頼もしい仲間
さきは、茨城県土浦市のウィークりーマンションにいる。半年間の研修の打診を受けてあっという間に進んでしまった。両親は心配していたが、何処に居るかわかっているのだからと気持ちよく送り出してくれた。月に一回は帰ってきて欲しいと言われたが、さきは、半年間自立してみようと思っていたので断った。「忙しいかもしれないけれど、お母さん達が泊まりに来て下さい。静かな所ですよ」
「うん気分転換にはなるだろうね」「わかったわ、でもさきがいないんじゃあ遠藤さんも絵理子さんも遊びに来てはくれないわね。それも淋しいわぁ」「仕方ないだろう?子ばなれ出来ない親と言われたくないだろう?」「あなたはそれで割りきってるんですか?」「格好いい父親で居たいからな❗ではそろそろ帰ろう。電車の時間もあるからな」二人はやっとの思いで腰をあげる「じゃあ気を付けてねお父さん お母さん」「あなたも気をつけるのよ❗さき」「ハイ。毎日は無理でも出来るだけ連絡はします」
そう言って両親を見送った
(明日はこの廻りを歩いてみようかな)
夕方七時にもなると人通りが少なく感じる、賑やかな横浜の自宅周辺に比べればである。
両親が揃っている間に隣の住人とも顔を会わせた、同じ様に県庁の出張所に勤務する者も居て、馴染みが増えて心強いところだ
「さてと夕食は何を作ろうか?」独り言を呟きながら冷蔵庫を覗く。月曜日は、昼をメンバーで取るから作ってこないでねと引き継ぎの日に言われていたので、火曜日以降のおかずを兼ねて作り置きする予定だ。料理は横浜でもしていたが独り分の量がなかなか分かりつらい。五、六品作ってラップで包む。米は2日分の量を炊いて、ラップに包む。玉子は毎日焼くか茹でるかするとしてなんとか今週分は準備できた。夕食は摘まみながら充分お腹も膨れた
引っ越しの疲れもあり、風呂に入って休む事にした
翌朝6時、いつもの通り目が覚めた「さあて、お散歩でもしてこうか」トーストを二枚とコーヒーで朝食を済ませ、七分丈のジャージで町へ出た
(知り合いが居ない状況は、初めてではない、6才のさきのはじめの記憶は施設の門前で目覚めた事だった。今でも思い出すと背筋がゾクッとして怖い。)
自分の事も思い出せず両親の事もいまだに思い出せない。縁あって引き取られた家が母の実家だと判明したのが一月ほど前である。戸籍は今迄のまま、孫なのだがそのまま養女にしてある
「正式に戸籍を直すには色々手間がかかる。その手間の間に両親の行方が分かると良いのだが」「鑑定結果も出たし、分かっているのに時間がかかるのが焦らされている気分になりますね」「さきは、どんなにか安心したであろうか自分のルーツが少なくとも半分はわかったのだから」「ええ、でも、沙依子は行方不明のままです。さきの父親である西寺紀夫さんも一体何処の誰だかわからないままです」沙依子の父母、そしてさきの血の繋がった祖父母は、娘夫婦の行方が心配である。手懸かりがあったのだが新しい情報は殆ど無いのだ。(国内には居ないと言うことか?)宏は出来るだけ冷静に考える。最悪の事も考えている。口にすれば妻、万里子が烈火のごとく怒り、泣くやも知れない。だが、生きている確率は低いとも思っている。諦めているわけではない。あくまでも確率の話である。「西寺紀夫さんかぁ…。興信所を使っても限られているからね。今まで待ったんだ。まだ待てるよ。」「私達も若くはありませんから、出来ることなら早くわかると良いんですが❗」沙依子の行方を案じて20年になる。夫と共に起業した会社は順調に業績を上げているが娘の事がずっと気掛かりだった。
さきのマンションから戻った翌日、清水夫妻は朝からゆっくりした時間を過ごしていた。そこへ呼鈴が鳴った「旦那様、奥様、佐々木様がお越しになりました」執事の高橋がリビングで過ごしている主人に声を掛けた「佐々木さん?」「絵理子さんかしら?」「いえ、お父様のようです」「おぉ、佐々木武男さんだね?」「ハイ。こちらへお通ししてよろしいですか?」「お願いします」
