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 突然赤紙を押し付けられ、「徴兵」されたと思いきや――?

 ○



 機体前部に、戦車の主砲に匹敵する百二十ミリキャノンを装備し、更には対人攻撃装備として『目線だけで人を殺せる』という謳い文句で開発された、銃手の視線を自動追尾し、「思う」だけで掃射できる生体データリンク対応型機銃。対空装備として機体側面に他連装ミサイルランチャーを搭載したそれは、もはやヘリと言うより、空中戦艦だった。

 拠点制圧用戦闘ヘリ、確か名前は『武器庫を運ぶもの(アーセナルキャリアー)』と言ったか。紛れも無く、一線級の最新軍事兵器。

 ついさっき、組に攻撃していたのを見たやつだ。

 なんとそれに今、俺は乗っているのだった。

「気にいらないヤツの家が見えたら、言いなさい」

 性悪女が、自慢気に言う。

「ボーン、と一発、やってあげるから」

 冗談、だろうけれど。

「……お前が言うと冗談に聞こえない」

「あら、自分の手で殺らないと気が済まないタイプなの? とんでもない人非人ね。いいわ、主砲のスイッチは――」

「……そんなことより」

 反論したかったが、こいつに何を言っても無駄だと言うことは短い付き合いながらも分かっている。俺は本題に入る事にした。

「どういうことだ、これは」

「どういうこと、とは、どういうことかしら?」絶対わかって言ってるなコイツ。

「俺をこんな軍事兵器で拉致していることについて、ちゃんと説明しろってことだ!」

 ていうか即刻解放しろ! と俺は付け加えた。憲法違反じゃないのか、これは。確か日本国民には身体の自由が保障されていたはずだ。まぁ俺は『国民』じゃないけど。ブラフとして。

「だから徴兵だっていったはずだわ」女は顎をそらしてツンと言う。

「そんなのが今の時代通用するか! 何人にも職業選択の自由が保障されている!」

「チンピラ相手には暴力、組織相手には法律なの。賢しいわね」

「適切な対応というものだ。さぁ、早く降ろせ。さもないとうるさい人権活動団体の事務所に駆け込むぞ」

「……」

 少し、物思うように天を仰ぎ、女は言う。

「正義の味方と言ったわね、お前」

「それがどうした。下手な時間稼ぎなら……」

「それで食っていけるの?」

「……」

 ぐさっときた。痛い所をつきやがる。確かに組からはなれ、絶賛求職中の身の上なのだった。

 女は俺の心情を読んだかのように、にやっと意地悪く笑う。

「金なら弾むわ」

「……いくらぐらいだ?」

「月三……いや四本だすわ」

「隠語じゃ分からん。具体的にいくらだ?」

「月額四十万円也」

「……」

 ごくん、と生唾を飲み込む音がしたと思ったら、それは俺が出した音だった。ちなみに今の時代、大卒初任給が大体八万円である。俺の先月の稼ぎが経費除いて十万円。なので月四十というのは、魂を売るのに値する悪魔的金額だった。

 悪魔が笑っている。

「しかも各種保険料、税金を天引きして四十。更に半期ごとに昇給のチャンスありで、なんとボーナスは夏、冬年二回。しかも社会の役に立つ、楽しくアットホームな職場です」

「……っ!」

 駄目押しをされた感じだった。この月給で社会保障までつくなんて、恵まれた環境過ぎて逆に怪しい。そうだ、何かヤバイ仕事に決まってる!

「生憎だが! 俺は真っ当に生きると決めたんだ……! 去れ! 悪魔め!」

「ほう、真っ当に生きたいと」

「ああ、正義の味方だからな」

「公務員よ、うちは」

「……」

 俺は再び、生唾を飲んだ。公務員。これほど真っ当な職業が他にあろうか――!

「聞いたわよ。お姉さん、脚が悪いんだってねぇ」

「……はい」

「保険があれば治療費もぐんと安くなるわねぇ。ああ、最近の義足の性能は素晴らしいと聞くわ。なんでも殆ど自分の足と変わらないほどだとか。まぁお金は掛かるけど。でも公務員ならローンも組めちゃったりするわねぇ、なんたって安定した職業だから」

「……」

「お姉さん、大事でしょう?」

「……はい」

「いい心がけだわ。恐らく世界で一番いい心がけよ。孝行をしたい時には姉はなし。できる内に姉孝行……しておきなさい?」

 すっ、と再びあの赤紙を押し付けられる。

 コイツが持っていると血で染めたようにしか見えない。

「悪いことは言わないわ。ここにぽんっとハンコおしちゃいなさい。ハンコがないなら拇印でいいわよ」

 俺は……。

 俺は……!

「ま、全ては契約書類見てからだな」

 すっと膝を詰めてきた女を押し戻し、冷静に言った。



つづく。


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