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Paintit,white 3

 逃げ出した先の路地で、主人公は謎の「口が悪い」女と出会う。外見や話し方からして、『貴族階級』に属しているようだが……?

「愚問。見て分かりなさい下郎が」

「……」




 発作的に指がトリガーを引こうとしたが、すんでのところで止める。

「そういえば、いつまでこの私に銃を向けているの。もしかしてお前、神に仇なす心算つもり?」

「……そんな性根の腐った神がいてたまるか。しかしまぁ、君に照準してると衝動的に撃ち殺してしまいそうで怖いから、その通りにはしよう」

「ふん、ツンデレね」

「ツンデレでは、ない」

 ただの素直な心情の吐露だ。

 はぁ。俺は一つ溜息をついて、気持ちを落ち着かせる。よく考えれば、冗談をやっている場合ではないのだった。ここは一つ、大人の対応をしよう。

「で、貴族様がこんなところで何をされているんですか。ここは女性が一人で歩ける場所じゃありませんよ」

「はいそれセクハラ。つぎは法廷で会う事になるわね」

 ふふんと得意げに笑う女を見た時、内側から血管が切れる音がした。

「あーもう黙れ」

「きゃっ……」

 大人どころでは無い。ブッダでも顔に青筋が浮かぶレベルの態度に、俺は対話を諦めた。女の小柄な体を持ち上げ、走り始める。

「なにをするのかこの色魔が。さっさと降ろさないと、一生監獄で尻の痛みに耐えながら暮らす事になるのだわ」

「具体的に最悪な処罰だな。だが安心しろ、ここで何が起ころうが決して日の目は見ない」

「きゃーおーまーわーりーさーん」

「なんだそれ? そんな幻想生物はついぞ見た事が無いな」

 にしてもこの女、余裕だった。俺がさっきから親切にも不安を煽ってやってるのに、全く声に切迫した感じがない。

「しかしお前、よく人間一人抱えてこの速度で走れる物ね。鍛えているの?」と女。

「体ができてないと、ナメられるからな」

「どこを舐められるのかしら」

「は?」

「そうね、具体的に聞かれると恥ずかしいものね。なら、抽象的な質問に代えてあげる。下腹部のどの辺をゲイにねちっこくペッティングされるの?」

「寧ろ具体化してるようだが」

「いいから具体例を交えながら4000字以内で述べなさい。但し以下に示されたキーワードを文中に必ず使用しその箇所に下線を引くこと。ホモ・ゲイ・ネコ・タチ・筋肉・……」

「黙れ」

「あら、誰か来たようね」

 俺は今、この腐れ女を横抱き……つまりお姫様だっこしている。なので、ヤツの視界は上に向いていて、前方の様子が俺より分かるはずはないのだけれど、ヤツはそんなことを言った。またつまらない冗談か――とも思ったのだが、

 念のためじっと目を凝らすと、前方に人影があった。

 即座に女を降ろして、身を屈める。距離がまだ遠い為か、幸い向こうはまだこちらに気付いていないようだ。

 ……いや、寧ろ気付かないのが当然なのだ。

 こんな暗がりで、しかもこの距離、人間が探知できる状況じゃない。

「なんで分かった。見えてないはずだぞ」

 落とした声で聞くと女は曇天を見上げたまま、吐き捨てるように言う。

「お前達は眼に頼りすぎなのよ。この劣等種が」

「……もしかしてお前」

 女は顔をこちらに向ける。改めて見ると、女の瞳は異常なほど澄み切った赤色をしていた。それはまるで、何も映していないような。

「それはどうしたんだ。生まれつきか?」

「どうだっていいでしょう、そんなこと。好奇心は猫を殺すわよ?」

「俺は猫じゃない」

「お生憎様、私は目が見えないので、お前が猫じゃないかどうか判断できません。そうね、猫じゃないなら、その証拠に『猫じゃないにゃあ♪』と鳴きなさい」

「猫じゃない……」

 そこで気付いた。それは寧ろ猫な証拠だと。そして今が冗談やっている場合じゃないことにも。

「まぁいいや、ちょっとここで待ってろ」

「見捨てる気ね、この鬼畜」

「そんなつもりはなかったが、今それもいいかと思ったな」

 けれど、正義の味方だからな。悔しいが助けてやろう。

 じりじりと、戦意を悟られないように前方へと進む。とりあえず正義の味方としてはいきなり撃ったりしないが、この路地で行き会う時点でかなりダウトだ。さっきもいったように、そもそもマトモなやつならこんなところ通らない。ここを通るのは狂人か、度を超した馬鹿しかいないのだから。

 馬鹿なら話しようもあるが、狂っているなら……。

 十メートルまで距離を縮めて、ようやく人影の正体が分かった。なんだ、怖がることは無い。それは知り合いだった。

 マサとジェイミー。いつも連れ立って歩いているチンピラだ。何回か組で使った事もあるし、その人となりは知っている。近づいていくと向こうも気付いたようで、笑顔で手など振り出した。

 ――チャンスだった。

 俺は腰に突き差していたサブマシンガンを手早く取り出し、銃身を水平に構え、薙ぐように鉛弾をバラ撒く。通称馬賊撃ち。例えるなら足で雑巾がけをするのに近いだろうか? お世辞にも行儀の良い撃ち方じゃない。しかし、発射の反動で勝手に手が横にブレるので、トリガーを引いているだけで範囲射撃が行え、狙撃が下手な俺にとっては十八番の射撃法だった。排出された薬莢が胸にぶつかって痛いのが玉に瑕。

「ちょ……兄貴……」

 掠れたマサの声が聞こえた。

 そう、弾をばら撒くだけでは致命傷にならないことも多い。ここで大事なのが、無力化したら忘れず止めを刺すということ。恨みを買うくらいならきっちり殺しておくほうが自分の為であり、彼のためでもある。

「往生しろよ」

 脳天に一発、今度は拳銃で撃つ。多分もう死んでるが、脇で寝ているジェイミーにも念のため。プスっと針を刺し込むような音を立て、制音装置付き拳銃は弾丸を吐き出した。

「成敗」

 ぽつりと決めゼリフを呟き、正義の味方っぽく演出した。安全を確認したのち、急いで女を拾いにいく。ああなんて正義の味方なんだろうか今の俺。しかし、まだ油断するな。銃声を聞いて、血気盛んなバトルジャンキーがよってくるかもしれない。

 女は何故かまた仁王立ちして待っていた。

 そして何故かさっぱりとした笑顔で、口を開く。


「清々しいほど――外道ね」


つづく。


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