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私のわがままな自己主張2(プロット)  作者: とみQ
第4章 女の戦い
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肉の日

8月29日。


私は先日陽子さんと約束した残りの一万円を朝一で返し、今日も普段通り出勤させてもらった。

今日は肉の日と言って、毎月29日はここ牛藤では本日のお会計額の29%オフのサービス券を配るという、とても太っ腹な日となっている。

あ、来月1ヶ月の期限つきではあるけれど。

私はもちろん、初めての経験ではあるんだけれど、相当な数のお客様が来店されるそうで、バイト初日からお盆という繁盛日を乗り切ってはいたので、そこまで心配はしていなかったのだけれど、水曜日とはいえかなり潤沢な布陣となっているのを考えるとかなり覚悟してかからねばと思った。

チーフと陽子さんはもちろん、朝はそれに加え川島さん、私、ホールに十花さんと健さん、夜は志穂姉とベストメンバーなんだもの。


「じゃあオープンするよ!」


陽子さんが入り口のドアを開くと、11時という早い時間帯からお客さんがわっと入ってきて途端にテーブル席はいっぱいになって更に5組程店外に並んだ。


ランチバイキングにも一気に20人くらいの人が押し寄せてあっという間に牛肉のコンテナが空になる。

こんな調子では5分おきくらいに新しいものと取り替えなければ回らないんではないだろうか。


「うわっ!すっご・・・。」


「めぐみちゃん。今日はたくさんお肉が必要になると思うから替えのコンテナをもっと作ってきてくれるかしら?交換は私たちでも出来るから。」


「あ、はいっ!」


十花さんに言われて私は厨房に戻ってとにかく土日の3時まで分くらいの量のお肉を準備した。

戻るともう冷蔵庫のストックは切れて、さらに野菜類も残りわずかになっていた。

これはもはやお盆のお客様の量を越えているのではなかろうか?


「お嬢!野菜も足りねーでさあ!あと今持ってきたお肉、一時間持たねえかも知れねーでさあ!今学生8名外で待ってるんで!」


「は、はい!」


確かにあと30分程でお客さんが入れ替わっていくのでまた新たな波が押し寄せてくるに違いない。

そうこうしているうちに洗い物も貯まってきている。


「単品の注文入るよー!」


「・・・!」


「なんだとっ!?」


いつもこの時間は夜の単品用のお肉を捌いたり野菜を切ったりしている2人も今日は昼間からお肉の単品の注文が入ってきて途端に慌ただしくなった。

ランチタイムとはいえ、たまにゆっくりと食事を楽しみたいという方が、単品の注文を取ってくることもあるのだろう。

普段はなかったけど。


私もとにかく10分だけ洗い物をして野菜の準備をして、さらにお肉の用意、洗い物・・・と延々と動き続けた。


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


そしてこの日は3時を過ぎてもまだお客さんがいて、4時を回った頃になってようやく待ちもなくなり、席も空き始めた。


結局お客さんがいなくなるのは4時半を過ぎていた。

その頃には洗い物も山のようになり、バイキング用のお肉も、土日の倍くらいの量を使用しただろうか。

こんなことはここに来て以来初めてのことだ。


夏休みということもあり、平日とはいえお盆以上の賑わいをみせるなんて。肉の日、恐るべし。


「お疲れ様ー!皆元気ー!?」


この忙しさを予見していたのか志穂姉がちょっと早目に出勤してきた。


「志穂姉!ヤバすぎなんですけどっ!?」


しこたま貯まった洗い物を消化していた私は、手を止めることなく志穂姉に声をかけた。

志穂姉は私と目が合うと、笑顔を一瞬固まらせて、次の瞬間さっと目を逸らした。

さらに、返ってきた声は随分と歯切れの悪いもので。


「あ、ああ。椎名ちゃん。いたんだ・・・。」


彼女はそれだけ言うと、そのままホールの方へ行ってしまった。

流石にいきなりのあの態度は胸がズキズキしてしまう。

何か私のことで誰かから聞かされたに違いない。

それもどちらかというと悪い方向で。


「お嬢!洗い物追加でさあ!これでもうほぼ終わりになりやす!」


健さんが忙しなく動き回って汗だくになっている。

私は一瞬止めかかった手を再び動かし、健さんの方を向いた。


「あ、はいっ!ありがとうございます!健さん!」


とにかくまだまだ忙しいのだ。

不要なことを考えるのはよそう。


「よし!」


私は洗い物の機械の中にしこたまお皿をぶちこんで、勢いよく扉を閉めた。

それと同時に中でバシャバシャと温水がお皿の汚れを水圧で洗い流していく音が忙しなく厨房に鳴り響く。


今はその音が妙にありがたかった。



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