夜に電話が鳴って4
さてさて。
9時前になって、最近すっかり恒例となっているけれど、美奈からの電話があった。
「もしもし。」
『めぐみちゃん!・・・私!・・・私!』
思いの外切羽詰まった美奈の声。
「ど、どうした!?大丈夫!?」
ちょっと昨日いらんことを吹き込み過ぎて失敗したかと反省をし、掛けていた椅子からガバッと立ち上がってしまう。
『・・・し・・・しあわせだよ~。』
そんな私の心配を見事に覆して幸せ一杯と来たもんだ。
「はっ!?・・・あっそ。」
単なるノロケだったことに気づき、途端に私の頭は冷えていった。
『あ、でもね!今日はそういうことじゃなくて!別の理由で電話したんだ!』
「え?ノロケをこれから散々2時間くらい聞かされるのかと!?」
『えーっと・・・じゃあ30分くらいにするね?』
いや、やっぱり聞かせるつもりだったの!?
「いやっ!いいから。おかまいなく!」
私は即答したものの、40分くらいノロケが続いた・・・。
まあでも、内容としては、あーんした話もあったけど、私と君島くんが花火大会の日に手を繋いで花火を見ていたことを、美奈が目撃してしまい、それで落ち込んで部屋に閉じこもっていたということが以前あった。
その事が美奈のお母さんを通してバレてしまったらしく、君島くんは改めて、私に対してや美奈に対しての気持ちの有り様などを語ってくれたらしく。
結局凄く自分が君島くんに大事に思われていることを実感できたんだということだった。
というか、昨日の今日で呼び方隼人くんになってるし・・・。
まあ私は、君島くんから電話でだけど、私のことをどう思っているか聞いていたので、知ってはいた。
だけど私もそんなことは美奈に今さら言うようなことでもなかったので話してはいなかったのだ。
結果的に、美奈からしたら、その辺うやむやにしたまま付き合い始めたようなもんだから、確かにその話し合いはした方が今後もすっきりとするだろうことは予想できた。
「でも、美奈ってば。」
『ん?何?』
「もうちょっと私のことも気遣ってよね。一応あなたの彼氏にフラれたようなものなんだから、ノロけられるこっちの身にもなってよね。」
ホントに、失恋した相手に対して散々ノロケてくれるものだ。
『あっ・・・めぐみちゃん。ごめん。私、めぐみちゃんが気の置ける友達だからって、考え無さすぎだよね。ホント、そうだったね。ごめん。』
急に電話越しのテンションが下がる。まあそうなるよね。
「なんてね!嘘。実は全然気にしてないんだ!」
私はそこは元気よく答えた。
『え?・・・そうなの?』
「まあ信じられない気持ちもわかるけどさ。何だか2人とはきちんと気持ちをぶつけ合って話してるから、なんかスッキリしたというか、気が済んだというか。やっぱり2人とも大事な友達だからさ。幸せそうにしてるのを見るとこっちまで嬉しくなっちゃうのよね!」
そうなのだ。
茜ちゃんにも自分のしたいようにすればいいみたいなこと言われたけど、結局最近電話で2人の話を聞いたり、応援したりしていても、心がざわめいたりなんてことはなかった。
今はもうその事については私は大丈夫なのだと確信している。
まあ2人のラブラブっぷりを間近で見せられたりしたらわからないけどさ。
結局、どうしたいかと問われれば、2人の幸せな姿を見られればそれでいいと答えるのだ。
『そっか。・・・うん。ごめんね。なんか私勝手に舞い上がっちゃって。友達失格だね。』
未だに落ち込んだ声色の美奈。
ちょっと言い過ぎちゃった?
「こら、美奈。そういう時は、ありがとう。でしょ?私はもういいって言ってるんだから。」
いつまでもうじうじした関係でなんていたくないもんね。
『・・・うん。・・・ありがとう。めぐみちゃん。』
「うん。美奈。改めておめでとう。」
『うん。・・・あ、・・・そう言えばなんだけど。』
「どした?」
『さっきの話の続き・・・。』
そう言えば、ノロケ以外の理由で電話したとか言ってたな。
「あー。うん。何?」
『今週日曜日、暇かな?』
「あー。日曜日はバイトも休みだから。大丈夫よ?」
『え!?バイトって・・・。めぐみちゃん今バイトしてるの?』
「あ、うん。あれ?言ってなかったっけ?」
そう言えば美奈の話を聞くばっかりで、全く私の話はしてなかったように思う。
それから私は美奈に部活を辞めてバイトを始めたこと。
バイト先はモール内の焼き肉屋で、実は工藤くんのご両親の職場ということ。
お金を稼いでお母さんを少しでも楽させてあげたいことなど話した。
『・・・何かめぐみちゃんも色々あったんだね。』
「うん。まあでも楽しいよ?また今度君島くんと食べに来てよ。」
『うん!もちろんだよ!』
「あ、ごめん。それで、何だっけ?」
少し話が逸れてしまった。
全然話が進んでいない。
『あ、そうそう、それでね。日曜日、家で私のお誕生会するから来てくれないかな?』
「え?日曜日誕生日なの!?」
それは初耳だ。というか、今までそんな話、したことなかったわ。
『うん。で、どうかな?久しぶりに4人で集まれたらと思ってるんだ。』
「あ、うん。そうなんだ。私は大丈夫だよ。」
私は大丈夫だけど・・・4人てことは、当然工藤くんもいるわけで。
今頃あっちは君島くんが誘っているんだろうか。
工藤くんはその辺割りきれたのかな。
だけど、せっかくの4人の関係を、ギクシャクさせたりしたくないし、学校が始まる前に、いい機会かもしれない。
『そっか。良かった。じゃあ日曜日、1時に私の家に集合でいいかな?』
「うん!オッケー!」
もしかしたら、美奈も、君島くんも、同じように思っているのかもね。
『じゃあ、色々話し込んじゃったけど、そろそろ切るね。』
「そうね。うちももうすぐお母さん帰ってくるだろうし。おやすみ!」
『うん。おやすみなさい。』
そう言って電話を切ると、ディスプレイに案の定、工藤くんからの着信があった。
やれやれ。
多分誕生会のお誘いを受けて、先月告白したばかりの子が晴れて友達と付き合うことになり、そのショックから立ち直りきれていないけど、断るのもどうかと思ってしまっている!
みたいな感じかしらね。
・・・全く。
世話がやけるんだから。




