縞…だったのか
俺は洗面所の鏡の前に向かった。そこで鏡に写っていたのは何というか、例えるならば男勝りの貧乳を気にするニーソの似合う美少女といった感じの人がいた。そう、まさしく昨日あいつがブログに投稿した通りの風貌なのだ。
「・・・んぐっ」
可愛さのあまり言葉が出てこない、代わりに変な声が出た。可愛らしい声だった。鏡に映っているのが自分ではないというのはとても不思議な気持ちだ。まあとにもかくにも顔を洗っておこう。身だしなみは大事だもの。
水がいつもよりも冷たく感じるような気がした。顔を拭き終わったとき、背後から声がした。
「あら、おはよう」
お袋だ。少しドキッとしてしまった。しかし、見知らぬ女の子が洗面台で顔を洗っていて驚かないのか?少しあっけに取られているとお袋はまた口を開いた。
「?、ヘンな子ね。まあいいわ、早く朝ごはん食べちゃいなさい。冷めちゃうわよ。」
「う、うん」
今の受け答え、はたから見たら可愛んだろうな。いやいや、そんなことを考えても絵に描いた餅だ。俺自身が楽しめないのだから。俺はうがいを終えたあと朝食を食べるために食卓に向かった。
朝食を終えたのは9時頃だった。いつもはちゃちゃっと済ましているのだがそうはいかなかった。この身体はどうも少食らしい。俺は歯を磨いたあと服を着替えるために自分の部屋に向かっていった。お袋の反応などからおそらく、男の俺に代わるように女の俺がいるようであるので、いつもは自分の部屋で着替えているから多分女物の服があるのだろう。まあ…気は向かないけれど。
クローゼットを開けるとそこには女物の服がズラリ!やはり俺の予想は大当たりだった。テストのヤマは当たらないくせして嫌な予想は当たりやがる。しかし俺は約束を守る男だ!着替えてやろうじゃないか!そう思い、服を脱ごうとするが緊張で手が震える。ええい、ままよ!
バサリ、と服が地面に脱ぎ捨てられる音がした。
「あっ…」
当たり前と言ったら当たり前なのだが、服の下には下着がある。部屋に置かれていた鏡に下着姿の俺が映る。思わず目を背けてしまった。…どうでもいいが縞だった。
「おほんおほん、自分のカラダなんだし、その上着替える必要があるんだし仕方ないよね!」
仕方ないものは仕方ないのだ。なので鏡に向かっていろんなポーズをしてみた。
しかし、最初は気持ちが高揚していたがだんだん落ち着いてきた。自分の身体なんだから普通は普通なんだろうけども、健全な男子としてはおかしい気がする。
…しかしホントに胸がないな。そう思い自分の胸に手を当てた瞬間、経験したことのない感覚に襲われた。
「っ!?何なんだこの感覚は!」
心拍数が上がる。い、いかん、手の動きが止められない…。なんだかカラダが火照ってきた。ダメだ、こんなことをしていたら…。んっ、息遣いが荒くなってきた。
ピロリン
これ以上ヒートアップしたらまずいという時に携帯に着信が来た。
「はっ!」
その音で俺は我に帰った。危なかった、一線を越えるところだった。超えてしまったらもう戻れない気がする。だから超えたくはない。
届いたメールを確認するとどうでもいいようなマガジンメールだった。ありがとう!どうでもいいようなマガジンメールよ!どうにか一線を留まることができた!!
「…こほん」
俺は早まった鼓動を落ち着かせながら服を着替えた。服は今の自分に似合うそれっぽい服を着て、なんとなくニーソを履いた。多分、サービスだ。
現在の時刻は9時55分。あいつの部屋も同じ棟にあるからすぐにつく。つまり丁度良い時間だ。
「じゃあ行ってくるね!」
俺は元気よくあいつのところに行ってくるっとお袋に言った。
「彼氏のところかい?」
んなっ、俺にはそんな趣味はない!お袋ォ!
「もうっ!からかわないでよ!」
「うふふ、いってらっしゃい」
俺はうん、と返事をして部屋を出た。しかしまあ、外から見たら男と女だしそうもいじりたくなるなるかもな。女になって初めてじぶんちから出るからだろうか。それとも女の子の姿であいつに会いにいくのが恥ずかしいからだろうか。少し顔が赤くなるのを感じつつ、あいつの部屋に向かった。