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7玉め!:小結、風呂場ではち会う


「コムちゃーん、お風呂場にバスタオルを持っていってあげてー。洗濯物畳んだあとそのままにしちゃってるのよ」


 自宅に帰り、太陽も沈んだころ。

 キッチンから聞こえてくる母の声に、小結はしぶしぶ頷いた。

 遊んでいたゲームをポーズ画面にし、立ち上がる。


「バスタオルだけでいいのか?」

「うん、お願いねー」


 畳まれた洗濯物の山からバスタオルを取ると、風呂場へ向かう。

 風呂場へ繋がる洗面所のドアをガチャリと開けたところで。


「ふんふふーん、…………えっ?」

「ん?」


 パンツ一枚姿のにはち子がいた。

 にはち子は、今まさにそのパンツを脱ごうとしていたらしく、小結を見てそのまま固まっている。めちゃくちゃ驚いた顔で口だけはパクパク動いているが、言葉にならないようだ。


「……固まってないで前隠せよ」

「っ!!? ……っ!!」


 小結に言われて慌ててその場にうずくまる。

 小さくなって両腕で身体を隠した。


 もっとも、大事なところ以外は全然隠し切れていないのだが。

 小結はとりあえず、持ってきたバスタオルを棚に置いた。


「なるほど、お前らが先に風呂入ってたからこれ持ってけって言ってたのか」


 母さんも頼むタイミングが悪いな、と小結は思う。


「み、み、見ました……!?」

「あん? ……上は全部見えてたぞ。意外と胸デカいのな」


 にはち子は、可哀想なくらい顔が真っ赤になっている。半分涙目というか、今にも泣き出しそうだ。

 小結も、今のはさすがに余計な一言だったなと思ったので、黙って洗面所から出ようとした。


「ちょっとにはちー、髪を洗いっこするんだろ。早く入ってきておくれよ!」


 すると風呂場のドアが勢いよく開き、風呂場の中にいたさぬきが姿を現した。

 お風呂に入るわけだからもちろん全裸だ。泡も湯気もなく、全身丸見えであった。


「お前な……」

「って、うわわっ!? 何してるのさ小結クン!?」


 小結がいるのを見て、さぬきは慌ててドアを半分閉めて身体を隠した。

 顔だけのぞかせてから小結をなじる。


「いくらボクみたいな美少女の裸を見たくなったからってそんな直接的にノゾキに来られても困るってものだよ! あ、でも、キミがおうどん派閥に入ってくれるってんなら、このことを許してあげても――」


 小結は。


「……ハッ、まな板のくせにナメたこと言ってんじゃねーぞ」

「!?」


 それだけ言い残して洗面所から出ていったのであった。





 さらに夜。

 夕食も終わり、翌日もパートがある小結の母が早めに寝室に入ったあと。

 小結たちはリビングで格闘ゲーム(名作と名高いキン鉄'15だ)を遊んでいた。


「くっ……この……!」

「……おっと、いただき」


 さぬきの一瞬の隙をついて小結の必殺コンボが入った。

 このゲームの性質上、このコンボから脱出することはできず、さぬきのキャラはコンボが終わるまで一方的にタコ殴りである。


「あ、あ、あー!?」


 そしてコンボが終わるころには、ズタズタにされたさぬきのキャラは体力が尽きていた。

 勝負あり。これで小結の十八連勝である。


「な、なんだい今のコンボは!! 完全にハメだろう!!」

「たりめーだろ。ハメ技とバグ技の多才さこそ、このゲームが神ゲーたるゆえんだからな」

「くそー! にはちー、ボクの仇を打っておくれ!」


 負けたさぬきは、にはち子にコントローラーを手渡す。

 受け取ったにはち子は「私も同じようにボコられてるんですけど……」と呟きながらキャラ選択を行った。


「……ほいっと」

「……あっ!」


 そして結果は小結の圧勝である。

 ほぼ初心者を相手にして、小結は一切手加減がない。


「おらどうした。裸見られた屈辱をゲームで返すっつって挑んできたのはお前らのほうだろうが」

「そうだけど。そうだけど……!」

「もうちょっとこう、手心というか。小結さんには罪悪感とかないんですか……?」


 んなもんねーよ、と小結は思っている。


「どうする、まだやるか? それとも別のゲームにするか?」

「うううー、それじゃあ次はこのゲームで勝負だ!」


 さぬきが手にしたのは浦島太郎電鉄、略して浦鉄だ。鉄道会社経営をモチーフにしたボードゲーム形式のゲームである。


 これももちろん小結が圧勝した。さぬきとにはち子ふたり分のスコアを足しても、小結の半分にも届かない。


 そこからさらにしばらくゲームを続けていると、さぬきのお腹がきゅうっと鳴った。


「む、……お腹が空いてきちゃったや」


 時刻はもう夜の十一時過ぎ。

 そう言われると、小結も小腹が空いてきた。


「そうだな、カップ麺でも食うか」

「なんですか、カップ麺って?」


 説明するのも面倒くさいので、小結はふたりをキッチンに連れていく。


「ええっと、これとこれか。ほら、お前らの分」

「なにこれ、おうどんなの?」

「だん兵衛(ぺえ)だよ。うどんとソバの両方があるから、お前らもケンカしないだろ」

「あ、ありがとうございます。えっと、これはお湯を入れたらいいんですか?」


 さぬきとにはち子は興味深そうにだん兵衛を眺めているが、作り方に戸惑っているようだったので仕方なく小結がお湯を入れてやった。


「おら、これだけでいいから簡単だろ」

「ほんとにこれでおうどんが食べられるのかい? ほんとに? 冗談じゃなくマジで?」

「疑り深いな」

「だって小結クン、平気な顔して嘘つくじゃん」


 その件に関しては、小結も言い返しようがない。


「これは本当だっての。おら、いいから座って三分待ってろ」

「はーい」

「不思議なものですねー」


 さぬきたちが大人しく座っている間に、小結も自分のカップ麺にお湯を入れた。


「小結クンのそれは?」

「銀ちゃんヌードル。ラーメンだよ」


 すると、こんな夜更けであるのにインターホンが鳴った。


「誰だ? こんな時間に」


 小結は不思議に思いながらも玄関に向かい、ドアを開けた。

 そこにいたのは。


「ハァイ、ワタシはラーメン天使の(ジァン)(ユー)ネ。オニーサン、ラーメンは好きアルカー?」


 お団子頭にチャイナドレス風の服を着た、エセ中国人みたいなしゃべり方の少女(てんし)であった。


 また変なのが来やがった、と小結は思った。


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