和解の先に
それから2人して牛藤に戻ってきて。
皆にお騒がせしたことを謝って。
仲直りしたことを報告して。
ようやく家族団欒の時間を迎えることができたのだった。
何だかすごく遠回りしてたような気もするけど、私は今のこの時間が愛おしすぎて、そんなことはもうどうでもよかったんだ。
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「はーっ!食べた食べた!」
私はお腹をポンポン叩きながら満腹感を味わった。
「めぐみ。はしたないわよ。」
「はーい。」
もう何を言われてもお母さんの想いを感じれる気がして、嬉しくなってしまっていた私はさらにお腹をポンポコ叩いていた。
するとそこへ陽子さんが工藤くんを連れてやって来た。
おっと危ない!はしたないとこ見られちゃう!
「堪能してもらえましたかい?」
「ええ。とても美味しかったわ。ありがとう。」
お母さんはさっきとは違い穏やかな表情で答えていた。
「あと、さっきはうちのバカ息子がすみませんでしたね。おいコラ!早く!」
すごすごと横から工藤くんが出てきて、
「お母さん。さっきはすみませんでした。」
ペコリと謝った。ふてくされた子供のように。
「あなたが工藤くんだったのね?」
まあ実際工藤一家なのでみんな工藤なんだけど、多分私が電話していた男の子、と言いたいんだろう。
「あ、はい。」
工藤くんの頭に?が浮かんでいる。
「娘をよろしくね。工藤くんのお母さんもめぐみをこれからもよろしくお願いします。」
そう言ってお母さんは腰を折って頭を下げた。
「やめとくれやめとくれっ!堅っ苦しいのはほんと苦手でね!めぐみちゃんにはうちが助けてもらってるんだから!」
「ふふ・・・。いいお店ですね。・・・また来ますね。」
笑顔で席を立ったお母さんは最後に私の耳元に口を寄せて、
「工藤くんいい子ね。お父さんにそっくりよ。」
と言ってきた。
ぶっ!お母さんまで・・・。
だからそういうんじゃないんだってばっ。
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「それじゃあ今日はありがとうございました!」
お母さんを見送って、私もお店の入り口に来た。工藤くんと一緒に。この後美奈の誕生日プレゼントを買いにいくんだけど、ちょっと気恥ずかしい気もするな。
デートって訳じゃないけど。
「めぐみちゃん!またお母さんと来ておくれよ!あと今日はうちのバカ息子の面倒も見てもらって悪いね!」
「いえいえ!まあ腐れ縁みたいなものですから!」
私は笑顔でぱたぱたと手を振る。
「椎名!扱いがひでーからっ!」
ホールの裏手に志穂姉も顔を覗かせた。私は手を振ろうとしたけど、すぐに裏に引っ込んでしまった。
あれ?なんだろ。
「じゃあ行くわよ。」
私はあまり深く考え過ぎず、牛藤を後にする。
「わーってるよ。」
工藤くんもそれに倣って付いてくる。
「・・・椎名。」
牛藤を出て少し行ったところで工藤くんが呼び止めてきた。
「ん?」
「なんだ・・・その・・・今日は悪かったな。」
目を逸らせながら、バツが悪そうに呟く。
あら、まだ気にしてるんだね。
まあ彼の性格上そうだよね。
・・・よーし!
私は彼の首に腕を回して空いた手で顔をぐりぐりやってやった。
「気にすんなっ!バカ息子!」
「ちょっ!おまっ!胸が当たるっつーの!」
工藤くんてば、すぐそんな事を言う。
私は手を離してサッと彼から離れた。
「・・・エロ工藤。」
「え!?俺か!?俺が悪いのか!?」
再び慌てふためく工藤くん。相変わらず素直なやつだ。
「ふふっ、悪くないよ。それと、謝らないで?」
「え?」
私は歩みを止めて工藤くんと向き合った。
「私の代わりに怒ってくれてありがとう。すごく嬉しかったよ?」
「お・・・おう。あたりめーだ!」
少し戸惑った様子を見せたけれど、最後には元気にガッツポーズを決めてみせる。
・・・。
そんな彼を見て私は。
・・・あれ?あれあれ?
私は工藤くんを無視してすたすた歩き始めた。
「おいっ!無視か!?無視なのか!?」
「・・・。」
それでも私は工藤くんを無視してすたすたと歩いていく。
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それから2人はしばらく無言で歩きながら、レストラン街の出口付近に来た頃、私たちの知り合いがいた。
「あっ!淳也くん!いた!」
「ん?芽以さん。」
そこには私服姿の芽以さんがいた。
胸回りに英語の文字が刻まれたタンクトップに白いミニのデニムスカート。サンダルはヒールが高くて私と同じくらいの目線になっていた。タンクトップから覗く胸の谷間がえろい。
うん・・・えろい。
芽以さんはそのえろい格好で工藤くんの腕に飛びついた。工藤くんの腕に当たってタンクトップを押し上げる胸の形がふにゃんと歪む。えろい。
「工藤くん。LINE見てくれてないワケ?」
「えっ!?LINE?」
ちょっと頬が赤い工藤くんはポケットから携帯を取り出してLINEを確認する。
「あっ!まじで!?」
それを見た工藤くんは顔をしかめた。
「あー。でも俺、これから予定あるからさ。」
「え!?それってめぐみと?」
私と工藤くんの顔を交互に見て芽以さんが不安そうな顔になる。
おそらく上がってからメールで芽以さんからデートにでも誘ったんだろう。
待てども待てども返事はなく、既読にもならず、レストラン街の近くをうろついてたら、私たちを見つけて声をかけたって所かな?
「あ、芽以さん!私たちの友人の誕生日プレゼント買いに行くだけなんで、よかったら芽以さんも一緒にどうですか?」
私はせっかくだし3人で行く提案をしてみた。
今日はほんの少しだけ気恥ずかしい気持ちもあったりするし。
別に2人じゃなきゃいけない理由もないし。
「え!?そんなの悪くない!?あーし、邪魔っしょ?」
芽以さんは引き続き不安そうな顔で工藤くんを見ていた。
「え?別にそんなことないですよ?プレゼント買う相手女の子だから、芽以さんがいてくれた方がむしろ助かります!ね?工藤くん?」
私は工藤くんにウインクしながら話を振る。
「え?そーか?でも高野って芽以さんとはタイプがだいぶ違う気がすんだけど?」
バカ工藤!私は芽以さんに見えないように彼の足を踏んづけた。
「いっ・・・!?え!?あ!?」
「いいわよね!?工藤くん?」
私は満面の笑みで工藤くんにもう一度確認を取る。
すると彼はようやくこくんこくんと頷いたのだった。




