田川芽以
8月20日。
いよいよ夏休みも2週間で終わりだ。
今年はカレンダーの関係で土日が9月2日まであるので3日から新学期となる。
夏休み的には得したような気分だけど、始まって5日も連続で朝早い学校に通うのかと思うとそれはそれで損した気分だ。
今日から月曜日ということで、モール内の雰囲気は子供連れのお母さんとかは多いものの、少しだけ閑散とした感じになった。
まあランチタイムはそれなりに忙しかったけどね。
今日のお店は厨房がチーフと川島さんとあたし。
ホールは健さんと十花さんと芽以さんの3人ずつというメンツだ。
「吉田くん。3番に温かいお茶をお出しして。」
「はっ!はいー!」
その直後、またコールボタンが押されて、ピンポーンという音がお店に響く。
「あ、あーし行きまーす。」
芽以さんが駆け足で赴き。
しばらくして注文を取って戻ってきた。
「すいませーん。上カルビのオーダー入りましたー。」
「おー。こんな時間に単品のオーダーか。椎名ちゃん!一人前100グラムだから、いけるかい?」
「はいっ!」
チーフに言われ、私はお皿に熊笹をひいて上カルビを冷蔵庫から取り出し、盛り付ける。
「パセリも忘れずにな!」
「はい!大丈夫です!上カルビ出ました!」
そのお皿を受け取った芽以さんと目が合った。
「ししっ。超頼もしーじゃん!」
ちょっとずつだけど出来ることも増えてきたなー。
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そうして4時頃になって、アイドルタイムになり、上がろうかという頃。
「おっ、めぐみっち上がり?一緒帰ろ?」
「あ、はい。え?芽以さんて家どこですか?」
「え?西明岩駅まで電車でそのあと徒歩。」
じゃあ方向が違う。
「じゃあ私自転車なんで方向違いますよ?」
「もう!連れないなー!1分くらい一緒じゃん!」
そう言ってバシッと背中を叩かれた。ま、いっか。
「はい。じゃあそこまで行きましょうか?」
「おーっ!めぐみってばマジ話わかるー!」
そして2人は更衣室に入って着替え始めた。
「めぐみって足が長くて羨ましいよねー。お尻も超上がってるし。」
隣で着替えていた芽以さんが私のショートパンツ姿を見てそんな事を言ってきた。
「はー。まあ陸上部だったんで、足腰は鍛えられましたかねー。でも芽以さんも胸が大きくて、羨ましいです。」
ブラ姿の芽以さんの胸は、最早凶器だ。あんなものに挟まれたら窒息死は免れない。
「揉んでみる?」
芽以さんは悪戯っぽい笑みで両手で胸を持ち上げて、私に寄ってきた。
「・・・なんかへこみそうなんでいーです。」
「めぐみったら、うぶなんだから!」
私が否定すると、面白がってさらににじり寄ってくる芽以さん。
私は狭い更衣室の壁にあっさりと追い詰められた。
「いや、そーいう問題じゃないです。」
すごい胸圧だ・・・。
「でもさー、何で今バイトなんて始めたワケ?陸上部も忙しいっしょ?あ、だったってことは辞めてココ来たんだ?」
思いの外あっさりと離れてくれた芽以さんは再び質問をしてきた。
マイペースであっさりした性格らしい。
「はい。そーですね。」
「そんなにお金に困ってんだ?」
「んー。まあ。うち、お父さんがいないんで、流石に家計を助けたいなーって。」
「あ、そうなのっ!?めぐみ、ごめん!」
不味いことを言ったと慌てて謝ってくる芽以さん。
「あ、いや、別に、そーいうの、よくあるやり取りですから。気にしなくていーですよ?」
「そ、そーいうもんなの?あーしの周りってそーいう人今までいなかったからさ。」
「はい。大丈夫です。じゃあそろそろ行きましょうか?」
そして、着替え終わった私たちは、更衣室を出て、そのまま裏口へと抜けていった。
私と芽以さんは上がりだけど、他のメンバーは夜までだ。
6時から志穂姉が出勤してくるらしい。
夜はバイキングもないので、仕込みをしていたチーフと川島さんで回すらしい。
最悪健さんはどっちでも働けるので大丈夫だろうとのことだった。
「しっかしめぐみってばそっこー慣れたよね!」
芽以さんはヒールの高い靴をコツコツ鳴らしながら言ってきた。
「はい。でもみんないー人ばっかりだから。」
もう裏口を抜けて、自転車置き場だ。
「そーっしょ!?あーしもここマジ好き!みんないー人ばっかでさ!ここ来てホントマジ運いーなって思ったもん!」
「あ、じゃああたしここなんで。」
結局自転車置き場に着くまでで、結構色々話せたものだ。
「あ、そっか。じゃああーし行くね?」
そう言って来た道と逆に歩いて行く。
「あ、あんさー。めぐみ・・・。」
帰るかと思いきや少し歯切れ悪く振り向いた芽以さん。
「?・・・どうしました?」
「・・・いや!別にっ!なんでもないからっ!じゃーまたね!」
結局何も言わずに手を振って行ってしまった。
なんでもなくなさそー・・・。
何だったんだろ。




