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私はダンジョンコア

作者: cyan

連載の改稿作業をしていると、頭に浮かんで消えないネタに邪魔されることってありませんか?

そんなネタ昇華の短編ですので、深く考えずに書いてます。お読みいただく際は、暖かい目でご覧くださいますよう、お願いいたします。

私はダンジョンコアである。

名前はまだない。






私たちダンジョンコアは、支配するダンジョン内で死んだモノから魔力を得てコア()は成長する。大きく括れば魔物の一種といえるだろう。

ダンジョン内に魔物を召喚して、魔物同士や魔物と人間、たまに人間同士の争いに場を提供する。ダンジョン内で死んでくれれば、魔力を吸収して自分の力にできるのだ。魔力を貯めて、また魔物を召喚、魔力を吸収、それを繰り返してダンジョンを拡げる。獲物は、魔物でも人間でも、ダンジョン内で死んでくれれば何でもよい。

成長するためには、より効率良く獲物を集めなければならない。それには知恵が必要だ。ダンジョン内に魔物を召喚するだけでなく、罠を仕掛けたり、魔物や人間を誘い込む餌を設置したりと大変なのである。


兎も角、今の私は小さな洞穴に、ゴブリン1体しか召喚できない。魔力を吸収しないことには、この先どうしようもないので、ゴブリンを召喚する。

緑色の醜悪な顔した小さな体の短足魔物。可愛くも美しくもないが、小さな洞穴にはお似合いだろう。


召喚したゴブリンは、私の力では洞穴の中でしか動けない。ダンジョンを外にまで拡げられれば、出入口付近でも動けるようになる。それまでは洞穴の中で獲物がやって来るのを待つしかない。


すぐに獲物はやって来た。ぽよんぽよん、と音をさせて入ってきたのはスライムだ。ゴブリンよりも劣るが、僅かでも魔力を吸収したいから大歓迎だ。

ゴブリンは素早くスライムを捕まえると、スライムの核に噛みついた。素手のゴブリンなら噛みつきは当然の攻撃方法だろう。スライムの体に顔を埋めて、ガジガジ噛みつくゴブリン。スライムも負けじとゴブリンの顔を溶かしにかかる。

結果、ゴブリンの顔は溶解され死んだ。弱すぎるだろうお前…。スライムも核を傷つけられすぎて死んだけど。2体の魔物から魔力を吸収する。少ない魔力を得た。


しばらくはスライムを獲物にするしかないと判断して、誘き寄せる手段を考える。たった1体だとしても、ゴブリンを召喚できるだけの魔力は残しておかなければならない。スライムが来ても倒せないと意味がないからな。少ししかない魔力で、先ずはゴブリンを召喚する。それから、スライムの好む苔を洞穴に生やすことにした。


スライムを誘き寄せる方法は効果があった。今度もぽよんぽよん、と跳ねるスライムが洞穴に入ってくる。またゴブリンは噛みついて相討ちだ。こんな馬鹿なゴブリンしか召喚できないのかと嘆きたくもなるが、今は仕方がない。今回も少ない魔力を得る。

それを何百回と繰り返して、そこそこの魔力が貯まった。


さて、洞穴を拡張するか、ゴブリンの召喚数を増やすか問題だ。考えた末に、洞穴を拡張して洞窟にし、スライムのエサを増やすことにした。ゴブリンを2回召喚できるように魔力は残しておく。スライム1体よりもゴブリンの方が魔力量が多いから、自分で召喚したゴブリンをスライムで倒させる作戦だ。


スライムが集まるのを辛抱強く待った。スライムが3体集まったところでゴブリン召喚、襲いかかったゴブリンは返り討ちにあい死んだ。直ぐ様、次のゴブリンを召喚する。

どうやら、ゴブリン1体の吸収で、召喚1回分は確保できるようだ。それに、私も成長しているのか、ゴブリンを召喚する魔力の消費量が減ってきていた。スライム3体対ゴブリン1体を繰り返す。これまた何百回としていると、魔力が貯まる貯まる。これはよい作戦だった。


