美奈のお誕生会
結局、12時半頃になってようやく隣駅の魚ヶ崎駅の美奈の家に到着した。
30分の遅刻をしてしまい、微妙な気持ちもあったけれど、お馴染みの美奈の一軒家の石造りの門構えを見て安心してしまっている自分もいて、どちらかというと改めてこの家が好きなんだなあという気持ちの方が強かった。
ピンポーン。
インターホンを押すと程なくして美奈のお母さんが玄関先に姿を現した。
扉が開いてひょっこりと顔を覗かせる姿が可愛らしい。
美奈のお母さんはいつもと同じように明るさいっぱいの笑顔。
私も遅刻したことなどお構い無しに、つられて笑顔になってしまう。
「美奈ママ!久しぶり!」
「めぐみちゃん、いらっしゃい!」
そう言って私は美奈ママの豊満な胸に顔を埋めた。
美奈のお母さんは美奈と同じく小柄だけれど、美奈と違って目はいいようで眼鏡はかけていない。柔和な笑顔で美人というか、可愛らしい感じだ。黄色いエプロン姿がその可愛らしさを引き立てていて、すごく若く見える。
私は親しみ易くて明るいこの人が大好きだった。
「遅れてごめんなさい!寝坊しちゃって。みんな来てる?」
「ふふ・・・。相変わらずね。男の子たちは揃ってるわよ?」
私は遅刻してきたのだ。他の皆はもう来てるに決まっている。
「あ、そうですよね。じゃあ私もお邪魔します!」
私は家の門をくぐり、中に入っていこうとした。
「めぐみちゃん。元気でやってるの?」
そんな私に対して、美奈ママは突然そんなことを聞いてきた。
何だか意味深なような、色々な取り方が出来そうな質問だ。
「え?元気ですけど?」
とりあえず当たり障りのない言葉で返答してみる。
どういう意味合いだとしても、私からペラペラと喋るようなことでもない気がするし。
「そう。何だかあなたたち色々あったみたいだったから心配していたのよ。」
やっぱりそうか。
まあでも部屋に閉じ籠っている美奈に会いにきたり、君島くんと美奈が付き合い始めた事実を目の当たりにしたら、私がどんな気持ちなのか、気にはなるよね。
「うん。ありがとう。美奈ママ!でも私、意外と大丈夫だから!」
私は笑顔で答えた。それと同時に私って、いつもこういう時、笑顔で話してるなあなんて思わなくもなかったけれど、やっぱり落ち込んだり暗い顔をするよりはよっぽどいい気はした。
別に、本当に落ち込んだり暗い気持ちという訳じゃないんだけど。
「そう。恋のライバルだった母親がこんなこと言うのもおかしな話だけど、私も昔、親友と1人の男の子を取り合って失恋した経験があるから、悩み事があったら何でも言ってね?」
「え!?何それ!聞きたい!」
「ウフッ。相手は君島くんのお父さんなのよ?」
「え!?そうなの!?益々興味あるんですけど!?」
は?どういう事だ!?
というか、いきなりそんな話をぶっこまれて、美奈ママは私を心配していたというより、その話をただ私にしたかったんじゃないのだろうかと勘繰ってしまう。
だって知ってる人たちの色恋沙汰ほど面白くって盛り上がる話はないじゃないか。
そんなこと言われたらものすごく気になるじゃないか。
「まあとにかく早く中に入って?皆待ってるわよ?」
「ぶー。投げっぱなしはズルいです!」
結局思わせ振りな発言だけしてこの場ではあまり話す気はないらしい。
とはいえ私も遅刻している手前、深くは聞けず、ここは早く皆と合流するために、茶色い玄関の扉をくぐり、中に入っていったのだった。




