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私のわがままな自己主張2(プロット)  作者: とみQ
第3章 動き出した心模様
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違和感

ランチのピークも過ぎて、上がりの時間が近づいた頃。


「困ったなー。」


陽子さんが事務所から戻ってきた。先程誰かから電話があったようだけど、何か不測の事態だろうか。


「どうかしたんですか?陽子さん。」


「いや、志穂が風邪引いて熱があるらしくてさ。誰か代わりがいないかと思ってさ。」


「あ、じゃああーし残りますよ?今日は散々迷惑かけたし?」


後ろで聞いていた芽以さんが残ってくれるらしい。

芽以さんはお昼こそ調子が悪かったけれど、休憩後にホールに戻ってきてからはすっかりいつもの調子に戻っていた。


「そうかい。引き受けてくれるかい!今日は夕方宴会30名様が予約入ってたから2人じゃさすがに厳しかったんだよ!ありがとう!芽以ちゃん!」


そう言って陽子さんはニカッと笑った。事態はあっさりと解決したらしい。


「それじゃあ私はそろそろ上がりますね!」


「ああ!今日もありがとうね!めぐみちゃん!」


「はい!明日はお休みをいただきますので!」


「あー、そうだったね!あのバカ息子をよろしくね!」


「え、あ、はい。」


私は陽子さんの発言を聞いた芽以さんの肩がびくっとなったのを見て気まずくなってしまい、逃げるように事務所へと向かった。

いやー。参ったな。


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


着替えを済ませて事務所に出ると、休憩している芽以さんがいた。

芽以さんは椅子に座って足を伸ばしながら、ファッション雑誌をパラパラとめくっている。


私は鞄を持って帰ろうとする。


「あっ、めぐみ。」


「え?あ、はい!」


声をかけられると思っていなかったので声が少し上ずってしまった。


「さっき陽子さんが探してたよ?行ってきたら?」


「あ、そうなんですか?わかりました。」


私は鞄を一先ず事務所の机に置いて、そのままホールに向かった。


ホールはもうお客さんはいなくなって、夕方のピークまで、陽子さんと十花さんでテーブルを拭いたりたれを追加したり、片付けの真っ最中だった。


「陽子さん!」


「ああ、めぐみちゃん!お疲れ!」


「はい!で、何ですか?」


「ん?何がだい?」


「え?いや、探してたみたいだったので。」


「ん?誰をだい?」


「え?」


「ん?」


陽子さんは特に何かあった風でもなく。


「あ、いえ。何でもないです。お疲れさまでした!」


私はそのまま事務所に引き返す。


ぱっと事務所に顔を出すと、さっきと同じように雑誌をパラパラとめくる芽以さんがいて。


「陽子さん特に何もなかったみたいですよ?」


「ん?そうなの?じゃああーしの勘違いだったのかな。ごめんねー。」


芽以さんは雑誌に視線を落としながら特に悪びれる様子もなくそんな事を言った。


「そうなんですね。わかりました。じゃあ私帰ります。お疲れ様でした!」


机に置いていた鞄を手に取り、私は今度こそ事務所を後にした。


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


裏口の前で私は念のため鞄の中を確認していた。


幸い今日は雨で歩いて来たので鞄の中はそんなに大して入ってはいないけど。

財布や携帯電話といった貴重品はちゃんとあった。


「・・・。考えすぎか。」


私は次の瞬間自分の行動が恥ずかしくなってしまった。


芽以さんを疑うなんて、最低だ。


あー。


自分の汚い心のせいで嫌な気分!