ゴブリンの強さも上がってきているようで、今召喚しているゴブリンは棍棒を持っていた。スライムを1体倒したところで、他の2体に倒された。

そろそろ次なる作戦を考える時期にきたようだ。考えながらも、新たなスライムがやって来るのを待って、スライム3体対ゴブリン1体の生け贄作戦は続行中だ。まだゴブリンの完全勝利にはならないようだった。やはりゴブリンが負け、スライム3体の勝利となったところで、洞窟内に侵入者が現れた。


「おっ、ラッキー!ピアニ苔じゃん!」


侵入者は、背丈はゴブリンくらいの小さな人間だった。人間は、鼻歌混じりでスライム3体を切り捨てると、洞窟内に生やしていた苔をナイフで採りだした。

私の生け贄作戦が、いとも簡単に崩壊させられた。腹が立った私は、ゴブリンの召喚数を2体に増やして人間を襲わせた。


「うぉ!?」


人間は驚きながらも、背後から振り下ろされたゴブリンの棍棒を避けた。2体目のゴブリンからの攻撃も難なく避けられた。なかなか素早い奴だな。それから呆気なくゴブリン2体は倒されてしまった。反応速度などに感心している場合ではなかった。


「うひひっ!苔にゴブリンごちそーさん!」


そう言うと、人間はゴブリンの片耳を削ぎ取り、軽い足取りで洞窟を出ていった。

・・・・・・・。

まぁ、いい…。私も魔力を吸収できたのだから、と向ける先のない怒りを収めることにした。


人間に作戦を潰されたが、私はまた洞窟内の苔を生やし、スライムを誘き寄せ、ゴブリンを2体にして生け贄作戦を続けた。しかし、順調に進んでいたはずの生け贄作戦は、小さな人間が定期的に洞窟に来て潰していく。意気揚々とスライム、ゴブリンを倒し、苔を採っていく後ろ姿が恨めしい。


そろそろ、あの人間がやって来るはずだ。今度こそは小さな人間を私の糧にしてやる、と新たな策を施した。

生け贄作戦を潰されたといっても、コアが成長するほどには魔力も貯まっているのだ。洞窟を拡張し、落とし穴の罠を作り、人間が掛かったところでゴブリン5体で襲ってやる。


今か今かと待ちわびた人間がやって来た。いつも通り、せっかく誘き寄せた7体のスライムをあっさり倒される。


「あれ?今日はゴブリンいねーの?ま、いっかー」


ふふんっ!暢気に鼻歌を歌ってられるのも今のうちだ。お前の行動はお見通しだ。

案の定、奥の苔を採りに進んできた人間の足下で、固定型罠(落とし穴)が発動する。が、見事に跳び退かれてしまう。それくらいは私も計算の内に入れている。人間が体勢を崩したところで、先ずはゴブリンを2体召喚して襲いかからせる。不利な体勢にもかかわらず、人間はゴブリンの攻撃を避ける。


「ちっ!罠に奇襲って…!」


ゴブリン2体までは今までと同じだ。ここからは違うぞ、と更にゴブリン3体を召喚する。焦る様子の人間、お前はゴブリンから距離をとるために入口へ向かうだろう?思惑通りに人間は動いた。


「うわあああっ!」


掛かったな!奥の罠が発動すると、連動で発動する入口の落とし穴に人間が嵌まった。見事に落ちた人間をゴブリンが一斉に襲う。


「「「ギョエエエエエーっ!!!」」」


品のない悲鳴と共に上がった火柱。全身を焼かれて絶命するゴブリン3体がいた。

なんだ?なにが起こった?

事態が飲み込めずにいると、人間が落とし穴から飛び出して、残りの2体を切り捨てた。


「あっぶねー。《ファイヤーピラー》覚えてて正解だったな」


《ファイヤーピラー》だと?魔法も使えたのか?

