夜に電話が鳴って
その日の夜。
今日も一人の夕食を済ませた頃、携帯の着信が鳴った。
美奈からだった。
「もしもし。」
『あ、めぐみちゃん。』
美奈とは彼女が想いを寄せる相手、君島隼人くんと花火大会の日にめでたく付き合うことになって、その時に顔を合わせて以来だった。
別に気まずいとかそんなことは一切ないけれど、2週間くらいぶりだったから、少し気恥ずかしい気はする。
「なんか久しぶりだね!元気だった!?」
『うん。元気。一週間くらいお父さんの実家に帰ってるから、そっちにはいないんだけど。』
「あ、そうなの?じゃあ彼氏とデートも出来ないじゃない。」
『あ、う・・・彼氏・・・。』
美奈はまだ実感がないのか彼氏という響きに戸惑っているみたいだった。
「ふふ・・・。で?急にどうしたの?何か困ったことでもあった?」
美奈が私に直接電話をしてくる時は、大体相談事が多いのだ。特に恋愛の。
『あ、うん。あのね。私明日そっちに帰るから、君島くんと、その・・・あの・・・。』
電話越しでももじもじしているのが伝わってくる。
・・・ふむふむ。これはつまり。
「君島くんをデートにでも誘いたいのかな?」
『・・・!あ・・・う。』
図星か。
「なるほどね!てゆーか行きたいとこならどこでもいーと思うよ?」
『うん。あのね。暑いし水族館とかどうかなって思ってるんだけど、変じゃないかな?』
「うん。いいと思うけど。てゆーか多分美奈と一緒にいられるなら、君島くんはどこでもいーと思うと思うんだけど。美奈はそうじゃないの?」
『え!?・・・そうかも。』
相変わらず素直ー。
「はいはい。ご馳走さま。てゆーか美奈!誘う時は電話で誘うの?」
私はちょっといいことを思いついてしまった。
『うん。明日の夜電話しようかなって。』
「そっか。それって久しぶりの電話だったりする?」
『・・・うん。メールはちょくちょくしてたけど、電話は花火大会の日から一度もしてないかな。』
よし!
「なるほど。じゃあ美奈。明日君島くんに電話越しにちゃんと好きって言うのよ?」
『え!?どうして!?いきなり!?』
あたふたする美奈。そりゃやっぱりハードルが高いのかな。
でもこれは、2人の愛を育むための手助けみたいなものなんだから!
私はそう自分を戒め、テンションも上がり始める中で続ける。
「もちろんじゃない!大体世の中の恋人同士は皆電話で愛を囁きあってるもんなんだから!」
私は自信たっぷりに告げる。
『そ、そうなんだ・・・。』
「そうよ!目安としては、会話の途中に一回と電話を切る前に一回とかが一般的よ!」
『うんうん。』
「いい、美奈。これは恋人同士になった二人に課せられた義務よ。決して忘れちゃダメだからね!」
『うん。わかったよ!いつもありがとう!めぐみちゃん!私、頑張るよ!君島くんの・・・その・・・か、彼女として・・・。』
彼女と言うのが歯切れ悪い感じが初々しいことこの上ない。
「頑張れ。美奈。私はいつもあなたの味方。あ、あと、明日デートが決まったら、デートの時に気をつけることもあるから、明日も電話くれない!?」
『え?そうなの!?・・・うん、わかった!じゃあまた明日夜電話するね!』
「うん!じゃあ心配はしてないけど、いい知らせを待ってるからね!」
そう言って電話を切った。
「・・・。」
私は暫く明日の電話越しの2人を思い浮かべて悶絶してしまった。
せめて練習とか言って美奈の好きってセリフくらい聞いとくんだったな!
「・・・全部聞きたい・・・!」
何だか完全に面白がっている自分もいるけれど、多分お互い幸せな気持ちになるのは間違いないのだから、慈善活動なのだ!
そんなことを考えながら、ちょっと前まで好きだった人の彼女の応援をすることに胸が痛まない自分は、ひょっとして冷たい人間なのだろうかなんてことも思わないでもなかった。




