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私のわがままな自己主張2(プロット)  作者: とみQ
第3章 動き出した心模様
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芽以さんの嫉妬?

8月25日。


今日も朝から牛藤でのバイト。


ここに来て初めての雨の日の勤務だった。

雨の水分が更に蒸し暑さに拍車をかけている土曜日の朝。

店の中なので暑さに苦しむということはないんだけど、じめじめした空気は室内でも伝わってくる。


しかも今日はあの日以来に会う芽以さんが朝からいる。


この前何だか微妙な別れ方をしたので正直ちょっと心配。

変に意識されなければいいけど。


「おはようございます!」


「おう!椎名ちゃん!今日も早えなっ!」


「いや、健さんの方が早いじゃないですか。」


事務所に入るとまだ芽以さんは来ていなかった。まあいつも割とギリギリだったりするからもうすぐ来るのだろうけど。


今日のメンツは朝は厨房がチーフに私に健さん。ホールが陽子さんと十花さんと芽以さんだ。


私が着替えて厨房に入る直前に芽以さんとドアの前でばったり会った。


「「・・・!」」


2人は向き合って一瞬言葉を失ってしまったけれど。


「芽以さん、おはようございます!」

「あっ!めぐみ!おはよう!」


いつものように挨拶は普通に交わすことができた。

それだけで私はホッと胸を撫で下ろす。

まあ別に悪いことをしたわけじゃなかったんだけど、思っている以上に気持ちが重かったようだ。


そうして私は心の荷物を1つ下ろして、厨房に足を踏み入れたのだった。



※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※



午後になって、お昼のピークタイムに突入した。


ガシャンッ!


「失礼しました!」


今日何度目かになるお皿が割れる音。

犯人は芽以さんだった。

出勤してからの芽以さんは、いつものような元気もなく、動きのキレもなくて。

誰が見ても明らかにおかしかった。


「ホントにすいません!あーし、今日迷惑ばっかりかけて!」


「大丈夫よ。そういう日もあるわ。何だか疲れてるみたいだから、少し休憩してきなさいな。今日は雨でそこまでお店も忙しくないし、ホールは2人でもなんとかなりそうだから。」


十花さんが芽以さんを気遣って声をかける。


「あ、はい。ホントにすいません。」


芽以さんはそう言われてとぼとぼと事務所へと入っていった。


うーむ・・・。


参ったな。


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


「芽以さん。大丈夫ですか?」


「あ。めぐみ・・・。」


私はバイキングの確認とストックをひとしきり作ってチーフに言って5分程事務所に来させてもらった。芽以さんと2人で話したかったから。


私は事務所の椅子に座っている芽以さんの向かいにパイプ椅子を置いて座った。


丁度芽以さんとは正面から向かい合った形になる。


「あの・・・芽以さんは工藤くんのことが好きなんですね。」


私は単刀直入に切り出した。

こういう事ははっきりと言った方がいいと思うのだ。


びくんっ、と芽以さんの肩が震えた。


「・・・何でそんな事聞くの?」


恐る恐る、といった風な芽以さんの態度。


「芽以さんこの前、私と工藤くんが口喧嘩してるの見て嫉妬しましたよね?羨ましがりましたよね?その事気にしてるんですか?」


「え?・・・それは・・・。」


芽以さんの目が泳いで、視線が左に揺れた。


「私、工藤くんとは友達です。芽以さんのこともすごく打ち解けやすくて好きです。だから、そんな2人が引っ付いたりしたら素敵だなあなんて、少し思いました。でも、今の芽以さんだったら友達の工藤くんの彼女になってほしくないです。」


私は芽以さんの目をしっかりと見据えて話す。


「なっ・・・何よ!」


芽以さんの顔が真っ赤になる。


正直あんまり言いたくないことだけど、それでも、ちゃんと言う。


「私が工藤くんと仲良くしたくらいで揺れないでください。私が工藤くんと楽しそうにしていたくらいで落ち込まないでください。工藤くんのことが好きならもっと潔くその好きを貫いて下さい。」


「ぐっ・・・!」


そんな事を偉そうに言っている私だけど、私は自分の好きを貫けたことなんてない。

けれど、今の芽以さんは、何だかすごく残念だって思うから。

勿体ないって思うから。


「私が工藤くんの友達やめれば満足ですか?口利かなくなった方がいいですか?それを受け入れて、自分の方に傾いた工藤くんと付き合って嬉しいですか?芽以さんは、工藤くんのどこを好きになったんですか?」


工藤くんが最終的に誰を選ぼうと勝手だけれど、もしそれが芽以さんであるのなら、私が最初に感じたような、人のパーソナルスペースに心も体もづかづか入り込んできて、それでも相手に嫌と感じさせない馴染み易い素敵な芽以さんでいてほしい。


芽以さんは顔を真っ赤にしたまま、膝に置いた拳を握り締めて私を見ていた。というか、睨んでいる、と言った方が適切かもしれない。

言い過ぎかもしれないけれど、ここははっきりと言うべきだと思ったのだ。

回りくどくしてもしょうがない。

ただ私は、芽以さんに工藤くんと私のことで落ち込んでほしくはないのだ。

別に私たちの気持ちがどうだろうが、関係は何も変わっていないのだから。


芽以さんの握った拳が微かに震えているのが見てとれた。


やがて。


「ぷっ!あはっ!なんかマジ、ウケるよね!」


芽以さんは急に笑いだした。


ウケる・・・か。


芽以さんは笑っていたけれど、本当に笑っているのかは私には量ることができない。

それほどに私と芽以さんの関係は深くないのだから。


「ホントマジ笑っちゃうよね!アハハハッ!ごめん!めぐみ!あーしはもう大丈夫だからっ!うん。大丈夫!」


「え、あ、はい。それはよかった。あの。生意気言ってすいません。何か。」


「あー、いーのいーの!めぐみは言いたいことをちゃんと言うべきだって思ったんだよね!?あーし的にはマジ響いたから!もうぶん殴られた気分っていうか?あ、じゃああーし、いー加減仕事戻んねっ!」


そう言って芽以さんはさっさと事務所から出ていってしまった。


私はその背中を見送って。


「・・・。」


私の言葉はきちんと届いたんだろうか。


結局私の言いたいことだけ言って、芽以さんの気持ちは何一つ聞くことはできなかった。

芽以さんに何かしらの感情の変化は与えられたとは思うけど。


何となく違和感を感じずにはいられなかったのだけれど、とにかく言うべきことは言ったので、これ以上はもうどうすることもできないと思い、私も続いて厨房に戻ったのだった。

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