表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/9

3玉め!:小結、誤魔化す


「どうしたんだよ小結。朝から疲れた顔してるみたいだけど」


 学校の昼休みの時間。

 教室で昼ご飯を食べていた小結は、クラスメイトの栗田(くりた)萬寿(まんじゅ)からそのように言われた。


「あー、いや、ちょっと朝ばたばたしてな」

「なんだよー、ばたばたって。弁当忘れて途中で取りにでも帰ったのか?」


 冗談混じりに言ってくる萬寿に、小結は「だったらまだ良かったけどな」と返した。


「朝から変なやつに絡まれたんだよ。しかも家の前で」

「マジで? まさか最近出てるって噂の脇脇おじさんか?」


 脇脇おじさんとは、そこらへんの通行人に声をかけてはワキの臭いを嗅ごうとしてくる頭のネジが十本ぐらい飛んでいるおじさんのことである。

 季節の変わり目になるとどこからともなく現れる。


「いや、それよりもっとヤベー奴らだった」

「脇おじよりヤバいとかよっぽどの変質者だな。警察には言ったのかよ?」

「とりあえず追い返したし、そこまでする気はねーな」


 警察に突き出して事情を説明するのもめんどくさい。

 というか天使に地上の法律が適用されるのだろうか。


「そうか? お前がいいならいいけど、またなんかあったらすぐに言えよ。なんなら兄貴にも言っとくし」


 この萬寿の兄は、近くの警察署で勤務する現職の警察官だ。

 気さくな人で、小結も何度かメシをおごってもらったりしている。


「ああ、分かった。そうならねーようにはしたいけどな」


 そこまで言うと小結は、昼ご飯の続きに戻った。

 母が作ってくれたお弁当だ。毎日毎日似たようなメニューが続くこともあるが、味はバッチグーだしごはんも詰め詰めで入れてくれている。

 小結には何の文句もない。


 その後、午後の実習授業もつつがなく終えて小結は家に帰った。

 玄関の鍵が開いている。そうか、今日は母がパートに行かない日か。


「ただいまー。母さん、何か食うモンある?」


 昼ご飯をちゃんと食べても帰るころにはお腹が空く。

 食べ盛りの高校生とはそういうものである。


 キッチンからは「あるわよー」と母の声。

 洗面所で手洗いとうがいをしてからキッチンに向かった。


「おかえりなさいコムちゃん。お友だちが遊びに来てくれたから、先に上がってもらってるよ」

「友達?」


 はて。今日は特に誰かが来る約束ではなかったはずだが。

 そう思ってリビングを見ると。


「……あ、にはちー今のはハメだろ! ずっこいぞ! やり直しを要求する!」

「いいですよ。もっとも、何度やっても貴女では私に勝てませんけどね」


 仲良く並んで格闘ゲーム(ザ・キングオブ鉄ストリート2015、略してキン鉄'15)に興じるさぬきとにはち子がいた。


「……マジか」

「学校の後輩? 可愛らしいお嬢さんたちじゃないの」


 母になんと説明すべきか、小結は今日一番真剣に悩んだという。





「で。お前ら。本当に俺がお前らの作ったモン食べたら帰るんだろうな」

「うん……」

「はい……」


 デコピンされた額をさすりながら、ふたりの天使は頷いた。

 小結は心底嫌そうな顔をしている。


「朝にあれだけ追い返したのに、夕方にまた来るあたりお前らもよっぽど暇なんだな」

「暇ではないですよ。私だってたくさんの人間たちにソバの良さを広めなければならないんですから」

「ソバはどうでもいいとして、ボクもおうどんの良さを広めるのに忙しいんだよ? ただ、キミも、朝はダメでも夕方に再チャレンジしたらワンチャンあるかなって思って」

「ねーよ」


 育成ゲームのランダムイベント起こすのとは訳が違うんだぞ、と小結は思う。タイミングや確率で心変わりするわけないだろ。


「コムちゃん、女の子の顔にデコピンはダメよ? せっかく可愛い子たちが遊びに来てくれてるのに」

「母さん、これは俺たちの間で流行ってる遊びなんだよ。俺がコイツらをひっ叩いて、コイツらが痛がるフリをするっていう」

「すごい。めちゃくちゃ真顔でとんでもないウソついてるよ、この男」

「なんという面の皮の厚さ。親の顔が見てみたいですね」


 小結は無言でふたりの鼻を摘まんで引っ張った。

 ふたりはジタバタと暴れてなんとか振りほどく。


「ああ、コムちゃん、またそんなことして」

「な、存外上手く痛いフリをするもんだろ」

「痛ったーい……」

「ふゃ、(ひゃな)が……」


 部屋の隅まで逃げたふたりに、小結は言う。


「もういいから、さっさと作って持ってこいよ。言うとおり食べてやるから」


 これ以上真面目に相手をするのが馬鹿らしくなったようだ。

 やりたいことやらせて、とっとと帰ってもらう腹積もりなのだろう。


「お、とうとうその気になったようだね」

「ふふふ、我らがソバ天使の作るソバを食べても、まだそんな態度が取れますかね!」


 そう言ってキッチンに駆け込んでいくふたり。

 待っている間、小結は母にたずねた。


「母さん」

「なぁに?」

「俺が帰ってきたとき聞いた食べるモンって、まさかとは思うけどあのふたりが作ってくれるって話だったのか」

「そうよ? それにしてもスゴいじゃないコムちゃん。いつの間にあんなに可愛いガールフレンドができたの?」


 女友達(ガールフレンド)というよりは侵略者(インベーダー)だな、と小結は思った。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