暫くして、佐々木はリビングに顔を出した「こんにちは。佐々木です、ごしゅじんとは初めてお目にかかるります」「初めまして、清水です。この度は、さきがお世話になりまして、娘の沙依子もお世話になったそうで、重ね重ね有り難うございます」「いいえ、さえ子さんにお世話になったのはうちの方です小さい頃の子供たちをさえ子さんがまとめて面倒をみてくれたんです。さえ子さんのご主人もとても面倒みの良い方でした。今日はその件で伺ったのですが、急にお邪魔することになったものですから、こちらのご都合はよろしいですか?」「ええ、日曜日ですし、特に用はありません、ゆっくりおはなしを伺いたいですね」「電話では何度かお話ししましたが、ずいぶんと立派なお屋敷ですね、表札を何度も確認しましたよ」「そんなに立派なつもりは無かったのですが」「さすがに企業のトップともなると世間が黙っていないでしょうから。大変ですな」「表はそんなに目立たないように作ってもらったんですよ」「実はこの辺は初めてなので道に迷いまして裏側をしっかり確認しました」「この辺はくねくねしていますからねぇ…」「横浜方面でもこの辺は住宅街ですから捜査で訪ねることもありませんでしたからいやぁ参りました」
「刑事さんだったんですものね。」「ええ。そろそろ本題に入ろうと思います」「ハイ。よろしくお願いします」「私は西寺さんの元の職場の同僚だった方と会ってきました。仕事に真面目でトラブルもなく本当に姿を消したのが何故なのか?事件に巻き込まれたとしか思えないと知る人みんなが話していたそうです」「そうですか…」「あの時もさきちゃんの6才の誕生日を祝った後日、家族揃って実家に挨拶に行くと嬉しそうに話していたそうです、西寺さんの実家はどこか聞いてないらしいんですが、お姉さんが茨城県にいるので会いに行くと言ってたらしいんです」「そのようですね、今研修で茨城の土浦市へ半年間行っています」「土浦へ?」「ええ、時間があったら住所の宛名を捜すようです。」「独りで危険じゃないですか?」「ええそう思ったんですが、えり子さんと一緒の時と固く約束しています。見知らぬ土地で何かあったら大変ですから…。お嬢さんにはご迷惑をお掛けして申し訳なく思っています」「いやぁ、絵理子も張り切っていますよ。お役に立てるなら良かったですよ」「助かりますわ」
「過保護とお笑い下さい。実の娘に家出されてから、不安で仕方が無いのです」「分かります。実際、子供の行方がのわからない親御さんを沢山見てきましたから。心配して当然ですよ」「家出にしろ、蒸発にしろ親の心配は同じです。それだけ、娘に哀しい想いをさせていたのだと気付きませんでしたから。反省しか有りません。さきは、私達親の気持ちを考えて複雑のようです」「自分を残して何処かへ行ってしまった親ですからね。恨み言のひとつもあるでしょうに」「そんな風に育ててしまったのがこの私達なので気を使っているようですわ」「成る程ね❗実は今日伺ったのはさきちゃんがなぜ独り横浜に置いていかれたのかってことで全く違う話があるんです」「なんですの?」「かなりキツい話です」「キツい?どういうことです?」「実は…。20年前のあの日西寺さんは買ったばかりの車でさきちゃんと沙依子さんとでさきちゃんの6才の誕生日祝って、茨城のお姉さんを訪ねる予定だったようです」「えっ初耳です」「ええ、さえこさんの日記帳に挟んであった手紙、宛名は大家さんの細谷美代子さんだったんですが、渡せずじまいだったようです」「沙依子から預かった日記があったんですか?」「預かったと言うか交換日記的なものですが、独り暮らしだった大家さんの買い物を頼んだりお互いの近況を書いてありました。書くことでボケ防止になるからって沙依子さんが言い出したそうですよ。