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1玉め!:さぬきちゃん、下界へ行く


 おうどん天使とソバ天使が血で血を洗う抗争を始めたことにより、天界は荒れに荒れた。


 どちらも自分たちの麺こそが麺類ナンバーワンの座に相応しいと言い、一歩も譲らなかったからだ。


 抗争はいつしか他の麺類派閥の天使たちを巻き込んで激化し、美しく花々の咲き乱れる楽園は、ペンペン草一本とて生えぬ焦土と化した。


 これに困ったのが麺王様(天使たちの神様みたいな存在)だ。

 麺王はこれ以上天界を荒らされるのをよしとせず、とりあえずの措置として、これ以降の抗争はすべて人間たちの住む下界で行うようにお触れを出した。


『人間たちに自分たちの麺の素晴らしさを説き、支持者を増やすことで戦いとせよ』


 麺王様の言い分としてはこうだ。

 潰し合うのではなく広め合えと。

 敵対ではなく、仲間を増やすことで優劣をつけろと。


 しかし、麺王にとってはそうではなくても、天使たちにとって下界はとても遠い世界だ。

 一度降りてしまえば、また天界に上がってこられるかどうか分からない。

 そんな状況で下界まで降りていく天使たちはそれほど多くなく、……そんなことをものともしない一部の過激派天使たちは、お触れに従い下界へ降りていき、そして、戦いの場を移した。


 すなわち、下界。


 人間たちの住む世界へと。





「というわけで、ボクは遠路はるばる地上に降りてきたんだよ」

「そうか。何ひとつ理解できないが、遠いところからわざわざご苦労なことで」


 H農業高校2年の(たわら)小結(こむすび)は、突然自室に飛び込んできた頭のおかしい少女の話を最後まで聞いたうえで、そのように返した。


「で? アンタ名前は?」

「おおっとこれはボクとしたことが! いくら貧弱な人間相手とはいえ名乗らないのは失礼ってもんだよね!」


 その言動がすでに失礼だよ、と小結は思った。


「ボクの名前は、さぬき! おうどん天使のさぬきちゃん、と親しみを込めて呼んでくれていいよ!」

「親しみどころか憎しみしかないんだが」


 小結は自室の窓を見る。

 目の前の不思議系少女(ちゃらんぽらん)が飛び込んできたせいで、ガラスがすべて割れてしまっている。

 今は割れたガラスを片付けて窓にダンボールを張った後だ。


「それは不可抗力だったってさっきも謝ったじゃーん。高いところから落ちてきんだから多少の誤差は大目に見てよー」

「どこの世界に二階の窓を突き破ってくる天使がいるんだよ」

「ここ、ここー」


 自分のほっぺを指差して言ってくるさぬき。

 小結は、額の血管がピクピクしているのが自分でも分かった。かなりイラついているようだ。


「なんでもいい。とにかく話が終わったなら出ていってくれ」

「いやいや! 話はここからが本番だよ!」


 さぬきは懐から何かを取り出した。

 そう、カチカチに凍った冷凍うどんである。


 ついでにめんつゆと鍋と丼も取り出す。

 そのヒラヒラした薄い服のどこに隠し持ってたんだ、と小結は思った。


「今からボクがおうどんを作ってキミにごちそうするからさ! ぜひともおうどん派閥に入っておくれよ!」

「ぜってー嫌だよ。てか、なんで冷凍うどんなんだよ! そこはもっと凝って手打ちうどんとか作ってみせろや!」

「バカを言うなよ! ボクは食べるのは得意だけど作るのはカスみたいなもんなんだぞ! これで精一杯だっての!」

「威張ってんじゃねーよ!?」


 もうなんなのだこの女は。

 マジで帰ってくれないかな、と小結は頭を抱えた。


「キッチン! ひとまずキッチンを貸しておくれ! おうどんをゆがきたいからさ!」

「待て! 勝手に降りていくな!」


 階段をドタドタと降りていくさぬき。

 小結は慌てて後を追い、一階の廊下で羽交い締めにして止めた。


「は、放せ! おうどんがボクを呼んでるんだ!」

「呼んでねーし放さねーよ! よし、このまま外に放り出してやる!」

「やめろー! あ、ちょっと! どこを触ってるんだキミは!? ひゃあん!?」


 変な声出してんじゃねーよと思いながら、小結は玄関までさぬきを引きずっていき、玄関戸を開けた。腰に手を回してぶん投げようとする。


 しかしそこには、別の人影があった。


「気配をたどって来てみれば、やはり居ましたわねおうどん天使! ソバ天使一の才女とうたわれた、この私の目は誤魔化せな……」


 そして小結とさぬきの姿を見て、言葉を失った。

 具体的には、さぬきを抱き締めている(ように見える)小結の姿を見て。


「あん?」

「あ、キミは」

「ふ、ふ……!」


 ソバ天使は大きく息を吸い込んで、叫んだ。


「不潔よーーーーっ!! こんな、公衆の面前で男女が抱き合うなんてーーーーっ!?」


 またうるさいのが増えやがった、と小結は思った。


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