初デートかよ!?
更新遅れて申し訳ありません!!再編集部分です。
――二〇三三年四月十二日――
「まさかとは思ったけど、寝坊するなんて思わないじゃないか!!」
翌朝の十時前。
彩との約束の時間に盛大に寝坊した。
ネットゲーマーとは基本、昼夜逆転する。朝に弱くなるのは仕方がない。
だけど、初デートの日に寝坊するのは絶対に嫌だった。
あれだけ目覚ましのアラームをセットしておいて、起きられない自分が恥ずかしい!
家の施錠を確認し、猛ダッシュで駅の噴水前を目指して駆ける。
心の中は「彩が怒っていませんように!!」という祈りでいっぱいだ。
運動不足が祟り、息切れしながら到着した駅の噴水前で彩の姿を探す。
どうやらまだ来ていないようだ。
良かった。初デートの日に大遅刻を犯してしまわずに済んだぞ。
肩で息をしながら、額の汗を拭う。
その時、後ろから「秋枝君?」と鈴をふるわすような澄んだ声が聞こえた。
振り向くと彩がいつもの無表情で立っていた。だが、今日は何となく雰囲気が違う。俺を見て驚いている感情を抱いているのが解る。
彩は清楚な薄い青色のカーディガンに白色を基調に花柄がちりばめられた清楚なスカートを履いたとても上品な姿をしていた。肩から掛けたハンドバッグもピンク色で春らしい服装だ。
対して俺は寝坊して走って来たから汗だく。服装も一夜漬けの思いつきの服装。何て格好悪いんだ。
俯いていると、彩が駆け寄って来てはハンカチで額の汗を拭ってくれた。ハンカチから洗剤のいい匂いがする。
「あ、ありがとう。でも、ハンカチが汚れちゃった! 洗って返す!」
「いいわ。ハンカチは、汚れる物だから。それに秋枝君が、こうして私のために必死に来てくれたのが、嬉しいの」
彩は慈愛に満ちた言葉を発すると少し微笑んだ。
あの、真星彩が微笑んだ。
初めて見た。
彩は笑うと美人が更に際立つ女の子なんだな。
考えながら彩に汗を拭ってもらう。
しばらくすると、彩が汗を拭い終えてくれた。
彩はハンカチをしまって、改めて俺と向き合う。
「秋枝君、今日は来てくれて、ありがとう。私の買い物に付き合って欲しいの」
「い、いいけど、どんな買い物? 俺が役に立つかな?」
「秋枝君なら大丈夫。恥ずかしいけど……、私は秋枝君の彼女だから、勇気を出して買うわ」
何を買う気!?
内心突っ込んでは彩と一緒に駅構内に移動した。
○
公共交通機関である電車はここ数年で急激な進化を遂げた。駅の購買機で乗車券を購入すると自動的に電車の座席が指定されるようになった。
ICカードを使用する客には席通知機能が付加されており、改札口を通過する度にICカードに座席がどこか表示されるようになった。
この画期的割り振り機能により立ち客や、通勤ラッシュといった混雑が解消された。電車は今、ゆったり座って寛げる憩いの空間になっていた。
それも空想世界に存在するOSの発達による演算速度の急激な発達によってもたらされた恩恵だ。通常の計算速度の万倍以上の速度で構築されるネットワークシステムによって電車の座席を即座に割り振るOSの開発成功は今までの常識を塗りかえた。
俺と彩は一号車の窓側に向き合って座り話しをする。
「真星さんの買い物って、その、何かな? 俺、想像がつかなくてさ」
苦笑というか引きつった笑いをすると、彩は無表情のまま淡々と答えた。
「インターネットゲーム機よ。私、前々から、興味あったの。だけど、中々買う機会がなくて――。それにハードも沢山あるでしょ? よく解らない。だから、秋枝君に選んでもらいたいの」
彩の買い物目的を聞いて胸を撫で下ろす。
何だ、ネトゲのゲーム機か。それなら――。
「え!? 真星さんがネトゲするの!?」
「駄目かしら?」
「ううん、嬉しいよ! 大歓迎さ! 一から手取り足取り教えるよ!」
すると彩は俯き、頬を何故か紅潮させて恥じらう姿勢をみせた。
「手取り足取りなんて……。秋枝君は大胆ね。でも、覚悟は、しているわ。彼女になったのはそういうことだもの」
はて? 彩は何を喋っているのだろう?
