ご当主様のお仕事です
またまた貴族もの、令嬢もの。
好きなのです。
「彼女は」とは無関係です
ぱしりっ
部屋にはわたくしが閉じた扇の音だけが響いた
「で、お父様?もう一度、わたくしも分かるように言って下さるかしら?」
「あ、あぁ。だからここにいる方々から結婚の申し込みがあっt「申し込み?ねぇ。」」
何度聞いても内容は変わらないらしい。
目の前にいらっしゃるのは、見目麗しいお三方。
一人は宰相様のご子息でその素晴らしい頭脳を受け継いだらしい、鋭利なといった雰囲気をお持ちの侯爵家のご子息。
二人目は騎士になられたらしい、体躯の優れた一見粗暴そうにも見えてしまう男くささを持った伯爵家のご子息。
そして極めつけは美しいご尊顔に多分な色気を放っていらっしゃる、わが国の第二王子様。
見目麗しいお三方に求婚されるだなんて、ユメみたいだわ。
ほんと悪夢みたい。
とっとと覚めてくださらないかしら。
「お父様?このなかから選べとおっしゃいますの?」
「さっきからお前は。何が不満だと言うのだ」
確かに家は可もなく、不可もなくな伯爵家ですわ。
それもお父様が政治の中心からはずされてしまうような人間だからですけれど。
なにより貴族として持っておくべきものがお父様にはありません。
「お父様。あなたにはほとほと呆れました。もうよいですわ。お母様と湖の別荘にでも移り住んでくださいませ。この家には跡取りとなるべき弟が居りますもの。あなたのような出来損ない、必要ありませんわ」
「な!親に向かっt「黙ってくださいませ」……。」
一睨み程度で黙るなら最初から口を挟まないでいただきたいですわ。
「こんな方々を婚約者候補として紹介するなど、今の社交界を知らないといっているも同然ですわ。まぁ、当然でしょうけど。挨拶などの一切をわたくしとアルに任せてしまっているんですもの。今、社交界ではこの方々の醜聞で持ちきりですのよ」
ねぇと三人を見れば青ざめていらっしゃる。
わたくしを何も知らない箱入り娘だと思っていたのかしら?
「効率化を図りすぎ、様々な家同士の関係を考慮しなかった結果多くの方に疎まれていらっしゃる侯爵家のご子息様に、騎士であるにもかかわらず酔って王家を見下すような発言をし騎士の名を剥奪されかけ謹慎処分を受けている伯爵家のご子息様、そして多くの女性と関係を結んでいることが明らかとなってしまい、面倒ごとにならぬうちにと王位継承権を剥奪されかけている第二王子様。もう一度お聞きしたいのですが、何をしにいらっしゃったのでしょう」
目の前のお三方どももやっとわたくしがこのお父様同様、汲みしやすい人間ではないということが分かったようです。
醜聞を軽く説明としてつければお父様でも分かったのでしょう。すっかりと青ざめていらっしゃる。
「ねぇお父様。この程度の話も知らず、妻を愛しているから仕事に手がつかなくても仕方ないんだと抜かしている人間でいらっしゃるお父様ですもの。貴族として過ごすより、お母様と一緒に過ごされる時間を大切にされてはいかが?」
立ち上がり、にっこりと微笑む
「わたくしとしても意味のある政略結婚でしたら多少の醜聞があろうとも結びましたわ。でもあなた方と婚姻を結んでも恥になるだけで益がございませんもの。どうぞお帰りになって」
諦めたかのように立ち上がった三人に、まるで今思い出しましたとでも言うようにそうそうと声をおかけする。
「言い忘れましたけれど、今回の件、お父様を使ってどうにかしようとしていらっしゃたようですけれど、今後は意味ありませんわよ。先日お手紙を出しましたの。前々からお話ししていたことのご許可をいただきたいと。陛下に」
自分も無関係ではないと悟ったのだろうか。お父様もこちらを見ていらっしゃる。
「『お父様の爵位をアルに譲爵していただきたい。』と。陛下からは了承のお言葉をいただいたわ。あぁ、お父様は心配なさらないで。何もなさらなくていいのよ。気が触れてしまった、あぁ、いえわたくしたちの名誉のためにボケてしまわれたとされたお父様にそんなこと頼むなんてできませんもの。陛下も証言してくださったわ。あれだけ仕事を放っているとはボケてしまった以外にありえないだろう、と。おかげで精神病者が出たと言う醜聞もなく過ごせますわ。本当にボケてくださってありがとうございます」
お父様はついに何もいえなくなってしまったようです。
当然でしょう、王の言葉は覆せぬ事実となって広まるものなのですから。
「どうぞ余生はあの美しい湖のほとりでお過ごしください。優しいお母様のことですもの、多少ボケていてもお父様のことを愛してくださいますでしょう」
というわけでね、とつづける
「今日、アルはそのために登城していますの。ですから爵位はすでに弟のものですわ。いくらお父様が進めようとしてもボケてしまった前当主の言葉は戯言でしかありませんの。お分かりいただけたかしら?」
さて、お帰りのようよ。といえばうちの優秀な使用人たちが三人を追い出s…玄関までしっかりとご案内いたしました。
お父様のほうも片付けてくれたようです。
やっと一息つくことができます。
今回の件、アルは受け入れてくれたけれど、優しい子だもの。
きっと心を痛めているでしょう。
しかし同情するべき期間はすでに過ぎてしまったのです。
お父様にも挽回するための期間は与えられておりました。
にもかかわらず、それに気づかず不意にしたお父様は、やはり貴族に向いていなかったのでしょう。
これでやっと終わりましたわ。
いや、これからが始まりというべきでしょうか。
お父様が投げ出していた仕事を多くはこれまでも肩代わりしておりましたが、未だ問題は残っております。
屋敷や我が家の内情はアルと執事長、そして義妹に任せればよいでしょう。
我が家の醜聞は殿下たちの醜聞に紛れてしまうでしょう。
さて一番の問題はわたくしの嫁ぎ先でしょうか。
あと半年もすれば新婚となる弟夫婦と同じ屋敷に住むつもりもありません。
法衣貴族な我が家には引きこもる領地もありません。
唯一、それらしい場所であった別荘は幾日もしないうちに両親《お花畑さんたち》が引っ越すでしょう。
とっとと出て行かなければ邪魔な小姑になってしまうわ。
半年……半年ですか…………。
周りを説得して修道院に入るほうが楽そうではありますが、最終手段といたしましょう。
嫁ぎ先……半年……嫁ぎ先……修d……………。
考えても仕方がありませんわ。
貴族令嬢にとって嫁ぎ先とは政略結婚であることが当たり前。
そしてそれを結ぶのは当主=弟なのです。
そう、私が考えても仕方ないことなのです。
決して面倒だから放り出したわけではないのです。
貴族の令嬢として、考える必要のないことなのです。
ということで
ここは初仕事として、当主様に丸投げすることにいたしました。
誤字、脱字ございましたらお知らせください。
あらすじの悲壮感が一読後だとふっとんでしまうというお話を作りたかっただけなのです。
「彼女は」の主人公は若干世間ずれしているところがありますが、今作ではきっちりがっつり社交界の華としてご令嬢方の情報収集・拡散を行っちゃう系のご令嬢を目指したかった。(希望・願望)