いっそのこと濡れて帰ろうかな。


雨に濡れてこの嫌な気分ごと洗い流してほしいなんてことを思いながら。


だけれどそんな状態で家に帰ってお母さんがいたら心配するかもしれない。


まあ傘を忘れたとか言えば濡れてることなんていくらでも誤魔化せるんだろうけど、どちらにせよ、濡れて帰ったって結局いいことなんて1つもないなと、最終的にひどく冷静な思考になって鞄から折り畳みの傘を取り出した。


最近お母さんと、ようやくお互いの気持ちを解りあった気がしているのに、勝手にセンチメンタルになって心配かけるなんてごめんだ。


マイナスなことばっかり考えても、きっと良いことなんてない。

そんなんじゃ、自分にとって嫌なことばっかり起こってしまうに違いない。


そうして私は、傘をズバンッと開いて雨道を早足で進むのだった。


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


「ただいまー、って誰もいないか。」


今日もお母さんは帰りが遅いらしい。


先日お母さんに家事を手伝うよう言われた私は手始めに洗濯をするようになったのだ。


外は雨だったので、傘を差してはいたものの、早足で帰ってきたものだから体は少し濡れていた。

早くシャワーを浴びたかった私は、お母さんがよくしていたように、服をすぱぱっと脱いで洗濯機に放り込み、洗剤と柔軟剤を入れて、洗濯機の蛇口をひねり、スタートボタンを押す。

そのままシャワーを浴びようとお風呂場に向かったけれど、目の端に玄関に置いた鞄が入ってきて。


「たまにはこれも洗うか。」


私は裸のまま鞄の中身をテーブルに広げ、鞄を洗濯機に放り込んだ。

この鞄は背負うタイプの鞄なので、背中に触れている部分が汗をかいて、当然その汗も染み込んでいるはずなので夏場は気になってしまうのだ。


「いやんっ!」


裸のまま家の中をうろうろしている自分に対して、急に気恥ずかしさが湧き起こってくる。


私ってば本当にはしたない。


誰に似たのか。


私はテーブルに鞄の中身を乱雑に置いたまま、ささっとお風呂場に逃げ込んだ。


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


「ぷはーっ!やっぱりお風呂上がりの麦茶はさいこーね!」


私はシャワーを浴びてからショートパンツにバスタオルを首から提げた格好で、コップに並々と注いだ麦茶を一気飲みした。


コップを台所に置いて、隣の部屋に移動して、ようやくTシャツに身を包み、布団に横になった。


「ふー。極楽極楽。」


私は洗濯が終わるのを待ちながら、エアコンの利いた部屋にバタッと寝転んだ。

洗濯機からは水をかき回す音ではなく、フォンフォンと衣類を回転させて水気を吹き飛ばす乾燥機の回転音がしているので、もうじき止まるだろう。


私は天井の木目を眺めながら、牛藤でアルバイトを始めてそろそろ2週間になるなあなどと考えていた。。

慣れたとは言ってもまだまだ新米、色々と気を遣うのか、疲労はそれなりだ。

やっぱり学業や部活とは全然違う。

適当には出来ないし、ミスも許されない。まあ許してくれる環境だとは思うけど、やっぱりお金を頂いているのだからそれは当然だ。


・・・。


明日は久しぶりに美奈と君島くんに会う。


何だか毎日のように教室で私と工藤くんを交えて4人でわいわいやっていたのが遠い昔のようだ。


まあ9月になればまたそんな日々が始まるんだけどね。


だけどこの夏は4人の関係が大きく動いた夏でもあったから、もしかしたらその関係が悪い方に変わってしまうんじゃないかっていう懸念もあった。


連絡もあんまり取り合わなかったし。


だけど美奈のお誕生会に呼んでもらって、またいつもの4人でわいわいやれるのかと思うと私は胸が弾まずにはいられなかった。


若干心配な奴が1人いるけどね。


まあそこは椎名ちゃんが多少はフォローしてやらんでもない。


一応失恋仲間だし?


バイト先紹介してもらったし?


ピーッ、ピーッ、ピーッ。


洗濯機が電子音で、終わりの知らせを告げてくる。


それによって私の思考は打ち切られて。


「あ。今日雨だから外に干せないや・・・。」


私は今頃になって雨だと言うことを思い出して、改めて自分の家事の不慣れさを実感するのだった。


「・・・じゃあ、部屋干しだな。よっ、と。」


私は反動をつけて布団から立ち上がり、お母さんに後で生乾きで臭くなるから洗濯しなくてよかったのに、などと言われるのだろうかと思いつつ、以前はあり得なかった家族の交流が増えるのは良いことだな、とも思った。

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