ネトゲの手取り足取りは文字通り一から面倒を見るという意味だ。恥じらいもなにもないと思うけど――。
彩は急に俺の手を取って立ち上がる。
彩に引かれるがまま列車のトイレに入る。彩が内側から鍵を閉める。
列車内のトイレは綺麗に掃除されており、不潔感は一切ない。
そんな場所に彩に閉じ籠められるなんて一体なにがどうなってるんだ!?
彩は潤んだ瞳で俺を見るとボソリッと呟く。
「私は初めてだからよく解らない。でも、頑張るから――。一生懸命やるから」
そう言って彩は上着のカーディガンのボタンを一気に外す。
気が動転している間に彩は大きくもなく小さくもない膨らみを隠す、白い布地を露わにする。俺の右手を取ってはその膨らみに掌を押し付ける。
そこは確かに柔らかく、温かい未知の存在だった。少し動かせば形が変わり、掌サイズの膨らみは俺の意識を吹き飛ばすにはじゅうぶんな威力があった。
フニフニする胸の柔らかさを堪能している場合じゃない!
「ま、真星さん! 駄目だって! 俺はこんなこと望んでないよ!」
「だって、男の人はこういうのが好きだと、本で読んだわ。それに、ネトゲはこういう不埒なゲームなのでしょう?」
彩は盛大に勘違いをしている!
ネトゲを卑猥なゲームだと思っているんだ!
ここは誤解を解かなきゃ駄目だ!
「真星さん! 手を放して! 落ち着いて! ネトゲは卑猥な奴もあるけど、僕はそんなゲームをプレイしない! 健全なネットゲーマーだ!」
「じゃあ、私とはこういうことをしたくない。そうなの?」
「それは――」
クソッ!
理性と本能の戦いだ。
ここは「したくない!」と振り払うのが正解だが、本能が彩を欲している。意志を強く持て! ネットゲーマーの意地を見せろ!
彩の胸に押し付けられている腕を振り払っては、彩の肩に手を置き、向き合って話す。
「確かに、如何わしいコンテンツがあるのもネットゲームの世界だ。興味がないと言えば嘘になる。あぁ、僕だって気になるさ! だけど、今はお世話になる時期じゃない! 真星さん、解って欲しい! 僕は真星さんとまだそういう関係になる時じゃないと思っている!」
熱を入れて彩に伝わるように話す。
彩は大きな双眸をパチパチさせては、相変わらず何を考えてるかわからない無表情でいる。
次に彩は大きく頷いて喋る。
「秋枝君の気持ちは解ったわ。時期じゃないのも解った。私が急ぎ過ぎたのよ」
「解ってくれたんだ!」
「今日、二人で相談しながらコンテンツを買いましょう。ネットゲーム内でしたいのでしょう? 私は構わない。そういう性癖の人もいると本で読んだわ。私は秋枝君の彼女だから最後まで付き合ってみせるわ」
「全然伝わってねぇ! 寧ろ悪化している!」
「秋枝君はどんなジャンルが好み? 凌辱系? 触手系? 私はなんでも受け入れるわ」
「俺をどんな目で見てんの!? まだ、お世話になってないって言ったろ!」
「なるほど。秋枝君はお世話系が好きなのね。解ったわ。ちゃんと買いましょう。その後ゆっくり二人の愛を育てればいいわ。私、頑張る」
「何だよ、お世話系って!? あるの? そんなジャンルがあるの!?」
「秋枝君が意外と奥手でびっくりしたけど、ここは二人で歩みましょう。私の心は常に決めているわ」
「鋼の精神で来られても俺が迷惑なだけだぁ!」
どんなに絶叫しようが、彩のネトゲ=卑猥のイメージは言葉では払拭できそうになかった。
結局、目的地まで俺と彩はトイレを占拠していたちごっこ問答を繰り返すだけだった。