今まで剣しか使っていなかったのに、ここにきて魔法を使うとは卑怯だろう…。

少し肩で息をしていた人間は、何事もなかったかのようにゴブリンの耳を削ぎ取り、苔を採って洞窟を出ていった。

今度こそは、上手くいったと思ったのに完敗だった。


「小せぇけど、ダンジョンだったのか。小せぇけど…」


洞窟を出ていく時に、人間はそう言った。

悪かったな!小さくて!2回も言うなよ!これからでかくなるんだよ!っていうか、ダンジョンって今頃気付いたのか!ああ、私よ、落ち着け、落ち着くんだ。これくらいのことでペースを乱されてはいけない。それにしても、いきなりゴブリンが出てきて、倒した死骸が消えるなんて、ダンジョン以外にないだろうが…。


それからは、人間は陽が昇るとやって来て、陽が落ちると帰って行く。ゴブリンを召喚する度に、さくさく倒され、苔を生やす度に採られる。人間に上手く使われているようで気分が悪い。腹いせに苔を生やさなければ「ピアニ苔くれよー」と言うし、ゴブリンを休憩なしに召喚し続ければ「ちょい休憩ー」と言う。

なぜ私がお前の言うことを聞かないといけない?

しかし、しかしだ、ゴブリンを倒させる(・・・・)のは生け贄作戦の延長のようなもので、スライムよりも効率はよい。

効率がよいなら行わないでもない。そう、全ては誰のためでもない、私のためだ。


そんなことが当たり前になった頃、いつものようにゴブリン攻撃を続けていると「休憩なっ!」と言って座り込み、人間が独り言を言い出した。


「俺さー、今度ランクアップ試験受けんだ。あ、俺ってば冒険者ギルド期待の超優秀最年少冒険者なの。すげぇだろ?」


私に話しかけているのか?そんなことを私に言ってどうする?何がすごいのかもまったく意味がわからないし、ダンジョン相手に話すとは変な人間だ。


「ダンジョンに何言ってんだって思うだろうけどさ…。俺、お前のお陰で強くなれたし、金も稼げたし、まぁ、ゴブリンばっかだけどさっ!」


ゴブリンばかりで悪かったな!魔力も馬鹿みたいに貯まってるのに、お前がずっと居るから、他の方法を考える必要なかったんだよ!


「その、あれだ、…それなりに感謝してんだよ」


んん?感謝?ダンジョン相手に?

なぜか顔色を赤くして、人間はそんなことを言った。


「んでさ、ランクアップ試験で、しばらく町離れるから、ここ来れないんだわ。寂しいだろうけど、悪いな!」


ああ、そうなのか…。しばらく来ないのか…。別に私は寂しくなんかないけどなっ。お前が来る前に戻るだけだ。魔力も貯まってるから、お前がいなくても効率よくする方法を考えるだけだし…。お前がいなくても問題ない…。

だが、世話になったのも少しだけあるし、別れに何か品をやろうか。そう考えて、ゴブリンを倒したらアイテムを落とさせることにした。


もっとダンジョンを拡張してから、人間を誘き寄せる餌として召喚した魔物にアイテムを持たせるつもりだった。最初の餌は、この人間にやってもよいと思っていた。

今の私の魔力で造れる物、何がよいだろうか?

……ふむ。決めた。貯めた魔力が根刮ぎなくなるが、今回は出血大サービスだ。ただのゴブリンでは芸がないな。ゴブリンメイジにしてやろう。

くくくっ!頑張れよ?ほら、召喚!


