4玉め!:小結、試食する
「ふふふ、出来たよ出来たとも!」
「さぁ、食べてみてくださいな!」
キッチンから出てきたふたりは、小結の前にそれぞれ自分が作った麺を置いた。
うどんとソバ。それぞれが入った小ドンブリを前にして、小結はさっそく箸を取る。
「あら、嬉しいわ。私の分も作ってくれたのね」
そして小結の母の前にも、同じようにドンブリが並ぶ。
どうやら二人とも、俵家の二票をまとめてかっさらおうとしているらしい。
小結はまずうどんから箸をつけた。熱々のかけうどんだ。薬味などは用意していなかったらしく、何もかかっていない。
つるつるっと麺をすすり、よく噛んで飲み込む。
それから二口、三口と続けて食べる。
「どうだいどうだい。おうどんの魅力に、メロメロになってきたんじゃないかい?」
小結は無言のまま、次にソバのドンブリを手に取る。
こちらも素のかけソバだ。相当麺に自信があるのだろうか。
「どうです? おうどんなどよりもソバのほうが良いと思いますよね?」
ソバをすすっているとにはち子が自信満々な様子でそう聞いてくる。
小結は答えず、またうどんのドンブリに手を伸ばした。
うどんとソバを交互に食べ続け、最後はつゆまで飲み干すと、ごちそうさまをしてからふたりの天使に答えた。
「おら、食べたぞ。さっさと帰れ」
そして虫でも追い払うみたいに手を振った。
「あれぇっ!?」
「そんな!?」
ふたりは慌てて抗議した。
「待ってください! そこは味の評価とか、どっちのほうが美味しかったとか、そういうことを言ってくれる流れではないんですか!?」
「そうだよ! そこははっきりとボクの作ったおうどんのほうが美味しかったって言ってくれていいんだよ! ほら、ハリーハリー!」
わめくふたりに、小結は心底面倒くさそうな顔をしている。
それから一応、正直な感想を口にした。
「味っつったって。お前らのこれ、どうせどっちもそのへんのスーパーで買った普通のやつだろ。普通の味すぎてコメントなんか何もねぇよ」
「そ、それは……」
「私は、一番値段の高いやつをちゃんと買ってきましたよ! 袋の上のところに最高級って大きく書いてありましたもん!」
どっちにしろ買ってきたやつじゃねぇか、と小結は思った。
「それに。不味いとは言わねぇけど、別にどっちもそこまで美味しくねぇし。母さんが作ったやつのほうがよっぽど美味いわ」
小結がそう言うと、母のほうも「そうねぇ」と頷く。
「美味しく作れてるとは思うんだけど、もう少しゆで時間を短くしたりつゆの分量を変えたりしてもいいと思うの。ふたりとも、麺はまだ余ってる?」
小結の母はふたりを連れてキッチンに入っていった。
どうやら麺のゆで方から教えているらしい。キッチンのほうから「おおー!?」とか「そんなテクニックが……!」という声が時折聞こえてくる。
小結は待つのも馬鹿らしかったのでひとりでリビングに行き、パズルゲーム(ぽよぽよ)のスコアアタックを始めた。中古で買ったもので、今日こそは前の持ち主の記録を塗り替えたい。
しばらくして、ふたりの天使はうっとりとした表情でキッチンから出てきた。
「あぁー、おうどん美味しかった……」
「こんなに美味しいソバ、天界でもなかなか食べられませんね」
どうやら、母が作ったものを食べさせてもらったらしい。
めちゃくちゃ満足そうである。
「おう、腹いっぱいになったんだろ」
「うん」
「なりました」
「じゃあ、とっとと帰れよ」
小結はゲーム画面を見たまま、後ろにいるふたりに言った。
しかしふたりは帰るどころか、小結の両隣に腰を降ろして一緒にゲーム画面を見ている。
「……いや、見てないで帰れって」
「実はねぇボク、身ひとつおうどんひとつでこっちに来てるから、帰るところがないんだよね」
「私もです。昨日はさぬきちゃんと一緒に近くの公園の土管の中で寝ました」
「そうか。じゃあとりあえずここから出ていって、今日の宿を探してこいよ」
小結は完全にふたりを追い出すつもりのようだ。
一切容赦なしである。
「それで、さっきその話をキミの母さんにしたら、それは大変ねって言ってくれて」
「ウチなら空いてる部屋があるから、良かったらしばらく泊まっていったら? って言ってくれまして」
小結は操作を誤り、ゲームオーバーになった。
また前の持ち主の記録は越えられなかった。
そんなことよりも。
「……なんだと?」
「今、小結さんのお母さんは私たちの分も含めて晩ご飯の材料を買いに行かれました。今日のメニューはギョウザだそうです」
「あ、小結クン、ゲームオーバーになったんならボクに変わっておくれよ。そのハイスコア、ボクが抜き去ってやろうじゃないか」
呆然とする小結の手からコントローラーを奪ったさぬきは、「目標じゅういちれんさー!」と叫んでスタートボタンを押した。