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Paintit,white 5

 所得税を200パーセントにされそうになった主人公は、昔話を語りだす。彼が正義の味方を志すようになった、その遠い日の因縁を。


 さて、なんだったか。俺が正義の味方になろうとした理由。いざ言葉にしようとすると、難しいものだ。

「多分なんだが」

「自分の事なのに?」

「自分の事だからって、分からないことだってたくさんあるだろ。これもそんな一つで、だから多分なんだが、俺は、別に正義が好きというわけじゃないんだ。ただ、悪がものすごく嫌いなんだな。天秤の一方が下がれば、もう一方が自動的に上がるように、俺は正義の味方に憧れたんだ……多分」

「へぇ、そう」興味無さそうにファナは相槌を打つ。全く。

「それにしても、どうして悪を嫌いになったの? 自分自身正真正銘性悪のゲス山ゲス野郎のくせに」

「特に性悪の部分とかお前に言われたくは断じてないんだが、多分、昔のテロのせいだろうな。十数年前、姉と一緒にやられたんだ。俺は姉さんが咄嗟にかばってくれたからこの通り無傷だが、姉さんは足を無くした」

「……待ちなさい」

 女は、口元に手を当てて神妙な顔つきをした。まぁ足は止めないけれど。

「ちょっとその話、もっと詳しく聞かせなさい」

「テロの話をか?」

「ええ」

 なんでそんなとこに食いつくんだか。特に珍しい事でもないだろうに。

 まぁいいか。俺が話しているうちは、こいつの悪口を聞くこともない。

「姉は……確か国連だったかな? 昔の事なんで記憶が曖昧だが……まぁどっかの国の研究機関の、日本支部職員でさ。うちは両親もいないから、俺は姉の職場にある養護施設で暮らしてたんだ。けどそのころちょうど、外国人排斥運動が盛り上がってたろ? その研究所も、国際団体だったから目を付けられてな、民族系テロ組織の襲撃を受けたんだ」

 話しているうちに、そのときの光景がありありと蘇ってきた。

 襲撃はそう、姉さんが俺を見に来ていたのだから、昼休みの事だった。俺と、姉さんと、あと誰か。三人で、柔らかいクッション性の床の遊戯室に入って、遊んでいた。辺りには同じように遊ぶ子供達がたくさんいて、白衣のまま遊ぶ姉さんを不思議そうに眺めていた事を覚えている。

 いや……違う。

 あれは確か、怖がっていたんだ。白衣を来た研究員は、皆になぜか、恐れられていた。俺と一緒に遊んでいた子も、姉さんをとても警戒していて、俺が何度大丈夫だと言っても、聞き入れてくれなかった。それでも、その子は俺にひっついて離れようとしなかったのを覚えている。少し年上だったから、守ってくれようとしていたのかもしれない。

 そんな時だ。

 乱暴に扉が開かれ、武装した数十人の男達が入ってきたかと思うと、いきなり銃を乱射し出した。

 それは一瞬の出来事で。

 目標も定めず、気の向くまま、まるで遊んでいるみたいに、弾丸を躍らせた。

 声を挙げるまもなく、皆が細切れになっていったのを覚えている。子供ながらに、何をしているんだ、こいつらはと思った。意味が分からなかった。こんな大した脅威でもない子供に、まるで一人たりとも生かす気はないかのよう。対等、いや、不意をつかなければけして倒せない強大な敵と対峙しているような、それは必死で執拗な攻撃だった。まるで、正気の沙汰じゃない。

 狂ってる。

 身を挺してかばってくれた姉の肩越しに、俺は見た。

 悪人の顔。

 漆黒のオールバックに、特徴的な眠たそうな瞳。非常に若いが、あきらかに、その凶行を指揮しているのはヤツだった。俺はその顔を胸に刻んだ。吐き気を催すような、強烈な悪への嫌悪とともに。

 アイツだけはいつか殺す。

 もう死んでいたら、墓を暴いて飽きるまで踏み砕く。

 意識していたわけではなかったけれど、多分そうなのだろう。俺は、アイツと対極の人間になりたいから、正義の味方を志したのだ。

「なるほど、大当たりと言うこと」

 暗い思い出を回想していると、女がポツリとこぼした。意味は分からない。

「気に入ったわ、お前」

「そりゃどうも」

 女は唐突にごそっとスカートの中をまさぐったかと思うと、赤い紙切れを取り出した。

「あの……これ……受け取ってください」

 そして何故か顔を紅潮させながら、おずおずと女が差し出したそれは手紙だ。こんな態度で渡す手紙といえばラブ・レターである蓋然性が極めて高い。赤は情熱の赤ということか。 しかし……この変貌ぶり。これが世に言う『ツンデレ』というものなのか。その変わり身の速さと落差は、可愛いと言うより気色悪かった。

「というかだな、そんな押し付けたって俺は手がふさがってるから読めないぞ」

「ふん、無知ね。読む必要なんか無いわ。赤紙と言ったら、その内容は決まってるじゃないの」

 既にデレは――

「はぁ?」

 雲隠れしていた。

「いいこと」

 咳払いを一つして、精一杯威厳をとりつくろった低い声で、女は吐き出す。

 衝撃的な、言葉を。



「現時刻を持って――国連軍がお前を徴兵する」


 

 やっぱりだけどこいつ、イカれてたか。


つづく。




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