「《ファイヤーボール》」


召喚したゴブリンメイジは、問答無用で魔法を放った。


「ちょっ!?おまっ!休憩っつたろーがっ!」


そうは言いながらも容易く避けて、人間は剣を構える。相変わらず、よい反応速度だ。続けざまに放たれる《ファイヤーボール》を避け、避けきれなかったものを剣で相殺した。剣で魔法を切るとは驚きだ。


「ちっ!《ファイヤーピラー》!」


魔法防御が高いゴブリンメイジに愚策だろうと、と思っていると人間は既にゴブリンメイジの背後に回り込んでいた。なるほど、《ファイヤーピラー》は目眩ましか。そして、横凪ぎに剣を一閃振るう。


ーガキィー…ン


胴を切られ倒されたゴブリンメイジと、真っ二つに折れた人間の剣があった。


「あああああああああああーっ!剣が折れちまったじゃねぇかぁ!!」


絶叫をあげ、茫然とする人間。

初めて見る悲壮な顔に私は満足した。


「どーすんだよっ!?明日から護衛試験なのに…」


そうだな、試験とは何をするかしらんが、剣がなければ戦えんだろうな。しかし、剣がボロボロになっていたことも人間はわかっていなかったのか。私のダンジョン以外では死んでもらっては困るんだがな…。

項垂れてしゃがみこむ人間は、ゴブリンメイジが落としたアイテムに気づいていない。そのまま、ぶつぶつと私に向かって恨み言を呟いている。

仕方のない奴だ…。


「ほら、この剣をくれてやる」


人間と対するなら人間の姿がよいだろう、と目の前の人間と同じ姿で剣を差し出してやった。


「は?…え?……俺?はええええっ!?」


人間は変な声をだして、まじまじと私を見る。

面白い顔だ。


「ゴブリンメイジが落とした物だ」


ぐいっと押し付けてやれば、反射的に人間は剣を受け取った。それでいい、その剣で試験とやらをすればいい。私が剣から引こうとした手を人間に掴まれた。


「お前、誰?俺じゃねぇよな?いつからいた?」


誰、と問われても困るんだけどな…。


「私は私だ。ずっとここにいる」


そのままを答えて、捕らえられた手を引こうにも、人間の力は強かった。おい、離してくれよ。私が嫌そうな顔をしたからか、人間は掴む力を緩めた。人間の顔とは便利だな。離してはくれないようだが…。


「俺はエド、エドヴァルドってんだ」


エド、エドヴァルド、人間の名前か。それが何なのだ?


「……?そうか」


よくわからないが、私の言葉を待っているようだったから、そう返した。


「〜〜〜っ、お前の名前は!?」


ああ、私の名前が聞きたかったのか。だが、私に名前はない。ダンジョンコアの名前はダンジョンマスターが名付けるもので、私にはまだダンジョンマスターがいない。

ダンジョンマスターは魔物でも人間でも構わないが、私をより効率よく成長させるモノでなければならない。そのうち、よいモノがいればダンジョンマスターになってもらうつもりではいる。


「名前はない」


ダンジョンマスターについて説明する気はないから、人間、エドヴァルドに事実だけを告げた。


「名前がない…?じゃぁ、なんて呼べばいい?」


「呼ぶ必要はない」


エドヴァルドと話すのは今回だけだ。だから、必要がないと言うと、エドヴァルドは愕然とした顔をする。それから、唸るような声をだして何かをぶつぶつ言っている。

お前、ぶつぶつ言うの多いな。それと、そろそろ手を離してくれないか?

私がエドヴァルドから手を取り返そうとすると、また強く掴まれて、私の顔を覗きこんできた。


「エドヴァルド!俺の名前、お前にやる!お前はエドヴァルドだ!」


エドヴァルド…。私の名前?いったい何を言い出したんだコイツは?俺と同じ顔だから名前も同じでいい、とか何を言っている?というか、私に名を付けるな!


「なっ!エドヴァルドいいだろ?俺はエドって呼ばれてるから、お前はヴァルドな!」


ちょっと待て!勝手に話を進めるんじゃない!そもそも、名付けはダンジョンマスターがするものだから、お前のそれは却下だ!「ヴァルド、ヴァルド、エドヴァルド」と連呼するんじゃない!私は認めていないからな!


