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9玉目!:小結、おごられる


「小結、この後時間ある?」


 放課後の時間、クラスメイトの萬寿(まんじゅ)が小結に話しかけてきた。


「特に用事はないが、何かあるのか」

「兄貴が、給料出たから飯おごるって言ってるんだ。小結も一緒にどうかと思って」


 萬寿の兄の大福は、現職の警察官だ。

 面倒見のいい性格をしていて、自分の後輩などによくご飯をおごったりしている。


 小結も昔から何度もご馳走になっているので、大福には頭が上がらない。


「分かった。そういうことなら付いていく」

「じゃあ兄貴に言っとくよ。そうだ、お前のところの天使たちも呼ぶか?」


 萬寿は良かれと思って提案したのだが、小結は思いっ切り嫌そうな顔をした。


「……あいつらが付いてくると、うどんかソバかで延々とモメるだろうし、大福さんに迷惑かけるからダメだ」

「そ、そうか、じゃあやめとこう……」


 心底うんざりしている様子の小結を見た萬寿は、大福への電話で「うどんとソバ以外でよろしく」とコッソリ伝えたりした。


 それから二人で待ち合わせ場所のコンビニにいくと、仕事終わりなのか、ラフな格好をした大福が駐車場で待っていた。


「おー、来たかお前らー」

「兄貴お疲れー」

「お疲れ様ッス、大福さん」


 大福はいじっていたスマホをポケットにしまうと、「こっちだ」と小結たちを案内する。


「兄貴、車で行かないの?」

「今から行くとこ、すぐ近くだし駐車場がないんだよな。だから、さっきのコンビニの隣にコインパーキングあったろ? あそこに停めとく」

「何て店なんスか?」

「小龍軒っていう中華料理屋だ。味もそれなりに良いが、なにより量があって安いんだんよなー。お前らも、腹一杯になるほうがいいだろ?」


 当然、とばかりに小結と萬寿は頷いた。

 年頃の男子高校生にとって、食事とはまず量なのだ。


「だろうな。さて、そこの角を曲がれば店だ」


 小龍軒は、大通りからひとつ細い路地に入ったところにある小ぢんまりとした店だ。店の壁は赤く塗られていて、見るからに中華という感じがする。


 細長い店造りになっているのか店内に入ると意外と奥行きがあって、テーブルがいくつかと、奥にはカウンター席があった。カウンター席には男がひとり座っていて、ラーメンをすすっていた。


 小結たちは手近なテーブル席に座り、大福がメニューを広げる。

 角が折れたり、ところどころセロテープで補修してあるメニューを、三人で囲んだ。


「好きなモン頼んでいいけど、頼み過ぎると食い切れない量が来るからな。考えて頼めよ」

「分かった」

「了解ッス」


 小結と萬寿がメニューをパラパラとめくりながら悩んでいると、店員がおしぼりとお冷やを持ってきてくれた。お冷やをテーブルに置きながら、小結たちに話しかけてくる。


「オニーサン、何頼むか悩んでるアルカ?」

「んー、いや、もう決めるところ……、ん?」


 聞き覚えのある声だ、と思った小結がメニューから顔を上げた。


「イチオシは醤油ラーメン、次にオススメは塩ラーメン、それでもダメなら味噌ラーメンにするがいいアルヨ。どれも美味しいネ」

「ラーメンばっかりじゃねぇか、このエセ中華が」


 そこにいたのは、ラーメン天使の(ジァン)(ユー)であった。何故ここにいるのだろう。


「アイヤー、ワタシの名前はエセ中華じゃないアルネ。オニーサン、記憶力が弱いアルカ?」

「あいにく、どうでもいいことはすぐに忘れる主義でね。それよりお前、どうしてここに?」

「見た通りアルヨー。ワタシ、ここで住み込みのバイトをしてるのネー」


 醤は、以前見たときと同じチャイナドレス風の服の上からエプロンを付けており、エプロンには大きな文字でこの店の名前が書かれている。

 手にはお盆と伝票を持っていて、注文を聞きにきたのだろうことは小結にも分かる。


「俺が聞きたいのは、どうしてバイトなんかしてるのかってことだ」

「さぬきとにはち子がオニーサンとこに住み着いてるみたいに、ワタシもこっちでの生活の拠点が必要ネ。で、どうせ住むなら美味しいラーメンが毎日食べられるとこにしたかったアルヨ。バイトは、タダでお世話になるのも申し訳ないからお店の手伝いしてるだけネ」


 なるほど、と小結も頷く。


「そうか。そういうところは、ウチのバカふたりにも見習わせたいところだな」



 ちなみに、その頃のさぬきとにはち子は。


「……んー、じゃあ、今度こそこっちだろ! ……ぎゃーっ!?」

「やった! またさぬきちゃんがババを引きました!」

「おかしいだろう! どうして七回連続でボクがババを引くんだ! またにはちーがズルッこしてるんじゃないだろうな!?」

「失礼な! そんなことしてませんわ!」


 ふたりでだらだらとババ抜きをしていた。楽しいのだろうか。



「で、お客サン。ご注文はどうするアルネ?」


 醤が営業スマイルを浮かべて訊ねてくる。

 大福がメニューを指差しながら注文をした。


「この、醤油ラーメンのCセットを。ラーメンは大盛りで」

「じゃあ俺は、塩ラーメンのBセット、ご飯大盛りで」


 大福に続いて萬寿も、ラーメンセットを注文する。

 小結は、再度メニューをじっと見つめた。


「……チャーハンと餃子、それとチンジャオロースで」

「かしこまりアルヨー」


 注文を取った醤が厨房に入っていくと、大福がニヤニヤしながら小結に話しかけてきた。下世話な話がしたい時の顔である。


「なんだ小結、今の子は知り合いなのか? ちょっと変わってるが、可愛らしい子じゃないか。高校の後輩か? ん?」

「そーゆーんじゃないッスよ、大福さん」

「というか今の、もしかしてさぬきちゃんたちの知り合いでもあるのか……? ラーメンが好きなら、ラーメン天使?」

「萬寿お前、天使みたいに可愛らしいとか、なかなか言うようになったじゃないの! うはは、兄ちゃん嬉しいぞ!」

「違うよ兄貴、ええっと、なんて説明したものか」


 萬寿が大福にいじられている間、小結は、今後大福に誘われるときは注意しないといけないな、と真剣に悩んだ。


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