣って、から元気ってやつか!?

あーっ!わかんねー!全然わかんねー!


「じゃーね!」


そうこう脳内葛藤をしている俺を尻目に椎名は帰ろうとし始める。


「お?おお・・・。じゃーな。」


椎名は勢いよく自転車を漕ぎ始めた。

俺はまだ頭の中が混乱している。


そして椎名は右手を振って振り返りもせず帰っていった。


俺は悶々とした気分で牛藤へと向かうのだった。



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