大家のお婆さんは話していました」「それで、手紙は?」「ああ失礼。沙依子さん達が出掛ける寸前に大家さんが留守だったらしくいつもの通り新聞受けに差し込まれていたそうです」「交換日記…ですか、どんなことが書かれているんですか?」「日常的なことが殆どでしたよ。さきちゃんの事も書いてありました。今日お持ちする予定だったんですが細谷さんが入院されて、会えなかったんです」「入院?何処がお悪いんですか?」「娘さんも出張中で留守の時だったんでバタバタしていたので日記帳の事が言い出せなくて済みません」「いいえ、当然ですよ。いわなくてよかったですよ、お見舞いに行きましょう?あなた」「ああそうだね。でも私達が駆け付けて良いものかね。失礼にならないかタイミングを見なくては。」「今日、娘さんからうちに連絡が来ることになっているので私から明日にでもご連絡します」「お手数をお掛けします」「一緒に行けたら良いですけどねぇ」「沙依子との交換日記は出掛けることを書いてあったんですか」「ええ。日記には双方の家族に自分の家族をやっと紹介出来ると書いてあるそうです」「手紙には詳しく、さきの6才の誕生日を迎えて先ず西寺さんのお姉さんに挨拶して、その次の休みに横浜の実家へ訪ねる予定ですって書いてあったようです」「まぁ沙依子はそんなことを…どうしてこんなことになったんでしょうか」「少なくとも自宅からお姉さんの住所迄の途中で事件か事故に巻き込まれたと考えられます。その頃の事件調書を調べ直します。友人や絵理子にも協力してもらって何か分かる可能性もありますからね」「宜しくお願いします」
「それから考えるとさきちゃんが横浜で保護されたのも偶然かもしれません」「偶然ですか?」「さきちゃんだけ連れ去られたか預けられたか…」「そんな…」言葉を失う万里子を支えながら「あり得る」と一言宏が頷いた子煩悩な父親がいてさき独りが置いていかれる筈はない「事件に巻き込まれた可能性が高いでしょうか?」宏は佐々木に尋ねる「可能性はあります、その件も合わせて知人に調べさせています」「分かるのが怖い気もします」「ええ…。何だか怖いですわ」「旦那様、さきさんからお電話です」「さきから、私が先に出ますわ」万里子が受話器を受け取ってさきと話始めた「さき、元気?此方は変わり無く過ごしているわ。吉田さんがもっとあなたに料理を教えたいって張り切ってるわよ」「後四ヶ月もあるのに…。」「お仕事は順調?」「ハイ。皆さん親切な方ですから」「そう楽しくお仕事出来るなら良かったわ」「ハイ。お父さんも忙しいんでしょう?今度の週末は絵理子さんと保さんとで食事会でしょうかなと思っているんです」「そう。私達も今週は動けないと思うわ」「ではそうします。じゃあ来週ね❗お休み」「お休みなさい」万里子が電話を切り「週末は絵理子さん達と会って食事するようです」「そうか、それも良い機会だ。我々も子離れしないとな‼」と苦笑する宏。「うちの娘も一緒なんですね?」「ええ本当に出会えて良かったですわ、あのとき絵理子さんがさきを呼び止めなかったら今の状況は有りませんから恩人です」「そんな大袈裟ですよ」武男が苦笑する「いや、事実ですさきと絵理子さん達があの日すれ違っていなければ今は有りませんよ。沙依子の事も少しわかってきたのもそのおかげなんです」宏は大真面目に話す「記憶が無くても良い付き合いの出来る友人になれて良かったですよ」武男が微笑む「ええ本当に、きっと運命なんですわ。再び出会って友達になれるんですから」「絵理子さんと保さんは一緒になるんだろうに」「それがそうでもないんですよ。難しいですな、縁と言うのは」「あんなに仲が良くて結婚しない理由は何ですか?」「難しい女心ですよ。でもきっとあのお二人は一緒になりますよ。保さんが絵理子さん以外眼中に有りませんもの」「そう思われますか?