いきなりイベント発生かよ!?
修正パートです。お楽しみ頂けたなら幸いです。
晩の九時――。
自分の部屋でベッドに座って彩と帰り際に交換した電話を見ながら自分でも気持ち悪い笑みを浮かべる。
この俺が、本当に学校一の美女の真星彩と交際し始めたんだ。
夢じゃないよな?
右頬を抓ってみる。
「痛ててててて!!」
確かな痛みがある。
本当に現実世界で起こった出来事だと実感する。
生きていてよかった!
今、この世界の俺と彩の二人だけなら、窓を全開にして『彩、大好きだ~』と叫びたい衝動に駆られる。
だが、そんな行為ができる根性があるわけでもなく、唯、ニヤニヤと彩の電話番号を見つめるだけだった。
そんな時、いきなり両手で持ったスマホが振動する。
何だ!?
番号表示を見ると、彩からの電話だった。
ど、どうしよう!?
どうやって出ればいいのか!?
名前ってもう一回名乗ればいいのか!? 気の利く台詞を吐けばいいのか!? それとも「彩、素敵な声だね」とか甘い台詞から始めるべきなのか!?
パニック状態で部屋の中を走り回る事、数十秒。
腹を括って、通話ボタンを押す。
「はい、秋枝でしゅが!!」
緊張の余り噛んでしまった!
『秋枝君、こんばんは。あの、迷惑じゃなかったかしら? 私、異性と交際をするの初めてなの。秋枝君の声がどうしても聞きたくて』
「お、俺も真星さんの声、聞きたかった、です。夢、みたいだ」
『夢? どういう事かしら?』
「俺、真星さんと交際しているんだ。彼氏って奴になったんだと今、噛みしめてる」
『意識させないで頂戴。私だって緊張しているのよ。秋枝君の馬鹿』
「ご、ゴメン。ちょっと調子に乗っていたよ。明日は土曜日だね。真星さんは予定ある?」
『丁度、秋枝君に聞きたかったの。明日、秋枝君に予定はあるかしら? なかったら、ちょっと買い物に付き合って欲しいのだけど?』
カレンダーに視線を移す。
明日は四月十二日。
クラップとのオフ会がある日だ。
よく考えればクラップは俺の彼女候補と語っても差し支えない宣言をしていたな。
そんな奴を放っておいて、彩と交際を始めてしまった。
これは大丈夫なのか?
心に棘が刺さった感覚がある。
だが、見て見ぬ振りをして彩との話を続ける。
「大丈夫だ。明日は予定が一七時からあるけど、それまでなら彩に時間を割ける」
『良かったわ。なら、明日、十時に駅前、噴水前に集まりましょう。秋枝君にしか相談できないの。頼りにしているわ』
「任せてくれ! 真星さんの期待に沿えるよう頑張るよ!」
『私は幸せ者ね。じゃあ、明日。おやすみ、秋枝君』
「真星さん、おやすみ」
彩との通話を切る。
ドッと疲労感が押しよせてくる。彼女との電話ってこんなに疲れるのか?
肺に溜まった重い空気を吐き出し、ベッドの上に寝転んで頭を整理する。
すると、とんでもない現実に畏怖する。
「明日、十時に駅前、噴水前に集合」ということは「二人で初デート」ということだ。
付き合い始めて即、デートなんて展開が早くないですか!?
俺って服のレパートリーないよ!
挙句に一緒に歩く相手は鐙中高一の美女で知られている彩だ。無様な恰好で会えるわけがない!
ベッドから立ち上がってクローゼットを開く。
中に収納されていた全衣類を部屋にブチ撒けては慌てて衣装合わせを始める。
こんな時に妹がいれば相談できるけど、生憎、海外に行っているしなぁ!
恋歌にだけは知られたくないし、何とかするしかない!
日付が変わるまで一人ファッションショーが終わる事はなかった。