初給料日
8月24日。
今日は初給料日。
ここ牛藤では、20日締めの25日払いとなっているが、今月は25日が土曜日ということで、1日早り、本日24日が給料日なのだ。
「めぐみちゃん!ご苦労様!初給料だね!短い期間で色々覚えてくれて助かってるよ!これからもよろしくね!」
陽子さんが来るや否や封筒に入ったお給料を手渡してくれた。
そうなのだ。
ここ牛藤は最近では珍しく、お給料が現金でとっ払いとなるのだ。
「陽子さん。ありがとうございます!これからも頑張りますっ!」
茶封筒を恭しく受け取った私はこの人生初のお給料に感動の色を隠しきれない。
自分がやったことに対してお金という対価をもらう。
当たり前のことなんだけど、実際やってみると学校なんかと違って、責任も緊張感も段違いだ。
お金を稼ぐってホントに大変だわ!
さて、今日のメンツは朝から厨房が私、チーフ、健さん。ホールが陽子さんと芽以さんと志穂姉という構成だ。
「健さんって厨房もホールも両方やれてすごいですね。」
私も今の仕事量には余裕が出来てきて、コンテナのサラダを用意しながら健さんに声をかけた。
「おう!ありがとよっ!まあおらぁ年季が入ってるってのもあるしなっ!」
健さんは焼き野菜であるとうもろこしをゴツゴツ切っている。
「どれくらいやってるんですか?」
「5年くれぇかな。」
「ほえー!」
5年っていえば、私が小学生の時にはすでに働き始めていたということなのだから、単純にすごい長い期間だなあと思ってしまった。
それでも社会に出て定年退職までの期間に比べたら大した時間ではないんだけどね。
「まあでも、椎名ちゃんも中々良くやってくれらあな。」
チーフが夜用の牛肉の塊を捌きながら、話に参加してきた。
私は今度はお肉を切るスライサーでバイキング用の牛バラと豚バラを切り始める。
「え?そうですか?」
「ああ。まだ1ヶ月も経ってねえってのにバイキングと皿洗いを1人で回せるようになったってなあ、大したもんだよ。」
え、何かチーフにそう言ってもらえて嬉しい!
「そうそう。大体皆皿洗いかバイキングだけかを1人で回せるようになるまでに2週間は費やして、出来ない奴はそこで音を上げて辞めたりもするからな!」
健さんが話を引き継ぐ。
それに比べると私って凄いかも!なのかな?
「あ、じゃあバイキングの様子見てきまーす!」
そう言って私は厨房を後にした。
「ふんふふんふふーん♪」
「おっ!?どした?めぐみ!超ご機嫌じゃん!」
「あら、なんかいいことでもあったの!?」
「むふっ!まああったと言えばありましたね!」
ホールに出ると大学生コンビが声をかけてきた。
「何!?男!?男!?」
「いや、違いますぅー。どっちかというと私、今恋愛はしばらくいいんで。」
「え!?そうなの?でもめぐみってモテるっしょ!?」
「え、そーでもないですけど。大体私って女の子として見られませんよ。がさつだし。」
「え!?そんなことないよ!?めぐみちゃん可愛いわよ!?」
「そーそー。あーしだったらほっとかないね。まじ。」
志穂姉と芽以さんがフォローしてくれた。
「志穂姉も芽以さんも、年上だからですって。年下の子がちょっとかわいく見えちゃう的な!?」
「そーかなー。うちの男連中もウハウハしてんじゃない!?健とかさ。」
「芽以ちゃん、健さんは十花さんでしょう?」
「ま、そーだね。」
「え?そーなんですか?」
ふむふむ?
「まーでも十花さんには川島さんがいるもんね。」
「え?やっぱりあの2人付き合ってるんですか?」
「いや、そーいう訳じゃないんだけど。まあ、見てればわかるっていうか?」
確かにねー。あの2人が喋っているところを見たけど、お互い皆に見せない顔をしてる感じがして、何だか胸がくすぐったかったもん。
「そーそー。ま、あそこは川島さん次第っしょ。結局恋人いんのは志穂だけかー。」
「え!?志穂姉彼氏いるんだ。」
ふむふむ!
「もーマジラブラブだから。毎日彼氏からメールとか電話とかかかってくっから。マジ愛されてんの。」
「へへー。普通かな!?」
志穂姉嬉しそう!
「へー。いいなー、志穂姉!」
「はー、マジあーしもそろそろ彼氏欲しいわー。どっかにいい男いないかなー。」
「何言ってるの!芽以はもう好きな人いるんだから頑張ればいいじゃない!」
おっ!?おっ!?
「え?芽以さん好きな人いるんですね!」
「いや、ちょっ!?マジあーしはまだそーいうんじゃないから!」
芽以さんは急に恥ずかしそうに手を振る。
「おいおい!サボってないで働いておくれよ!」
そんなこんなで話が盛り上がってきた頃、ガールズトークを止めさせるべく陽子さんがやって来た。
この話はそれでお開きになったけれど、皆やっぱりいいお年頃だし、色々あるんだなーと思った。
牛藤はこの先恋の秋になりそうだ。なんてね!