私達もそう思っていたのですが二人から断られてしまいました。余計な世話を焼いたようです」「時間はもう少しかかるでしょうねぇ…さきも絵理子さんを刺激しているようですから」「さきちゃんが?」「まぁ任せておきましょう。佐々木さんもそっと見守ってやってください」「はい絵理子には保くんに任せるつもりで居ますから上手くいくならそっとしておきます」「何か作戦でもあるのかい?」不思議そうに見つめる宏ににこりと微笑んで万里子は「母親の、いえ女の勘です」「勘って…。」心配そうな宏に武男が苦笑する「大丈夫ですよ。うちの家内もそんなことを言っていました。どこにも根拠は無いのに自信はあるようなんです。不思議ですね」父親にはない何らかの勘が働くようだ
その週末、さきと絵理子、保はさきのマンション近くの居酒屋で翌日の予定を立てている「どの方面へ行ってみる?」ワクワク顔の保に「ふたてに別れるか?」と素っ気ない絵理子「三人だもの一緒に回れば良いんじゃない?ふたてに別れる必要は無いでしょう?」さきは、「不思議そうに絵理子を見る「それが三人じゃないんだなぁ」と絵理子が答える「えっとどういう事かしら?」さきは、先程から何故か不機嫌な絵理子の様子が気になっていたがどうやら部外者が参加するらしい「でも見知らぬ人を巻き込むのはどうなの?一言言ってくれても良さそうなのに」保と自分の温度差を感じた気がしてスゥーと冷やかな空気が流れた
「そろそろ顔を出す頃だな」呟いた保の声を聞いていたかの様に入口のドアががらがらと音を立てた「保さん、何処かへ行く予定があったのなら私は独りで構いませんけど…。」さきがそう告げた所へ「やっと着いた…。」と言って保の横の席に腰を降ろした「どうしてあなたが?」唖然とするさきの横で「驚いた?」と絵理子が笑う「絵理子さんも知っていたの?」「うん。つい話しちゃいそうで難しい顔してた」ニコニコ笑顔でさきを見る「呆れた…。」「ゴメンね勝手な事して、彼は学生時代によくこの辺を歩き廻っていたって言うから道案内に同行をお願いしたんだ」「道案内?でもどうして足立さんが二人と知り合いなの?」「さきちゃんの家に行くときにバッタリあったでしょう?そして先月、足立さんと僕が駅前でバッタリ会ったんだ」「駅前って…。」「僕は個人的に静かな街の隠れ家を探していたんだ。そこで遠藤君にバッタリ会ったんだよ。お互い固まったよ」と笑う足立「で、その時一緒に居たのよ。私も」「…、時々三人でご飯食べたり、飲んだりしてるわけ。今回さきちゃんのところに行くって言ったら自分も行きたいって言い出してさ」「知らない人でもないから良いかなって、さきには悪いけれど連れてきた」「事情は話してないよ‼勝手に話す訳にはいかないし、六歳までの幼馴染みだから記憶は定かじゃないって位、後、20年振りに再会したって言ってある」足立が席を立った時に保が声をかけた「そうね。気を使ってくれて有り難う。」「足立さんは余計な詮索はしない人だって思っているのでオイオイ考えます」
「何を考えるの?」席に戻ってきた足立は淡々と注文を入れてビールを飲む「ちょっとあんた車は?」ふと思い出した絵理子が足立に向かって叫んだ「ホテルの駐車場に置いてきましたよ。ご心配無く」足立は淡々と答ながらビールを飲み干す「おかわりお願いしまーす」間に入る様に保が割り込む「私はさきの部屋に泊まるよ」「はい準備してありますよ❗あっお代わり来たよ。足立さん、お姉さん私もお願いします」「飲みすぎないでね。道案内なんだから」「運転は保か私ね」「運転なら私も免許持っていますよ?」「免許持ってるの?」絵理子と足立が驚いて見せた「酷い。保さんを迎えに行ったじゃない」「うん僕は知ってるよ」「なら言いなさいよ」絵理子が保を小突く「だって運転したらキョロキョロ危ないじゃない?探すのに集中するべきでしょう?」「全く保ってば」「ん?」「そうね。運転はお任せします。皆さん宜しくお願いします」さきは三人に恭しく頭を下げた「任せて、どの辺を廻りたいの?」足立は素直に尋ねた