「なぁ、ヴァルド」


「あ゛あ゛?」


エドヴァルドのしつこさに不機嫌に返事をした瞬間、私の体が光を放つ。

っ!しまった!ちょっと待て!今のは承諾の返事じゃない!私はコイツをマスターと認めていない!


「ぁ…っぅ…!」


私が光るのを驚いた顔で見つめるエドヴァルドは、急に胸の辺りを押さえて痛みに耐えているようだった。私との契約紋が刻まれているのだろう。


「はぁ〜〜〜…最悪だ…」


解放された手で私は自分の頭をかき乱した。私の発光はおさまって、エドヴァルドも痛みが消えたようで呆けている。

なんてことだ…。名付けの契約が成立してしまった。もうなかったことにできない。エドヴァルドが死ぬまでは。これが、私のダンジョンマスター…。

この、小さいが自信満々で、剣の寿命も見えず、私に要求だけを突きつけてくる、後先考えずに名付けを行う馬鹿が、私のダンジョンを左右する存在になるのか…。


「エドヴァルド、いや、エド。お前、責任とれよ?」


「え?なに?…え?なんで?」


この、何もわかってない問い返し。不安だ。ものすごく不安しかない…。だが、契約は成された。私のダンジョンマスターとして頑張ってもらわなければならない。


「まずは、魔力の吸収だな」


「何い…って!?またゴブリンかよっ!」





そのあと、たっぷりとエドにゴブリンを倒してもらい、私は魔力の吸収に努めた。たまに小回復ポーションを落とすゴブリンを混ぜてやると、エドはやる気を出したみたいだった。

剣のようなアイテムは出せないが、小回復ポーションくらいなら10体に1つ付けられるか。人間はポーションに目の色を変えるようだな。ダンジョンの今後の策も試しながら魔力も吸収できる。エドは今のところ役に立つマスター、ということにしておいてやろう。


「あー、まじもう無理っ!」


「そうか、ならこれで最後だ」


泣きを入れるエドに、最後の1体だとゴブリンメイジを召喚してやる。もう姿を消してもよかったのだが、なぜか最後までエドの戦いを観ていた。ゴブリンならエドの相手にもならないようだが、攻撃した後に一瞬だけ剣を握り直す癖があった。瞬きの間だとしても隙を作るのは危ないな。


「ぉ!また剣でるか!?」


なんだ、まだ元気じゃないか…。残念ながら、それからは剣は落ちない。そんなに剣がいいのか?だが、そんな魔力はないからな?ミスリル合金の剣なんてもう出せない。

難なくゴブリンメイジを倒したエドは、わくわく顔で死骸が消えるのを待っていた。


「ちぇーっ!剣じゃないし!これ何?」


私を振り返って、落とされたアイテムの腕輪を指先でくるくる回して訊いてきた。

だから、剣などほいほい出せないと言っているだろうが!そのアイテムだって、わりと魔力使って造ったんだからな!もっと丁寧に扱え!


「おいっ!ヴァルド!何とか言えよ!」


あ?言ってるだろうが?何をいっ…ああ、声に出してなかったのか。面倒な奴だな。


「それは『身代りの腕輪』だ。一度だけ、お前を即死・・から助けてくれる」


隙ができた時にカウンター攻撃を受ければ、柔なエドは即死するだろう。一度、死にそうになるのを経験すれば、自分の悪い癖も見直せるだろうからな。

癖があることを教えてやれって?いやだね!

