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私のわがままな自己主張2(プロット)  作者: とみQ
第5章 私らしさは尊いけれど
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続く災難

8月31日。


「あー・・・。最悪。」


時間は午前10時。

私はバイトにも行かず、家の布団にくるまって、体温計の表示を見つめていた。


37度8分。


夏風邪のバカ。


タイミング悪すぎ。


そんなことを心の中で呟きながら体温計を布団の脇に投げ出す。

私は昨日から風邪をひいてしまい、熱が出て、2日間牛藤のバイトを休んでしまっていた。

今日も休んだことで土日は今回お休みをもらった私は、次回出勤日が来週平日夕方までお預けになることが確定した。

幸いシフトは健さんと芽以さんが穴を埋めてくれたので、どうにかなったけど、あの一件の直後なので、心証はだいぶ悪いだろう。


あー。気が重い。


良くないことは続くものだ。


電話口では陽子さんは怒ってはいなかったけれど、今までの付き合いで、陽子さんは色々と鋭い人だと感じている。

まあそういう意味では嘘ではないとは思ってもらえそうだけど、タイミングがタイミングだけに、どうしても良くないことばかり考えてしまう。

熱も手伝ってそういう気分に拍車をかける。


はー・・・。

夏休みの締めくくりがこれって。


それでも風邪でだるい身体は私が思考することを許さず、気がつくと眠りに落ちていった。


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


目を覚ますと部屋は暗くなっていた。

寝すぎて頭がぼーっとする。


家の外、比較的近くで蝉の声が聞こえる。つくつくぼうしだったかな。

夏の終わり・・・なのかな。


時計を確認すると、夕方7時。

いつの間にかもうこんな時間か。


今日はお客さん入ってるかな・・・。


そんな事を思ってから、いつの間にかすっかり牛藤の店員が板についてきたと感じて、何だかおかしかった。


1ヶ月前には考えもしなかった今を過ごしている。


夏休みに入りたての頃は、まだ好きな人がいて、想いを伝えるべきかなんて考えたりもして、花火を一緒に手を繋いで見たりして。

それだけ考えると中々恋愛しているなあなんて思わなくもないけれど、実際のところは脈なんてなかったんだよね。

陸上部にも所属していて、後輩を引っ張っていく立場になって。

そんな矢先にお母さんが過労で倒れて。

それがきっかけで、部活を辞めてアルバイトをしようと思って。

そこから牛藤での日々が始まった。


1ヶ月もあれば身の回りの状況なんて色々変わるものだ。


また1ヶ月という時間を積み重ねればさらに180度状況は変わっているのかもしれない。


あまり思い詰め過ぎるのは良くない。


考えなきゃ、行動は変えられないけれど、考えてるだけじゃ、何も変わらないのだから。


「よい・・・しょ。」


私は布団から半身を起こしてみた。

ポトッ、とおでこからたたまれたタオルが太ももに落ちた。

冷たい。

視線を横に向けると畳の上に氷水の入った洗面器が置かれていた。

氷は溶けきっていない。

お母さんがちょっと前までいたのだろう。

よく見るとテーブルの上が片付いていたり、朝着替えた服が無くなっていたりする。

おそらく昼間の仕事が休みか、はたまた途中で抜けてきてくれたか、そんなところか。

いつもありがとう。

私は心の中でお礼を言ってみる。

普段素っ気なくて、あまり話をする時間も持てないたった1人の家族だけど、この夏休みに、本音を聞ける機会ができて、自分がしっかりとお母さんから愛情を受けていることを確認できた。

だから私はアルバイトを始めてお母さんの負担を減らしてあげられればという選択をしたことを、良かったと思っている。

まだまだその段階には至れていないけれど。


牛藤でのアルバイト。


私にとっての初めてのアルバイト。


工藤くんにたまたま紹介されて、何となく友達のよしみで入っただけといえばそうなのだが、今となってはもう離れがたい大切な場所だ。


だってみんないい人ばっかりで、大好きだから。

そりゃまだまだみんなのこと知らなすぎるとは思うけど。

これからみんなともっと打ち解けて、私も陽子さんに家族みたいに大切だって思ってもらえるように頑張りたい。

私もあの輪の中に入れてもらえるように。


私にとって、陽子さんと芽以さんのあの光景は。

あの涙は。

それだけインパクトのあるものだったんだ。


自分のことが嫌になってしまうほどに。


つくつくぼーしっ!つくつくぼうし!


更に近づいた蝉の声で私は我に帰った。

この音量は家の壁に止まったのだろう。

蝉は悩み事もなくてのんきなものだ。

まあそれでも私なんかよりは、ずっと一生懸命生きてるのかもしれないけれど。だって一週間しか外にいられないのだから。

さすがに自虐的すぎるかと笑ってしまいそうになる。

蝉と比べてどうするのか。


あれ?そう言えば・・・。


私は額に手を当てて、その次に首の後ろも触ってみる。


「熱・・・下がったかな?」


昼間おそらく泥のように眠っていただろうから、さすがに回復したようだ。


「中々の回復力じゃん!あたしっ!」


私はそのまま立ち上がってみた。

立ち上がった瞬間ふらっと目眩がしたけれど、風邪というよりは横になりすぎが原因という感じだった。

ちょうどその時、お腹がぐうぅっ・・・、と鳴り、胃袋が締め付けられるように空腹を訴えてくる。


「よし!何か食べよ!」


私はそのまま空腹を満たすべく、冷蔵庫に向かった。

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