「探している地名は市町村合併の時に変わってしまったらしいわ、それで今は…。土浦市の阿見町ってところらしいわ」「僕がしってるかもよ。研究してたんだ。以前の地名と今の地名…。」「物好きね。人が興味を持ちそうも無いことを調べるなんて。」「人それぞれだよ。絵理子」「保は興味あるの?」「自分に関係する事ならね。」「でも名前があったってことは何か起こって名前が付いたのよ?意味を調べるのは大事なことじゃないかしら?記録が残っているのか、これから残すのか。」「自分の生涯学習のテーマなんだ。学生時代に論文を書いたけど中途半端でさ。」「それって結婚しても止めない研究て事だよねぇ。奥さんになるひとは理解力が必要だねぇ」「趣味は色々あるんだし。良いじゃないか」保はどうやら足立の味方らしい「そうよ❗彼の趣味に私達があれこれ注文をつけるわけにはいかないし、それにねいい気分転換になるの。見知らぬ町を歩くって…。」さきも実際に町巡りをした1人である「結婚するとも限らないし」足立が呟いた
「結婚しないつもり?」絵理子が突っ込む「相手が居ないから」さらりと足立が答える「縁はわからないわよ?。これから出会うかもしれないでしょう?」さきは、これからの事は誰にも分からないと実感した当人だ「僕の事はほおって置いて下さい」この件が長引くのが面倒な足立である「さきちゃんは他人の事言えないでしょう?」保は笑って答える「エー駄目?もう私は、結婚を考えますよ❗」「良いなぁ…幼馴染みってこんな突っ込んだ会話が出来るんだね」「…、まあね。足立さんにだって幼馴染み位。いるでしょう?」「僕には居ない。友人と呼べる人も僅かだよ」「色々残念な人ねぇ。仕方ない。仲間にいれてやるわよ」「絵理子が随分と偉そうだよ。さきちゃん」「本当にねぇ…でも絵理子さんて実は物凄く優しくて面倒見が良いのよ」「実はって何よ。そんなことないわよ。あ、おだてても奢らないわよ。給料日前なんだから…、」「そんなこと考えてないわ❗一緒にいるのが楽しければ、幼馴染みじゃなくても良いって事よ。足立さん」「うん。これからも宜しくね」
「まだ何か言いたそうだね?」「…」「なぁに?この際、言ってみれば」「あのゥ、無理にとは言わないけれど、その…」「もうじれったいなぁ❗はっきりしなよ‼」「名前で呼ばれたいなぁ」足立の口から遠慮がちに出た言葉に「はぁ?」他の三人が揃って声をあげた「無理にとは…」遠慮がちにの足立は声が小さくなる「私は良いよ。でも、呼び捨てになるよ。とーる」と絵理子「僕には年上の人を呼び捨てなんて無理。」と保「私はさん付けで良ければOK です」さきも続けて応える「じゃあ、僕も透さんで良いですか?」「よ、宜しく。」
「ところでさ、私達に名前で呼ばれたいと言うことは透もそれぞれなんて呼ぶのよ?」「えっそこは考えてなかった」「子供か?」絵理子の突っ込みにたじたじしながら足立はニコニコ笑顔である「うーん希望ある?」「私は呼び捨てで良いよ。」「僕も保で良いです」「私は、仕事の関係もあるので清水でも良いですし、さきでも良いです」「僕は、皆を名前で呼ぶ事にするよ」「じゃあ呼んでみて」「えっ?いきなり…」「今呼ばないとずっと呼べないよ。透」「ほら、頑張って!」さきも応援している「えっとー絵理子、保、さき…。」「いぇーい」ハイタッチをするために両手を伸ばした絵理子に「何?」と戸惑う足立「良くできました的な…。ヤツだねぇ」保が一緒に手を合わせる「さきもほら、」絵理子が伸ばした両手にさきも合わせる「透さんもほら、」さきに声を掛けられポカンとしていた足立が慌てて両手を伸ばした
