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私のわがままな自己主張2(プロット)  作者: とみQ
第4章 女の戦い
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陽子さんの怒り

「15分だけもらってきたよ。手短にしとくれ。」


カチャリと事務所の奥の扉を開けて、奥の椅子に並んで座る私たちの前に陽子さんがやって来たのは、私たちが部屋に入ってすぐのことだった。


「ふーっ・・・。」


長く息を吐きながら目の前に座る陽子さん。

椅子に座ると手のひらを組んで前に放り出し、私たちの目をじっと見る。中々の迫力だ。


「・・・で?」


「あ、は、はい!」


陽子さんの雰囲気に言葉を失ってしまった私はとにかく言葉を発しようと思った。

だから陽子さんすごい迫力ですってば。

隣の芽以さんは俯いて喋らなさそうだし。

とにかく私から喋るしかない。


「あの・・・お金の件で私たち、お話があって来ました。」


「へえ。」


陽子さんは別段興味がないといった風な態度だ。


「さっき芽以さんと帰りに裏口で会って話したんです。それで、結論から言うと、私たち、和解しました。結局私の財布に入っていた二万円は芽以さんの物で、それを芽以さんにお返しして、今回の件は終わりということでは駄目でしょうか?」


私は極力、穏便に、何事もなかったかのように済ませたいという意思表示の元発言をした。

相変わらず陽子さんの表情からは感情は読み取れない。


「めぐみちゃん。」


「はい。」


「どうして芽以に話したんだい?私はこの件は誰にも話さないでおいてくれと言ったはずだよ?そしてあなたもわかりましたとはっきり言ったよねえ?随分と勝手なことをしてくれるじゃないか?」


「あ、はい。ですが、私としては芽以さんと直接話すことが一番手っ取り早い解決方法だと思いまして。」


「はあ、そうかい。じゃあなんでその時そう言わなかったんだい?店長の私に何の相談もなく、内引きのことを勝手に解決しようとして、もし芽以が関係なかったら?めぐみちゃんはお店の中をぐちゃぐちゃにしたかったのかい?」


「いえ!だから私は穏便に解決をと・・・!」


「自惚れるんじゃないよっ!」


バンッと拳をテーブルに叩きつける陽子さん。

隣で芽以さんの肩がびくっと動いたのが目の端に見えた。


「あなたが内引きをしていないっていう証拠が何処にあるんだい?あなたのそういう自分本位にでしゃばるところが今回の件を招いたんじゃないのかい?少しは反省したらどうなんだい?それに私との約束も守らない人間をどう信用しろっていうんだい?」


「・・・す、すみません。」


陽子さんの言うことはごもっともだ。

私は疑いが晴れたわけではないのに、勝手な事をした。

陽子さんが解決しようとしてくれたことを、でしゃばって探偵の真似事のようなことをして、陽子さんの考えをわかったようなことを言ってぬけぬけと今ここにいる。

思えばいつもそうだ。

誰かの気持ちを勝手にわかったような気になって、勝手に1人で行動して、私は回りの気持ちを一切考えていない。考えようともしていない。最低だ。


「ち、違うの!陽子さん!あーしがやったんだ!あーしがめぐみの財布に二万円入れたから!こんなことになったんだし!めぐみは悪くないし!あーしのせいなの!」


見かねた芽以さんが横から話に入ってくる。今度は芽以さんの方に視線を向ける。


「芽以。あんたは本当にバカな子だね!そんな事して何になるっていうんだい!?本当に見損なったよ!」


「ご、ごめんなさい!マジでごめんなさい!・・・あーしクビになるの?」


「バカヤロウ!!」


更に大声で陽子さんは芽以さんに怒鳴った。

私と芽以さんはビビりまくって2人して肩をビクッと震わせた。

それなのに、お店に響いてやしないだろうか、なんて冷静なことを思ってしまう。


陽子さんは立ち上がってフラフラと芽以さんの隣まで歩いてきた。

それを目で追っていた芽以さんはやがて陽子さんを見上げるような形になった。

そしてゆっくりと陽子さんの手が上がって、


「ひっ!」


目を背けてビクッとなった芽以さん。

ビンタでもされると思ったのか。

けれど実際の陽子さんの行動は、芽以さんを抱きしめるというものだった。


「ぶさけるな。・・・ふざけるんじゃないよ!私は皆のことを家族だと思ってるんだよ!そんな簡単じゃないんだよ!今回のことを知って、私がどれだけ悲しんだかわかってるのかい!こんなしょーもない事して。私は芽以にそんなチンケな人間になってほしくないんだよ!負の感情に飲み込まれて、周りの人間を簡単に傷つけるような悲しい人間にね!私にとっては芽以はもう娘みたいなもんなんだから!」


端から見ていても芽以さんのことを強い力で抱き締めているのがわかる。

とても力強くて優しくて、そしてとっても温かい。


「・・・うっ。ご、ごべんなさい・・・。陽子さん・・・。ごべんなさい・・・あーしっ・・・。うわーん!」


芽以さんは声をあげて泣いた。


そしてそんな2人の光景を目の当たりにした私は、どうしようもなく胸が苦しくなってしまうのだった。


ああ・・・。


私はバカだ。


そして芽以さん、陽子さん・・・ごめんなさい。


私は歯を食いしばって、俯いた先に見える拳をぎゅっと握りしめた。

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