アイテムの効果を教えてやると、エドは目と口を大きく開けたまま馬鹿面を晒していた。だめだ、頭を使いそうにない…。私のダンジョンマスターなら、頭を使って自分で強くなってもらわないと困るんだ。戻ってきたらダンジョンマスター教育をするしかないのか…。


「それ持って、とっとと試験とやらに行ってこい。戻ってきたら鍛えてやるから、死ぬなよ?」


「お、おう!…って、またゴブリンばっかだろ?」


我に帰ったエドは失礼なことを言ってきた。

お前がいなかったら、もっと考えて魔物も増やしたし、洞窟も拡張していたんだからな!しかも、また魔力を吸収しないとエドを見返すこともできないときている。コイツが帰ってくるまでに何とかしないと…。


「黙んなってば!」


「おい、お前がいない間、誰か代わりを寄越せ」


そうだ、エドの代わりにゴブリンを倒す人間がいればいい。そうすれば、効率よく魔力が吸収できるじゃないか!我ながらよい作戦だ。


「は?代わり?」


「そう、ここでゴブリンを相手に戦える人間を寄越せ」


「えー、代わりの奴連れてきたら、そいつとも姿見せて話すのか?」


馬鹿か?人間とそう易々と話すわけないだろうが。エドの質問を無視して私は話す。


「お前のせいで魔力が足りない。ゴブリンを倒すモノがいないと、ダンジョンの拡張ができないだろうが」


「ダンジョンでかくなるのか!?いつ!?魔物もゴブリン以外でてくるんだよな!?」


だから、魔力が足りないから無理だと言っているのに!ダンジョンマスターなんだから、それくらい解るだろう!?エドの言葉は止まることを知らないかのように続けられた。


「なぁ、なぁ!俺、階層ダンジョンがいい!下に行くほど魔物が強くなるってやつ!んで、階層ごとに安全地帯みたいなとこがあるといいと思わね?」


階層ダンジョンか、それもよいな。安全地帯なんて作ったら入り浸る奴がでてくるじゃないか。あ、いいのか。死ぬまで魔物と戦ってくれれば私の糧になるな。ふむふむ、ダンジョンマスターとして初めてよい策をだしてきたな!

ん…?そういえば、コイツにダンジョンマスターとなったこと話してない気がする。


「階層ダンジョンを攻略するのは俺が最初な?他の奴を先に入れたりすんなよ?ヴァルド!聞いてんのかよ!?」


「五月蝿い。階層ダンジョンにするにしても魔力が足りない。ゴブリン以外を召喚するにも魔力が足りない。解るか?解ったな?解ったなら、お前の代わりを寄越せ」


ふんっ、と私は鼻を鳴らして言い切った。「ぉ、ぉぅ」と頼りない返事をするエドをじろりと睨んでやった。


「とりあえず、お前が帰ってきたらダンジョンの拡張をするし、説明もしてやる。それでいいだろ?」


「説明?うーん、うん?ま、俺が戻るまでダンジョン変わらないならいいか!」


何かを期待した私が悪いのか?多少なりとも疑問をもつとか、私を疑うとかしないのか?そもそも私のことに関心がないのか…?


「ところで、陽が昇るがいいのか?」


「えっ!まずい!俺、行ってくるわ!」


一晩中ゴブリンの相手をしていたが、エドは疲れを見せることなく洞窟の入口へと走り出した。その背中に念を押すのを忘れてはいけない。


「代わりを寄越すのを忘れるなよ」


「わーってる!」


振り返りもせずにエドは駆け出していった。慌ただしい奴め。エドが出ていった洞窟の入口へと私も向かう。外には出れないが、拡張した際の参考にしようと思っただけだ。私が入口から外を覗けば、もうエドの姿はなかった。まぁいい、エドの姿を見送るためじゃないんだからな。…誰に言い訳しているんだか。


「ヴァルドーっ!寂しくても泣くなよ!土産持って帰るからなー!」


「…っ!」


姿は見えないが、エドの大声が私に届く。

誰が泣くかっ!お前こそ勝手に死ぬなよ!?ったく、ダンジョン相手に何が土産だ。馬鹿マスターが…。






私はダンジョンコアである。

名前はエドヴァルド。

ダンジョンマスターは…、エドで十分だ。

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