「透は本当に友達いないのね?」絵理子が訊いた「何、失礼な事言ってるんだよ。絵理子」保が叱る「こんな愉しい友達はいないなぁ…」笑いながら足立が答えた「馬鹿にしてる?」「逆だよ。僕の周りは個人主義な人が多いからさ。嬉しいんだ」と呟く足立「変なの…」絵理子が肩をすくめた「愉しいなら良かったわ」さきも優しく笑顔である「乾杯しよう」少々呆れ気味の保の掛け声で四人はジョッキを掲げ乾杯した
「愉しい。こんな気分初めてだ」少々はしゃぎすぎの足立である「どんな暗い人生を過ごしてきたわけ?」絵理子が突っ込む「そうだね。長いけれど聴く?」
「遅くなるなら次にして。明日は7時出発よ。ちゃんと起きられる?」「僕が起こすよ。同じ部屋だし…」「同室なの?」「うん安いし、話もできるし良いかなって❗」「お互い、イビキとか煩くないと良いけど?」「この間、うちに泊めたけど静かだったよ」「家に泊めた?」「うん友達だもの。終電に間に合わなかったら困ると思って泊まってもらったんだ」「さすが遠藤医院。」絵理子はあきれ顔である
「透さんは間に合うからって一度は断たんだけど、友達の家に泊まるのも良いもんだよって引き留めた」「揃って、面倒見が良いのね。保さんも」さきは、ニコニコしている。
「まあ、友達はほおっておけないでしょ」と絵理子
「そうね、私もそうすると思う」さきは、頷いた
翌日、七時前にさきと絵理子を拾い、保が運転、ナビを足立が務め阿見町へと向かった。勿論、景色を楽しみながらである。所々テーマパークや動物園、ショッピングセンター等もスルーして目的地へと真っ直ぐ進む。途中で小腹が空いたのでさきと絵理子の準備してきたお握りを頬張る
「段々車が少なくなってきたね。心なしか道も狭くなった。一挙に緑が増えた」「その内、畑ばかりになるんじゃない?」「まぁ近い状況だね」「人口も少ないの?」「農村部だからね。でも一部が土浦市に合併されているからド田舎って訳でもないんだ」「そうなの…。」
「ところで探している人って?」足立が尋ねる「佐藤澄子て方よ」さきが応えた「どんな関係?て聞いて良いのかな?」遠慮がちに足立が訊いた「うん、詳しくは話せないけれど、伯母に当たるの」「伯母さんなの?。一度も会ったことがないって言ってたよね?」
昨夜、四人で食事をしているときに今日探している人は一度も会ったことがないと話したのだ
「まぁ、人には色々家庭の事情があるからね。あくまでも人探しが目的で事情を考えるの必要は無いだろう?」「まぁね。僕も触れられたくない家族があるから。理解できるよ」「ありがとう透さん、保さんも」「私は?」「勿論、絵里たんもよ❗」「…」「えっ何?」「今、絵里たんって」「ん?そう?」「無意識…だったんだ」絵理子と保がほぼ同時に呟いた
「そろそろこの辺から阿見町だよ、何丁目?」「昔の地番だから丁目とかは不明だわ、そうか調べてくれば良かったわ」高学歴な四人が揃っていても抜かりはあるものなのだ「うっかりしてたな」「ちょっと降りて聞いてみる。適当な古い店先で停めて❗」絵理子は保に指示した「ハイよ。そこの店先は年季が入ってそうだよ。絵里」「わかったちょっと行ってみる」行動力のある絵理子が素早く車を降りた「私も」さきが追いかけるのを「独りで良いから」「でも…」「さきちゃん、ここは絵理子に任せておきなよ」保の言葉にさきは、動きを止めた
5分位して絵理子は戻ってきた「どうだった?」「地番は変わって20年位になるから詳しく分からないらしい。名前を聞いてみたけどこの辺、佐藤さんは沢山いるから何処のおばさんが澄子さんか分からないって」「デイケアに行ってればデイケアの会社で確認出来るだろうけど、個人情報だから教えて貰うのは難しいな」と保
「年齢は分からないの?」「全く分からないわ多分50代から60代です」「年齢幅がもう少しせまばれば…でも会ったことがないんじゃあ仕方ないなぁ…」足立が考え込む「ちょっと当たってみたい事がある」絵理子は携帯のメールで誰かと連絡を取り合っている「今日はここまでかぁ…それとも他の町を回ってみるか?」保は発進して適当に流れに沿って走り続けた簡単に見つけられる筈がないと分かっていても車内は少しだけ気落ちした雰囲気になった
「お昼食べようよ!私、お腹空いた」携帯とにらめっこしていた絵理子は開口一番空腹を訴えた「お握りを食べたからそんなにすいてないけれどでもランチタイムのピークは過ぎてるだろうな。行こうか?何を食べたい?」「和食?中華?洋食?」「私はこだわりないから合わせます。お店を調べておけば良かったわね」「タクシーが停まっている店舗は結構評判が良いと訊いたことがあるよ」「捜そう。えーっとタクシーが停まっている所…タクシー」足立がブツブツ呟きながら町並みを観ている「あっそこは?」「えーっと…さきちゃん、急に言われても止まれない」保が呟く「バカね。ちゃんと反対側を指してるでしょ?Uターンするのよ」絵理子が呆れる「あーそう言う事ね」「ゴメン。反対側の車道だって言わなかったわね」「どっかでUターンしてその他お店に入ろう」足立の声で保はコンビニに入り方向転換してさきの見つけた店に入った
「さすがにピークを過ぎたから客もまばらね」絵理子は6人掛けのテーブルを陣取って既にメニューを開いている
「何を食べよっかなぁ~」「絵理子は楽しそうだな」「うん?まあね。こんなふうに友達と出掛けるとか社会人になってからはそうそう無いからねぇ」「確かに」オーダーを請けに来た若い女性は明るく爽やかな印象だ「いらっしゃいませ。ご注文はお決まりですか?」「私は天ぷらうどんセット、さきはどうする?」「同じで…」さきは、メニューを見もせず答えると「何言ってるのよ、別メニュー頼んで半分っこするのよ!」絵理子が途中で口を挟む「えーっと僕は焼き肉定食で」保が横から割り込む「私は…松花堂弁当をお願いします」「では僕はしょうが焼き定食にします」足立もやっと注文を終えた「ありがとうございます。」店員はニコニコ笑顔で注文を繰り返し厨房へ戻って行った。
10分の間に四人の注文した料理が届き早速箸をつけるのだが小鉢を貰った絵理子はさきへうどんと海老天を分けた「私のは好きなものを分けて良いわよ❗」さきは、絵理子に料理を選ばせる「うん。この小鉢を貰う」「茶碗蒸しは?」「えっ良いよ」「この間、おばさまが茶碗蒸しが好物だって仰ってたわ」「でもひとつしか無いじゃない?」絵理子が焦っていると「絵理子君でも遠慮するんだ?」と足立「そうだね。意外と律儀な性格なんだよ」ふっと保が笑う「意外とは何よ。」頬を膨らませて抗議する絵理子をよそに「茶碗蒸しをあと3個お願いします」と足立が手をあげて店員に頼んだ「これで解決ですね」さきは、ニコニコして箸を手に取ったその後も少し賑やかな会話を続けながら昼食は済んだ、会計をする段階でも茶碗蒸しを払う事で言い合いになったがさきが自分に付き合って貰ったと言う言い分を通して支払いを済ませた
「ご馳走さまでした。騒がしくて済みませんでした」さきが最初に店を出た「仲が宜しくて良いことですね、ダブルデートですか?賑やかで良かったです。騒がしいなんて思いませんよ❗」「デート?」絵理子がぎょっとしている。「そう見えるんだね?」足立は嬉しそうだ「違うんですよ」最後に支払いを済ませた保も楽しそうである「では学生時代のお友達同志ですか?仲が良くて羨ましいです」店員に言われた事は一つも当たっていないが愉しいのは本当だった
「デート?て事は誰と誰がペアなのかなぁ」足立は相変わらずニコニコ笑顔である「気持ち悪いなぁニヤついてる」絵理子はそっポをむいている「こら絵理子、さっきから失礼だぞ」保に注意されて「ゴメン」と素直に謝る「良いよ。こんなに愉しい食事初めてだからニヤついたんだ」「透さんも怒るとこなのに」「絵理子くんが言った気持ち悪いはにやけすぎた僕をからかっただけだよ。そんなに怒らなくて良いと思う」「わかってるじゃない❗とーる。保は風紀委員かっての」不満げな絵理子である「調子に乗らない」相変わらず保は難しい顔だ「あれっどうしたの?保さん怒ってる」さきは、心配そうに三人の所に寄ってきた「大丈夫、気にしなくて良いから」絵理子が苦笑い「透さんどうしたの?」「大丈夫だと思うよ」「本当に?アイス食べる?」さきが一番に会計を済ませたのは店員が近くに美味しいアイスがあると教えてくれたからだ
「珍しく一番に出て行くと思ったら」絵理子はビニール袋に入ったアイスを選び始める「みんな同じバニラよ」
さきが声を描けた「そうなの?」ひとつづつ取り出して「ほら、保、とーる、さき、溶ける前に食べようよ!」最後に自分の分を取り出して食べ始める「美味しい~さき、当たりだ」「本当?良かった❗さぁ食べましょう」「食事をして直ぐ入るの?」足立が素直な質問を呟く「やーねぇ別腹って言葉があるでしょ、それよ」女性陣の言葉に納得したのかアイスを食べ始める「本当に美味しい。牛乳が濃いのかな?」「確かに濃口って感じする。甘過ぎなくて良いね」暫く四人は車の側のベンチで腰掛けて黙々と食べる「美味しいけれど溶けるから大慌てだ」足立が呟く「大きいサイズにしなくて良かった。溶けやすい事は想定外だったわ」さきが笑う「さき、ご馳走さま」一番に食べ終わった絵理子はてを洗ってくると食事を取った店に入っていった「図々しくないのか?」保が呆れる傍から「経営者は一緒だって。だから許容範囲でしょ」さきが答える「そうなの?」足立も安心したようだ「戻ってきた」「ほら、手拭き濡らして来たよ」そう言ってタオルをビニールから取り出した「気が利くね。良いお嫁さんになれるかもよ?」「そこは疑問文にしないで欲しいところだわね」足立と絵理子の会話は軽妙に続く。お互い軽いジャブの応酬にも見えるが
「保さんどうしたの?疲れた?」保はさきの心配顔に苦笑いしていた「僕は愚かだ。意気地無しで、考えが浅くて」「保さん…」楽しい会話をしている、絵理子と足立が気になるらしい「保さんも割って入れば良いじゃない?」「うんでも絵理子も楽しそうでさ、可笑しいよね?二人とも軽口言い合ってるだけなのに仲良しなんだ。三人で飲んでてもいつもふたりがぎゃーぎゃーやってる。置いてかれてる気がするよ」「しっかりしなさい。諦めたの?」「違うよ。違う…でも僕らは明らかに関係がかわって来てる」ぼそっと呟く保を励ます為にさきも絵理子たちの会話に割り込む。勿論保も絡んでである
「保くん、元気ないね。運転変わろうか?」「私が運転するわ」絵理子が名乗りを上げる「警察関係者だから安全運転だろうか、荒くない?」足立はいつになく饒舌である「失礼ねぇ。テレビドラマと一緒にしないでよ超がつく程安全運転に決まってるでしょ❗」ふんと鼻息の洗い絵理子がピースサインをする
「保っちゃん。昨夜、ちゃんと眠れた?」「うん」「とーるに気を使っているんじゃないの?」「違うよ。しっかり眠った。」「僕より先に眠っちゃったんだから」横から足立が口を挟む「帰りは私が運転するからナビはさきね。保は眠ってていいよ」楽しいやりとりは、夕方5時頃まで続いた「じゃあまた再来週ね。さき」絵理子は明るく手を振る「ええ待ってるわ。今日は本当にありがとう。透さん、保さん絵理子さん楽しかったわ」「僕もとても楽しかった。さき君のアドレスを手に入れられたのが一番かも」「それじゃあ今日の出来事は全否定じゃない❗」絵理子の突っ込みに「アハハ」と笑い飛ばす足立「帰りも賑やかそうだな」保が呟く「さあ帰るよ」運転席に足立が助手席には保が座る後部席から絵理子が「さき、独りでしらべに行くのは禁止だからね。分かってる?」「ハイハイ分かってます」3人は同じ方向に変えるので一台の車で帰るのだ「またね」さきは、淋しくも、頼もしい友人と過ごした時間が有意義と感じた